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序章
その蛞蝓は、
両親以外にまだ誰も触れたことの無い私の唇の上を、ゆっくりと、しかし確実にねっとりと這い回った。
そうして唇に放出された生温かい汁は、口内を通り首筋を突き抜ける。腹に重くのしかかる。
血管を辿ってヘドロのように、肺へ胃へ肝臓へ大腸へ小腸へ。
そして、子宮へ膣へと駆け回った。
無理矢理に開かされた足からも、出ては去りを繰り返す。
それから暫くして、びりりと音を立てた心臓と共に遂には私の全てになった。
そして確かにそこにあったはずの麗しく澄んだ皴の無い心だけがてんでに、今以て行方知らず。
こうして私は、たった体ぼっちになりました。