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第6話 二月夜

 次の瞬間、目の前に、見慣れた秘果の顔があった。 


「……え? 秘果、さん?」

「ちゃんと俺を呼べて偉いね、蜜梨ちゃん」


 柔らかイケメンフェイスが、優しく笑んだ。

 秘果が蜜梨の胸の手をあてた。


「俺の導仙に何をしている。お前程度の凶では蜜梨は奪えない」


 いつもは笑んでいる目が、黒い靄を鋭く睨んだ。

 あたった秘果の手が、蜜梨の胸の中に沈み込んだ。


「! ……っ。痛く、ない。けど、……ぁんっ」


 秘果の手が黒い靄を掴んで、ずるりと引き抜く。

 手から発した白い光が、靄を包み込んだ。

 黒い靄が白い光に飲まれて消える。

 チリの欠片も残さず消えた瞬間、胸の重苦しさが、すっと消えた。


「ぁ……、はぁ……、息が、できる」


 大きく深呼吸する。

 やけに呼吸が早くて、息が吸えていなかったんだと気が付いた。


「蜜梨ちゃん、大丈夫? 他に辛い所はない?」


 秘果が蜜梨の体にペタペタと触れる。


「辛くは、ないけど。この鎖の拘束が、精神的に辛いというか」


 じゃりっと腕を持ち挙げる。

 血が滲んで、枷が当たると痛い。

 秘果が手を当てて、白い光を発する。

 傷が瞬く間に治った。


「ぇ……」


 その光景を、呆気にとられて眺める。


「その拘束は、封じの鎖でね。蜜梨ちゃんの中に仕込まれている凶玉を抑え込むのに必要なんだ。放置すると今みたいに凶が暴れ出して、蜜梨ちゃんを食い潰すから」

「凶が、食い潰す……? ていうか、秘果さんは、何者? 陰陽師的な人?」


 恐る恐る問う。

 たった今、目の前で起きたオカルト展開は、普通の人間には不可能だ。

 信じ難いが、この目で見た以上、否定も出来ない。


(手枷とか鎖とか、とりあえず拘束プレイ用ではなさそう。いやまだ、わかんないけど)


 混乱しながらも、ちょっとだけ安心した。

 貞操的な部分の危機はなさそうだ。

 むしろ、蜜梨が考え及ばない危機のほうが怖い。


 蜜梨の顔を眺めていた秘果が、がっかりした顔をした。


「ここに来る前、ちょっと思い出したのかなって思ったけど。また戻っちゃったね」


 蜜梨の両手と両足の怪我を直しながら、秘果が全身を隈なくチェックする。


「思い出したって、何を?」


 蜜梨の問いかけに、秘果が苦笑した。


「蜜梨ちゃんは、ゆっくり思い出してくれたらいいよ。この場所で生きるのに必要な知識は、俺が教えるから、心配ない」

「この場所で? どういう意味?」


 秘果が立ち上がり、部屋の障子戸を開けた。

 穏やかに晴れた夜空が広がる。


「え……、月が、二つ?」


 見慣れた夜空に、月が二つ、上がっていた。


「今宵は:二月夜(ふたつきよ)だね。桃源は太陽も月も二つあるけど、基本は一つしか空に昇らない。月が二つ上がるのは、吉兆の印なんだ」


 秘果の顔が、外から蜜梨に向いた。


「この国は:桃源(とうげん)といってね。神獣や瑞獣と呼ばれる、神に連なる生き物が生まれ育つ国だよ」

「桃源……」


 初めて聞く国名だし、まるでファンタジーの世界の話だ。


「今宵が二月夜なのは、蜜梨ちゃんが桃源に戻ってきたから」

「俺が、戻って……?」


 秘果が蜜梨の隣に腰を下ろした。


「蜜梨ちゃんは元々、この国で生まれた半神族だ。:導仙(どうせん)という、:五色(ごしき)の竜をサポートして番になる存在なんだよ」

「番って、伴侶? てか、俺が半分神様?」


 まるでファンタジー小説や漫画の話をされているようで、とても自分事には思えない。

 秘果が蜜梨の頬を、そろりと撫でた。


「五色の竜は、この桃源を凶から守る神獣なんだけど。導仙を得ることで、より強い力を発揮して、進化する」

「進化?」


 もはや言葉を繰り返して質問を投げることしかできない。

 何もかも、知らないことばかりだ。


(だけど、なんだろう。拒否感はないというか。知らないしビックリだけど、否定しようとは思わない)


 ただ、理解が追い付かない。

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