第2話 腐男子友達
五十鈴川蜜梨、男性、二十三歳、看護師一年目。
趣味はBL、同人誌を書くのも読むのも好き。商業誌も大好きな腐男子である。
物心ついた時には両親はなく、施設で育った。
面倒見が良い施設長のお陰で、二十歳までおいてもらえた。
その間にめちゃめちゃバイトして、看護学校まで無事卒業できた。
二十歳の時から始めた一人暮らしのボロアパートは、居心地が良いので就職してからも住み続けた。
BLにハマったのは、施設の姉ちゃんたちの影響だった。
自分で同人誌を書き始めたのは、アパート暮らしを始めてから。
だから、誰にも打ち明けない秘密だった。
ちょこちょことイベントに参加したり、SNSにイラストをアップしたりはしたけど、交流は少なめ。
バイトや学校で忙しくて、更には読む方が忙しくて、描くための時間がなかなか作れない。
一年に一冊、出せれば上出来な同人誌は基本、サイトにアップするか通販が主で、イベント参加は基本、読専だ。
普段はSNSに描いた絵を時々、アップする程度。
だけど、描いた絵に必ず♡してくれる人がいた。
いいねをくれるHIMIさんが同じ腐男子だと知って、かなり浮かれた。
DMのやり取りが増えて、歳が近くて、住んでいる場所も近いと知った。
やり取りを初めて半年くらい経った頃、HIMIさんから会いませんかとお誘いが来た。
かなり悩んだ。
そもそもSNSは自分にとってバーチャルで、リアルにしたくない。
スマホの画面の中でだけ、仲良くできればそれでいい。
だけど、この時は何故か、会ってみたいと思った。
いつもなら絶対に湧かない感情だ。
そんな自分に戸惑った。けど自然と、会ってみようかな、と思った。
むしろ、会うべきだと思った。
特に根拠はないけど。
BLの好みも合うし(ハピエン派、ソフトSM、和物ファンタジー、人外、地雷なし等々)、ちょっと気が緩んだのかもしれない。
誰かに会ってみたいなんて、初めて思ったから、そんな自分への興味でもあったかもしれない。
昔から、人と深く関わるのは苦手だし、友達が欲しいとも思わない。
人間とは、極力距離をあけたい。
物心ついた時から、この感覚は今でも変わらない。
だからこそ、初めて湧いた他者への興味は大事にすべきかもと思った。
自分的には、かなり思い切ったと思う。
ドキドキしながら会いにいったHIMIさんは、どちゃくそイケメンなお兄さんで、心臓が壊れるかと思った。二個しか上じゃないのに、めちゃくちゃ大人だった。
背が高くて中性的なモデルみたいな人で、驚くというか、引いた。
彼の名前は御厨秘果といった。
容姿も名前も、もはや神々しい。
緊張しまくりだったけど、BL話はSNS以上に盛り上がった。
それからも何度か二人でオフ会をした。
会うたびに、秘果さんを知るたびに、どうしてか懐かしくて、心が解れた。
もしかしたら、いや、きっと。
誰よりも心を許していたんだと思う。
笑顔が柔らかくて、全体的な雰囲気が優しい、包んでくれそうな彼の雰囲気に、甘えていたんだ。
だから、部屋が水浸しでスマホも使えずにテンパったあの時も、一番最初に浮かんだ名前が秘果だった。
秘果に助けて欲しいと、無意識に思ってしまった。