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明るい未来を抱きしめて 改訂三版  作者: ある自殺志願常習者
1. 中学生時代
7/25

1-1.経緯(5)

 少し前、ある行事のために貼り出すポスターというか飾りというかを学校で作っていたとき。教室で机をくっつけてスペースを作り、その上にB紙をいくつも広げていた。


(改訂三版における注:

 B紙とは、一般的には模造紙と呼ばれる、ロール状に巻かれて売られている大判の紙のことであって、私の伏せ字や造語ではない。最近になって、方言だと知った。しかし、ここで著者が選んだ彼女の仮名が響いているというのは、辛辣な皮肉と言わざるを得ない。執筆当時には気づいていなかったようである。あるいは、気づいていたことを忘れている)


 そこで何を作っていたとか、細かい部分はどうでもいい。結果的に重要なのは、同じところで作業をしていた人の中に、Uくんがいたということ。他にも何人もいたけど。ちなみに、Bさんはいなかった。

 私も彼も、たいして熱心でも、サボっていたわけでもなかった。空気を読みながら成り行きに任せているという感じ。ついでに、別にUくんの存在を意識してもいなかった。ああ、この人も同じ班にいるんだな、というくらいで。向こうも同じか、それ以下だったと思う。

 さて、その作業が一段落して、散らばったハサミだとか紙やテープの切れ端とかのりとかペンとかを片付けていたとき、机に置いていたはずのあのクリアファイルが、見つからないことに気づいた。というか、このあたりに置いたはずだと思っていたところに、いつの間にか紙が積み重なっていて、別のものを片付けた後に取りに行こうと思って戻ったら、その紙の山そのものがなくなって、机が顔を出していた。

 私はこういうときにわめくようなタイプではなく、代わりに、黙ったまま行動がおかしくなる。まだ机に残っていた紙を引っかき回して、手がかりも何もないのに教室を出て、廊下を歩いて、どこに行きもせずに戻ったり、その日に入ってもいない教室に行って、入り口で引き返したり。

 何か声をかけてくる人もいたけど、何も説明しなかった、というか、何も答えなかったから、誰にもわけが分からなかったと思う。ため息と顔の熱さと息苦しさと涙のにじむ目とお腹の奥が引きつるような感じというお決まりの状態。何回経験しても、嫌な味しかない。何回も経験している私。

 しばらくそんなままでいて、やっと多少落ち着いてきて、残っているのはため息くらいになった頃、何がどうなってそうなったのか、とにかく最初の教室の隅に私はいた。戻っても、事件は何も解決していなかったけど。私にとっては事件だった。他の人にとっては、意味不明な事態。

 とにかくそんな状態で、その作業の時間が終わって移動することになり、他の人がだいたい出て行った後、私もやっと立ち上がって、ふらふら歩き始めた。そのときに、


「これって、平島さんのじゃなかった?」


 と、Uくんがこのクリアファイルを差し出してきた。

 何が起きたのかを呑み込むのに相当な時間がかかって、やっと理解した頃には、つまりその日の帰り道くらいのことだけど、Uくんに対する私の気持ちは、それまでとは真逆になっていた。自分でも単純だとは思う。でも私にとっては重要なきっかけになっていたのだから仕方がない。

 私にとって重要なのは、彼がどこからか、つまりたぶん机の上に散らばって重なった紙の間から、もしくは、それが放り込まれた紙の分別用の箱だかゴミ袋だとかから、このクリアファイルを見つけてくれたということ――ではなかったりする。確かにそれもそうだけど、もっと大きいのが、これが私のものだというのを、知っていたというか、覚えていたということだった。

 考えてみれば、確かにこれを買ったとき、Uくんは同じ班にいた。このことは間違いない。そしてそこで、何か話したような気がする。そのデザインについて、一緒に驚いたり喜んだり、見つけた私を褒めたりしたような気がする。はっきりしない。だから、話を大げさにするために、後付けででっち上げた記憶なのかもしれない。でも、そういうようなことがあったんだろうと思う。

 このクリアファイルについて、誰にも何も言われなくなってから長い。というか、買った後に何か言われたことが、そもそもなかった気がする。別に私も見せびらかしたりしなかったんだから、当たり前だけど。そのせいで、こんな出来事と、その当事者のUくんが、強く印象に残ったのかもしれない。

 と、いうふうに、一週間くらいの時間をかけて、私は理解した。で、Uくんのことを好きになったというわけ。

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