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明るい未来を抱きしめて 改訂三版  作者: ある自殺志願常習者
2.大学生時代
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2-3.なぜやめたか

・なぜやめたか


 理由はない。少なくとも、名指すことができるほど明確な理由は。

 きっかけが複雑で、様々な要因によるのだったら、やめるのも同じように曖昧だとしても自然なのかもしれない。それでもあえて分解してみる。

 まずは大学の試験が全部終わって、単位も落とさずに済んだということ。単純極まりない。あんな計画を立てておき、私を殺すはずのトラックがうるさくがなり立てながら走り去っていくのを聞きながら勉強をするというのは、本当に最悪の経験だった。冷房がろくに効いていない大学の図書館の方がマシだと言えなかったせいでこんなハメになったけれど、とにかく終わった。

 そしてもう一つは、ある意味ではあの最悪の環境のおかげで、最初の彼氏との別れを、ある程度忘れることができたということ。進まない勉強と、騒音と、あのトラックの存在そのものの不愉快さと、他の騒音にも悩まされている間、その辺の記憶は脇に追いやられていた。優先度が低くなっていたとも言える。そして試験を終えた頃にようやく思い出しだのだけれど、そのときにはあまりにもくだらない出来事にしか感じられなかった。その印象は一時的なものではなく、もっと後になって、例えば今考えてみても、ただひどい相手だったなとしか感じない。その「ひどい」の中身も、別に思い出すこともない。というか、こんなきっかけでもないと、存在自体を思い出しもしない。なんと言うか、台風で洪水になったおかげで、そこにあったゴミの山が洗い流されたような感じなのかもしれない。残念ながらその台風はまた来るけれど。それにしても、私が生きていようといまいと、洪水は来るらしい。

 ところで、死ぬことをまた決めたきっかけとして三つ挙げたのだから、ここでも理由として三つ並べないといけないのかもしれないけれど、その三つ目が私にはよく分からない。たぶん、書いた二つみたいに、明確に消えたり薄まったりしていないからだ。実際、その二つのように、明らかに対応した変化があったわけではなかった。今も、気持ちはあまり変わっていない。弱まったというわけではなく、付き合い方が分かったというような感じで、気持ちそのものは以前から同じような形で、心の中にいる。だとすれば、単に私の心の方が鈍感になっているだけのことなのかもしれない。しかしとりあえず今は、心の中で大人しくしてくれている。部屋の隅で膝を抱えて腰掛けながら、私の方をじっと見ている。黙ったままで、何も声をかけてきたりはしない。近づいてくることもない。しかし存在感は変わらないし、いつまた、私の肩に馴れ馴れしく手を置いて、答えははっきりしているけれど答えるわけにはいかないようなことを尋ねてくるかもしれない。

 そんなときに備えて、私は大人にならなければいけないんだろう。もうこれを改訂するようなことにもならないように。ただし万が一、いや、もっと確率は高そうだけれど、もし次の計画があるのなら、そのときには、もう少し大人びたものになっていてほしいと思う。

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