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第9話 奈落の宝探し。誰もが忌避する高濃度汚染、それこそが俺の求めていた『不良債権』だ

徴税官を撃退し、スラムでの自由を勝ち取ったレン。しかし、それは「マイナスがゼロになった」に過ぎません。次なる一手は、プラスを生み出すための「仕入れ」。彼が目をつけたのは、誰もがゴミと断じるスラムの最深部でした。さて、今回の取引は――命知らずの「不良債権」拾いです。

徴税官ガストンが逃げ去った翌日。

廃棄物処理場の空気は、劇的に、そして奇妙なほど静かに変化していた。


ゲートをくぐると、昨日まで俺に向けられていた「蔑み」の視線が消えている。代わりに肌を刺すのは、腫れ物に触れるような「畏怖」と、得体の知れないものを遠巻きにする「警戒」だ。


「……計算通りだが、居心地は良くないな」


俺は呟き、鉄の鉤爪を握り直した。

ガストンという「共通のプレデター」を撃退したことで、俺はこのスラムの生態系の中で「異物」から「捕食者の一種」へとランクアップしたらしい。誰も俺の選別作業を邪魔しようとはしないし、割り込みもない。


「――解析アナライズ。作業効率、三割向上。ストレス係数、低下」


俺は黙々と鉄爪を振るう。

邪魔が入らないというのは、素晴らしいことだ。思考のリソースをすべて「探索」に割り振ることができる。


俺は浅い層のゴミ山に見切りをつけ、処理場の最奥――通称『奈落』と呼ばれる区画へと足を進めた。

そこは、王都から排出された廃棄物の中でも、特に処理困難な「危険物」が投棄される場所だ。魔力汚染がひどく、普通の屑拾いは近づこうともしない。


「……ここなら、まだ『手つかずの資本』が眠っている」


腐った卵の臭いと、焦げた金属臭が混ざり合う。足を踏み入れるだけで、肌がピリピリと不快な熱を持つのは、漂う余剰魔力のせいだ。

普通の人間なら数時間で体調を崩すレベルだが、俺には『解析』がある。


「魔力濃度マップ展開。安全ルートを解析アナライズ


視界に赤い警告色が点滅する。俺はその隙間を縫うように、慎重に、しかし迷いなく進んでいく。

狙いは、単なる銅線や真鍮ではない。もっと、ハイリスク・ハイリターンな「不良債権」だ。


一時間ほど探索を続けた頃、視界のグリッドが一箇所で激しく反応した。


[ 警告:高濃度魔力反応 ]

[ 推定リスク:ランクD(生命に影響あり) ]

[ 推定市場価値:測定不能エラー ]


「……エラーか。面白い」


俺は足元の汚泥を、慎重に掘り返した。

何層にも重なった腐食したドラム缶の隙間。そこに、黒い油紙に包まれた「それ」はあった。


引きずり出したのは、歪んだ金属の塊だ。

一見すると、ただの溶けた鉄屑に見える。だが、「解析」のモニターは、その内部で渦巻く異常なエネルギーを捉えていた。


「……『魔導コンデンサ』の残骸か。それも、軍用級の」


かつて王都の研究所で爆発事故を起こし、廃棄された失敗作だろう。

内部には制御を失った魔力が暴走状態で封じ込められている。触れれば感電死、あるいは魔力中毒で廃人コース。まさに、誰もが忌避する「呪われたゴミ」だ。


だが、俺の口元には微かな笑みが浮かんでいた。


「……素晴らしい。完全な『負債マイナス』だ」


一般の市場原理では、これは処分コストのかかる産業廃棄物に過ぎない。

だが、俺の『等価交換エクイバレント』は、このマイナスをプラスに反転させる可能性を持っている。

巨大な負債リスクがあればあるほど、それを清算した時の利益リターンは跳ね上がる。それが商売の基本だ。


「……拾うぞ。これが、俺の最初の『仕入れ』だ」


俺は防水布を何重にも巻き付け、その危険な塊を慎重に背嚢へと収めた。

背中に感じるズシリとした重み。それは単なる質量ではなく、死と隣り合わせの「機会チャンス」の重さだった。


『奈落』を出る頃には、日は高く昇っていた。

すれ違う屑拾いたちが、俺の膨らんだ背嚢を見て怪訝な顔をする。だが、誰も声をかけてはこない。彼らには、俺がただの鉄屑を拾ってきたようにしか見えていないだろう。


その認識のズレこそが、利益の源泉だ。


「……さて。仕入れは済んだ。次は『加工』と『販売』だ」


俺は誰もいない裏路地を選び、足早に拠点へと戻る。

心臓が早鐘を打っている。それは恐怖ではなく、これから始まる「大博打」への高揚感だった。手に入れたのは、爆弾同然の不良債権。だが、これを飼いならせれば、スラムの常識を覆す資本が手に入る。


俺は安宿の扉を潜り、湿った階段を駆け上がった。

戦いのフェーズは、ゴミ山から、俺の掌の上へと移行しようとしていた。


見つけたのは、爆発寸前の魔導コンデンサ。常人なら触れることすら躊躇う危険物ですが、レンにとっては「莫大なエネルギーを秘めた原石」です。リスクとリターンは表裏一体。この危険な賭けに勝てば、彼の天秤は大きく傾くことになるでしょう。

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