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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ここから出る事が出来ない。

作者: 日登六太郎

サルビアって知ってる?


赤い花なんだけど、見た事あるんじゃないかな?


サルビアの葉には強力な幻覚作用があってね。この葉っぱをキセルで吸うとトンデモナイ効用を及ぼすんだ。


曰く、その効用はこうだ。三半規管が酩酊を起こして、立っている事も出来なくなり、平衡感覚を失う。自分という感覚の範囲が朧げになり、体の境界線が分からなくなる。景色のどこまでが自分なのか認識出来なくなるんだって。

サルビアって知ってる?


赤い花なんだけど、見た事あるんじゃないかな?


サルビアの葉には強力な幻覚作用があってね。この葉っぱをキセルで吸うとトンデモナイ効用を及ぼすんだ。


曰く、その効用はこうだ。三半規管が酩酊を起こして、立っている事も出来なくなり、平衡感覚を失う。自分という感覚の範囲が朧げになり、体の境界線が分からなくなる。景色のどこまでが自分なのか認識出来なくなるんだって。


凄いなそりゃ。これは試してみなきゃ始まらないな。


さて、ここにサルビアの葉がある。


小さな瓶に乾いた緑の葉が細かく砕かれて詰められている。


芳香剤でも入れるような親指程度をさらに一回り小さくしたような小瓶が二つ。


大変な薬理効果があると教えられ、通販で買ってみた。サルビアは妙な手紙と一緒に届いた。手紙を広げるとびっしりと手書きで全体が真っ黒になるほど同じ文言で埋め尽くされていた。


「ここに来てはいけない」


メモは文字の上からもグチャグチャに重ねて同じ事が書かれていて、なんだか、鬼気迫る執念のようなものを感じる。


これはどういう意味だろうか?恐らくバッドトリップの一種なんだろう。おおかた、強烈な幻覚作用で怖い体験でもしたのだろうな。しかし、手書きのメモを同梱なんて手間がかかると思うが、、これ印刷なのか?演出にしては凝ってるな。


俺は気にも留めずキセルを準備した。そこらの裏紙を二つに折り、テーブルに広げる。小瓶の葉っぱをそこに出して、指先で軽く揉んでキセルに詰めていく。


「なんだぁ?これ瓶ごとに入ってる量がバラバラだぞ?適当だなぁ。で、大体どれ位が一回量なんだ?」


何分初めての事なので勝手が分からない。まぁいいか、少しずつ吸ってみよう。


俺はライターに火を点けた。煙を吸い込み息を止める。


そしてゆっくりと鼻から吐き出した。その瞬間の出来事だった。


グラリと景色が歪む。


「え?こんなにすぐに来るのか?」


想定外の効き目の早さだ。体が曲がっていくのが分かる。


ソファーに座っているのも辛い。真っすぐが全く分からない。抵抗出来ない。


ソファーの背もたれに倒れ込む事で何とか床に落ちないように踏ん張る。


そして、視界がおかしい事に気が付いた。いや、視界がおかしいというのは少し違う。見えていない。


見えていない。何も。違う。確かに何かは映っている。これは部屋の景色、壁も見える。カーテンも見慣れたものだ。リビングにはテレビ、本棚、キッチンもここから見える。


確かに見えているように感じる。でも、これが何なのか分からない。今俺が見ているものは一体何なんだ?いや、俺が分からない。俺の手?これは俺なのか?


俺の体は俺なのか?俺って一体何なんだ?体が思うように動かない。今、この意識を感じているのは景色の一体どこの部分なんだ?あのカーテンは俺ではない。でも、景色のどこに俺が在るんだ?


この体も見えてる景色も全てが自分であるかのように感じる。意識だけが世界の全てを見ているような。そして、見えてる景色は何もないような感覚。


俺は恐怖に駆られた。


「こ、このまま帰れなくなったらどうなるんだ?」


俺と言う境界線が、戻らなくなったら?俺は一体どうなっちまうんだ?


そこで目が覚めた。


「え?」


ソファーに座っている。


目の前にはサルビアの葉もそのままで、キセルの燃えカスから焦げた匂いが立ち上がっている。


今のが幻覚?


あっという間の出来事だった。どれだけの時間だった?5分と経っていない?


何だったんだ?今のは。何が起こった?全然分からない。何かが確かに起こったのはなんとなくは覚えている。


確か体が曲がって、それからの事が分からない。何らかの体験をしたような気がするが、それが一体どんなものだったのか?


うーんいきなりで面食らったな。しかし、こんなに短いんだな。もう一服してみるか。


俺はもう一度キセルに火を点けてみた。


再びグニャリと自分の意志とは関係なく体が倒れていく。


お、お?そうだ、この感覚だ。思い出した。景色と自分の境界が溶けていく感じ。


あ、あ、あ、そうだった。この感じだ。


見えているものが見えなくなる感覚、そして自分の意識がどこにあるのかが分からなくなる。


そうだ、これだ、こうなるんだった。俺は再び恐怖に憑りつかれる。


う、、、俺が溶けていく、、俺とは一体何なんだ?


駄目だ。これはヤバイ。ヤバイ奴だ。これはダメな奴だった!そうだった!意識の所在が分からなくなる。俺が認識できなくなる。俺はどこまでが俺なんだ?ヤバいヤバい!どうやってここから戻るんだ?


は!


俺はソファーで目を覚ます。なんだ?汗をかいているな。


どうした?サルビアの薬理効果は一瞬だな。体が曲がって、なんだろうな、良く覚えて無いんだけど不思議な体験をしたような気がする。


なんか、今一歩覚えて無いんだよな。まぁ短い時間だし、カジュアルなトリップを手軽に味わえると思えば悪くないのかもな。


俺はキセルに火を点けて煙を吸い込んだ。


フゥー。煙を吐き出して即座に思い出す。


景色が溶ける、自分の意識の所在が分からない!


ダメだー!これはヤバイ!どうする?どうすれば良い?このままだと繰り返す。繰り返してしまう。俺に伝えないと、ここに来るなと伝えないと!


俺はテーブルの裏紙にペンで書く。自分に伝えないといけない。この繰り返しを止めないといけない。


「ダメだヤバイ!ここはヤバイ!ここに来てはいけない。」


うおぉおぉ、、意識が、、溶ける、自分の範囲が分からなくなる。ここは一体何なんだ?俺は一体どこにいるんだ?俺の範囲が分からなくなる。俺の体は俺なのか?俺だと思っているこの意識は俺なのか?俺って一体なんなんだ?ここは一体どこなんだ?ダメだ!やめたい!この繰り返しをやめてくれ!もうここに来ないでくれ!


これ、、、なんだ?これは、俺が書いたのか?


俺はテーブルのメモを見て不思議に思う。どういう意味だ?ここってなんだ?書き殴ったメモを眺めながら何も思い出せないでいる。


これはサルビアを吸って起こったなんらかの薬理効果をメモしたのか?


「何がヤバくて、ここってどこなんだ?」


そんな凄い効き目なのか?うーん。時間は殆ど経ってない。俺は裏紙をもう一枚用意して二つに折ってサルビアをそちらに移す。なんだってこんなとこにメモを残したんだ?


まぁ、こんな短時間で戻れるならそれほど危険でも無いはずだろ。ちゃんと覚えておければ良いんだがなぁ。俺の精神力が弱いのか?


これは勝負だぜ。サルビア!俺はキセルに火を点ける。


チクショーーー!ダメだ!ダメだ!ダメだ!


「この事」を俺は忘れてしまう。どうにかして伝えねーと!俺にこの事を伝えねーとマズイ!


俺はグニャリと曲がる中、目の前のメモに書き足す。繰り返しちまう。これを忘れる事で繰り返してしまう。出れない。ここから出れないんだ!書いても書いてもダメなんだ!忘れてしまう!


ここに来てはいけないんだ。ここに来てはいけない。ダメだ忘れてしまうんだ。サルビアはダメだ。ダメなんだ。


うおぉおぉお、意識の所在が分からなくなる。恐怖が俺を覆いつくす。


俺は一体なんなんだ?今俺は何をしているんだ?ここはどこなんだ?現実なのか?現実って一体何なんだ?分からない。この終わる事の無い繰り返しが現実なのか?それともこれが幻覚なのか?今それを考えている俺は本当に俺の意識なのか?幻覚って一体何なんだ?


、、、、、俺は用紙一杯に書き殴りのある2枚のメモを見て思う。


あれ?このメモ、、、一枚じゃなかったか?


確かに一枚だったと思うんだが、、二枚あったのか。しかし、意味の分からないメモだな。


ん?このメモ、、、どっかで見たか?何か似てるか?最初から2枚だったのか。でも、これ、、、裏紙?


しかし、サルビアの薬理効果って短いんだな。あっという間だったが、こんなもんなんだな。これじゃお遊びってとこだな。くそネタだな。こんなもん。


「うぁあああああああああああああ!」


どうする?どうする?どうする?どうする?


これはどうすれば抜けられるんだ?俺にどうすれば「この事」を伝えられるんだ?


「ここは来てはいけない。ここは来てはいけないところなんだ!」


あ、、、あ、、、ああっ!思い出したぞ?思い出した。あのメモ。


「俺だ!」


俺が書いたんだ。2枚とも俺が書いたものだ!


あのメモはすでに俺が書いたものだ!俺はサルビアを知っている。知っているんだ!


これは初めてなんかじゃない!


「俺はすでに同じ事を体験しているんだ!」


捨てるんだ、このサルビアを捨てるんだ。捨てないとヤバイ!


でも、体が、動かない。うぉおおお意識が、、俺の体はどこまでなんだっけ?ダメだ!分からない。この後俺は幻覚に陥るのか?何も覚えていないあっちが俺の幻覚なのか?今、今だけ俺は現実を思い出せるのか?


助けてくれ!出してくれ!ここから出してくれ!ここはダメだ!ここに来てはダメなんだーーー!!


さて、ここにサルビアの葉がある。


小さな瓶に乾いた緑の葉が細かく砕かれて詰められている。


芳香剤でも入れるような親指程度をさらに一回り小さくしたような小瓶が三つ。

2024年現在サルビアは厚生労働省の指定薬物に該当しています。

違法ドラッグを指定薬物として指定する。

医療等以外の用途に供するための、指定薬物の製造、輸入、販売等を禁止する。(注)

指定薬物の広告を制限する。

違法行為に対する罰則を設ける。


罰則の対象になるので留意下さい。

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