表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/33

第1話 気が付いたら手枷足枷

 真っ暗い空間に、水が滴る音だけがやけに鮮明に響いていた。

 色素の薄い髪色をしたの男の子が泣いている姿が見えた。


蜜梨(みつり)ちゃん、どこ? いなくならないで。俺を一人にしないで」


 とても悲しそうに、心細そうな声が響く。


 手を伸ばしたいのに、伸ばせない。

 ここにいるのに、声も出せない。



 ――――――あの子はどうして俺の名を呼んで、泣いていたんだろう。



 幼い頃から幾度となく見続けた夢から覚めて、蜜梨は目を開いた。

 

「あれ……、ここ、どこだ……?」


 見慣れない和室に、布団が敷かれている。

 起き上がろうと思うのに、動けない。

 腕が持ち上がって、頭上で拘束されている。


「なんだ、これ……」


 手枷で拘束されているのが、肌の感覚でわかった。

 下肢に目をやる。足首にも枷がされて、拘束する鎖が見えた。


「は……?」


 顔を上げたら首にも鎖が巻き付いているのが分かった。

 手も足も枷と鎖で拘束されて布団に寝かされている。

 通勤着だったはずの服は、やけに立派な着物のような服に変わっている。

 普通の状況じゃない。


「拉致? 誘拐? 何で俺が、監禁されんの?」


 そういえば、ここに来る前は何をしていただろうか。

 蜜梨は必死に自分の記憶を探った。


(仕事……は、急患が運ばれてきたから、いつも通り残業で。やっと帰ったら、アパートが水漏れで部屋中、水浸しで……)


 蜜梨の心に焦りが浮上した。


(そうだった。前代未聞な不幸のビックウェーブに飲まれてたんだっけ、俺)


 アパートの水漏れで部屋が使えず。

 職場に戻ろうにも強風で電車が止まり移動できず。

 誰かに連絡しようにもスマホの充電が切れて。

 風が強すぎてコンビニにすら移動できず。


(こんな不幸って、ある? 何より部屋に置いてあった俺の同人誌が、グッズが、宝物たちが全部、お亡くなりになったのだと思うと)


 自分が書いた同人誌の被害も辛いが。


(何年も前から買い集めた神作家様たちの神作品コレクションも水浸し……。同人誌は生モノなのに! 同じ本はもう二度と手に入らないのに!)


 今でこそ腐男子に対する女子の目も優しくなったが。

 ほんの数年前までは、イベントの壁サに並ぶ時だって、好奇の目に晒されながら針の筵に血反吐を吐きながら買いに行く意気込みだった。

 愛ゆえの精神力と行動力の末に手に入れた宝物たちが、水没した。


(乾かしたら何とかなる……、よれるよな。もう元には戻らない……。せめて読める状態まで何とか戻したい)


 悲しみの涙を流しながら、改めて自分の姿を見える範囲で確認する。


「手枷足枷に鎖とか、もはや俺自身がBL同人の拉致監禁調教凌辱プレイ秒読み待機状態じゃん。モブレ確定じゃん。今日って何なの、訳わかんなすぎて、もうやだ……」


 過去にも今にも未来にも希望が見出せな過ぎて、不安で吐きそうになる。

 

「素敵な王子様でも、優しい人外でも、何でもいいから救世主が現れてハピエン希望……」


 言ってみたが、有り得な過ぎて泣けてくる。

 大好きなBLで不安を誤魔化してはいるが、現実的に考えて普通に命が危ないシチュだ。

 かといって、逃げることもできない。

 状況も全く理解できない。

 どうしようもなくて、蜜梨は一先ず目を瞑って現実逃避した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ