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チューインガム

久しぶりにバスに揺られて出勤をした。


三日分の無断欠勤ペナルティとして九千円の罰金を支払い、こんなお金を支払ってまで私はここにいたいのかと他人事のように不憫に思う。


一年も勤めるミヤビさんを重鎮だの大御所だのと揶揄っていた私が、不真面目な形でも四か月目を迎える。

「よっ大長老」にいよいよ迫っている訳だけれど、その場合、確かにもうあまりエースも付かず控室でまったりゆったり私との会話だけを楽しんでいるミヤビさんのことは何と呼べば良いのか、ラスボスか。

今日が体験初日であると話すショートヘアーの新人の折れそうな太ももと揺れるプリーツスカートを眺めながらそんなことを思っていた夕方。


新規客の一番扉を開けるとベッドの上に今にも消えて無くなりそうな人間が小さく座っていた。


土曜に会うはずの無い、平日にしか会わない、昨日も会った、

三峯教員、だった。



ジャージ姿を見るのは初めてであるが、初めて見た感じのしないほど草臥れたジャージは高校時代の私のそれに似ていたので、初めてという感情が消えて懐かしいという感情だけが残り、幼い頃に噛んだチューインガムのイチゴ味が口いっぱいに膨らんだ。


三峯教員は私の姿を捉えた瞬間、右の眉毛をぴくりと動かした。

それを見逃さなかった私は、いや私が生徒だという事に気が付いているのかは定かではないけれど、きっと私は自分の眉毛こそは隠そうと小走りで近付き、右のそれに人差し指を這わせながら、大丈夫。別人ですよ、と囁き、唇を重ねた。


硬くて、薄くて、冷たい唇。


頬にそっと手を添えた時、どうしてでしょう、ミヤビさん、私の手は小刻みに震えていました。


「人間がそれぞれ独立した存在だと知りながら、しかし、いまだ完全に結ばれることのない存在であることを知り、それを恥じるのです。恥じても、罪の意識を感じても、それでも恥より罪より何よりも強く覚えている快感に手を染めてしまうのが人間である証拠です」


そう語った三峯教員の肌は今、快感というものを感じているのでしょうか。快感というものを感じることはあるのでしょうか。


私とは無縁な快感というものに、どこか私の知らない世界で手を染めそれに縛られて、今ここに来たのでしょうか。三峯教員にとっての快感というものは、相手に拘り無いのでしょうか。


銅像のように動かない体の奥底に、合わない目の奥底に、しかし確かに聳え立つ男性器を口の前に、夜のしじまを切り裂くように嘶いた。


そうして二倍速再生のような情事を終えると、三峯教員はシャワーも浴びず会話もせず、粘液を付着させたままパンツを履きズボンを履き上着を着て、「もう帰るんですか」という私の声と、残り時間二十分を小走りでドブに捨てた。


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