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#8 Scramble

「貨物列車が鬼の襲撃を受けております」

「パワードスーツのアップデート中だってのに、まだ終わらないのか?」

「もう少し時間がかかりそうです、あと現場から青鬼が出現した時と同じ特殊な波長も感知しています」

「待ってられない、行くぞ」

 そう言って桃太郎はマンションの窓から飛び出し、空中で腰につけたKeep damp ballを叩き割る。

 見る見る間に水蒸気が桃太郎を覆い、鎧兜にインスパイアされたパワードスーツを形成していく。

「-雉- Boost」

 背中から翼のように噴射口が突出し、勢いよくジェットが噴出される、落下していた桃太郎の肉体を一瞬にして空の彼方へ運んでいく。

 

 Keep damp ballを改造し、桃太郎が独自に開発したこのパワードスーツは、鬼からの攻撃耐性を高めるとともに、動作の強化拡張を狙いとしていた。

 そして日々、街に現れる黒い鬼との戦いの中で、パワードスーツをアップデートさせていった。

 その戦いの日々の中で開発されたのが【Boost Mode】だ。

 大幅なエネルギー消費量の代わりに、一時的に特化した力を使用できる機能。

 その中の一つが飛行機能の -雉- Boost である。

 空中戦と飛行移動のため装備された能力である。

 桃太郎の顔を覆うスーツ内部のモニターには、時速300キロを超えんスピードであることが表示され、目的地までの到着時間は3分と表示されている。

「それにしてもなんで飛行能力の名前が雉なんだ?」

 桃太郎はこだわりの少ない男である、Boost Modeの名前はあったほうがかっこいいからという理由でS.ALが勝手に決めたものだった。

「父母のしきりに恋し雉の声 …雉の鳴き声は父母をしきりに恋しいと泣いているように聞こえるという、松尾芭蕉の句です。今の桃太郎さんのようだと思いまして」

「お気遣いどうも」

「どういたしまして、どうかこの戦いが桃太郎さん自身を苦しめる戦いにならないよう願っています」

「人工知能がそんなこと気にするな、急ぐぞ」

 更に飛行スピードを上げる。

「あの停車した貨物列車か」

「そうです、美術館から絵画などの調度品を運搬中です」

「鬼ってのは結局ただの窃盗団か?」

 飛行中の桃太郎を何かがかすめる。

 鬼が地上より砲撃をしてきている、桃太郎は空中を高速で旋回し華麗に砲弾の雨をかわしていく。

 そして貨物列車の周りでうごめく黒い鬼たちに向け突っ込んでいく。

「さあ行くぜ」

 上空からの加速をつけ降下し、砲撃をしていた鬼を蹴り飛ばす、同時に腰につけていたもう一つのKeep damp ballを握りつぶし、桃太郎の手に刀が形成されていく。

 桃太郎めがけ鬼たちが大挙するも、Agent GEEを思わせる剣術で黒鬼をバッタバッタと切り刻んでいく。

「キリがねぇな」

 そういって、刀を天にも届かん長さまで伸ばす。

「食らいやがれクソどもが」

 全身全霊をかけ刀を横一文字に振り抜く。

 桃太郎に群がっていた黒鬼たちを一刀両断した。

「片付いたぜ」

「相変わらず無茶苦茶な戦い方ですね、ちょっと貨物列車も切っちゃってますけど、内緒にしておきましょう」

 先頭車両へと駆けていくも、そこに車掌の姿は見当たらない。

「あの鬼の軍勢の急襲を受けて逃げられたのか?」

 列車に逃げ遅れた人がいないか、後方の車両へと確認しながら進んでいく。

 貨物室内には株式会社Time is moneyの美術展の名称と、開催予定日の書かれた大きな箱があった、どうやら輸送中だった調度品も無事だったようである。

「盗まれる前に阻止できたようだな」

 中身を確認しようと箱の蓋に指をかけ開こうとした瞬間であった、桃太郎の被るスーツのマスク内部のモニターに警告の表示とアラームが鳴る。

「桃太郎さん爆弾で…」

 S.ALが警告し終える前に、箱は大爆破を起こし桃太郎は爆風によって大きく吹き飛ばされる。

「桃太郎さん大丈夫ですか?」

「あぁ、痛ぇ〜」

 桃太郎は横たわったまま応えた。

「バイタル異常なし、大きな怪我もありませんが、もう少し警戒してください、モニターにスキャン中のメッセージ出していましたよね?」

「ごめん見てなかった、でもスーツの耐久実験ができたじゃないか貴重なデータだ、あの程度の爆弾なら内部へのダメージは無しっと」

「ったく、スーツがなかったら結構危なかったですよ、次から気をつけてくださいね」

「っていうか、なんなんだあれは」

 燃え盛る列車を見つめながら疑問を口にした。

「爆弾ですが」

「なんで輸送中の調度品の中に爆弾があるんだよ」

「…確かに、奪いにきたはずの鬼が仕掛ける訳もないだろうし」

「…だとしたら、あれは鬼たちを嵌めるためのトラップ?」

「そこにいけしゃあしゃあと現れた桃太郎さんが、結果的に引っかかっただけで、あれは元来鬼を誘い出して爆破させるためのもの…」

「鬼は宝を奪いに貨物列車を襲っていたんじゃない、鬼を誘い出して一網打尽にするためのトラップか?」

 その瞬間、近くで爆発音が響く。

「おそらく、あそこに今回の黒幕がいるな」

 煙の上がる方向を見据える。

「出遅れた、いくぞ -犬-Boost 」

 スーツの脚部パーツが変形し、生えた爪が地面を食い込む。

「GO!」

 桃太郎の掛け声と共に、脚部が爆煙をあげ駆け出す。

 -犬-Boostは脚部パーツを増強し、超高速移動を目的に特化能力であり、音速を優に超える勢いで駆けることができるが、Keep damp ballの消費エネルギーも非常に高く、高速がゆえ直線的な移動しかできず、ここぞという場面でしか使うことはできない。

 

 辿り着いた先ではトラクターが炎上し、黒煙を上げている。

 トラクターの周りには、先ほどの桃太郎と同様に爆発に巻き込まれた様子の黒鬼が数体転がっているが、郊外のため、巻き込まれた人間はいなそうである。

 そして炎の逆光の中、立ち尽くす男の後ろ姿が。

 真っ赤なトラックパンツに真っ赤なパーカー、フードを目深に被り煙草をふかした青年が振り返る。

 たまたま居合わせたのではないことは明白である。

 目の前男が、この一連の騒動の張本人に違いないと、桃太郎は問答無用で刀をその男の眉間に突き立てた。

「おい爆弾魔、お前は何者だ?」

「待て待て、そんなおっかねぇもん下ろせよ、俺だよ知ってるだろ?」

 被っていたフードを脱いだ。

 そして桃太郎がつぶやく。

「…誰だ?」

「あんた、人間か? この星に俺のこと知らない奴いたのかよ、Time is money社長の坂田だよ。本当に俺のこと知らないのか?」

 懐疑的な目を向ける。

 Agent VARとAgent GEEが殺された美術館も運営している宇宙開発関連会社の社長で、先日のワイドショーで鬼を皆殺しにすると発言していた男かと桃太郎は思い出した。

「見たことあるな、だからどうした? さっきの貨物列車の爆発はお前の仕業か?」

「あぁそうだ、まぁ落ち着けよ」

 坂田は両手を上げたまま応える。

「何の目的だ? 返答によってはお前の首を切り落とす、正直に答えろ」

「あんたも知っているだろ、青鬼が美術館を襲撃した事件、あの美術館は俺の会社が運営するものなんだけどよ、そこで働いていた社員があいつらに殺された、弔い合戦だ」

 桃太郎は突きつけていた刀をゆっくりと下げた。

「納得してくれたのかな、俺からも聞かせてくれよ、鬼を退治して回ってる侍みたいのがいるって噂になってるが、あんただよな? 何の目的でこんなことしてる?」

「…お前に話す必要はない」

「…まぁいい、何にしろ、あんたと俺の目的は同じ、ということはあんたは俺の味方ってことだろ?」

「味方など必要ない、俺一人でカタをつける。いいか邪魔をするな、さっさとその爆弾を持って帰れ、そして2度とこの件に首を突っ込むな」

「なんで爆弾を持っていると分かった」

「お前をスキャンした、それにさっきの貨物列車の爆発に巻き込まれたもんでね」

「えっ、それはマジで悪かった、一応人気のない所に誘い出して爆発させたんだぜ」

 その時だった、地表を揺らす振動。

「来やがった」

 遠目にもわかる、黒鬼とはまるで違う大きさの鬼。

 Agent VARとAgent GEEが命と引き換えに退治した青鬼とよく似た姿形。

 ただし色が違う、黄色だ。

「お前が呼び寄せたのか?」

「あぁ、ちょっと餌をぶら下げておびき寄せてやった」

「お前、あれは黒鬼とは比較にならない程の強さだぞ、さっさと逃げろ、ここは俺に任せろ」

「どうやらそうした方がよさそうだな、頼むぜ」

 坂田が走り去っていく。

「S.ALヘマしたら氷漬けにされるぞ、気をつけろ」

 黄鬼の体がバチバチと音を立てる。

「電気?」

 そう口にした瞬間だった。

 黄鬼の手から電撃が雷のように桃太郎めがけ放たれる。

 一瞬の出来事に回避することもできず直に喰らう。

「スーツがなけりゃ、お終いだったな」

 パワードスーツがバチバチと音を立てる。

「桃太郎さんスーツの耐久度が、先ほどの爆発の衝撃も相まって、残り20%を切りました、残量を考えると-犬-Boost はもう使用できません」

「そいつは、まずいね」

「そして今と同じ出力の電撃が、あと1~2発直撃した時点でパワードスーツの耐久値は限界を超え解除されます。それに奴自身が電気を帯びています、黄鬼に捕まっても同じ結果です」

「了解、さてどうしたもんか」

 -雉-Boostで空中へ逃げ、距離を取った上で旋回を始める、黄鬼に狙いを定めさせない。

「俺は奴の電撃の回避に専念する、マシンガンをS.ALが操作し攻撃してくれ」

「承知しました」

 スーツの肩部分にマシンガンが形成され、唸りを上げ弾丸の雨が黄鬼を襲う。

 手で弾を遮ろうとする様子は見られるが、ひるむ程度でしかない。

「これじゃあ、豆をぶつけられてるのと変わらねぇ」

 焦りの中、モニターに【 New Boost Mode Download Complete 】の文字が表示される。

 その表示に視線を一瞬そらした瞬間だった。

 闇雲に打たれた電撃がスーツの翼をかすめた。

「しくじった」

 翼の動力を失い、地上へ桃太郎は落下した。

「やべぇ」

 黄鬼が落下した桃太郎に向け、駆け寄ってくる姿が見える。

 S.ALが操作するマシンガンが、黄鬼に向け再度火をあげる。

「S.AL、目を狙え」

 銃撃が黄鬼の目を捉え、断末魔の叫びをあげる。

 初めてのダメージらしいダメージを与えた。

「今しかねぇ、電撃は承知で新しいBoost Modeで仕留める、起動しろ」

 桃太郎は目を抑え、たじろいでいる黄鬼に向かって走り出す。

「桃太郎さん、まだ新しいBoost Modeの名前が決まっていません」

「んなもん好きに決めろ」

「え〜と、じゃあ考案者の名前ということで、-猿-Boost」

「自己顕示欲の強いAIだ」

 スーツの腕部が肥大化していく、近接戦向けの打撃強化のBoost Modeである。

 間合いに入った桃太郎へ、黄鬼は容赦無く強力な電力を帯びた拳で殴りつけてくる。

 桃太郎はガードを固めるも、Keep damp ballの耐久度が徐々に削られる。

 黄鬼の隙をつき腕部に搭載されたジェットによって加速のついたアッパーが黄鬼に炸裂する。

「いける」

 黄鬼の顎を砕いた感触が伝わる、黄鬼の体を纏う電気が微弱に変わった。

 ふらつく黄鬼の背後に回り、背中に飛び乗った。

「爪」

 両拳から2本ずつ鋭い刃が現れる、その爪を黄鬼の頭部を挟むように突き立てる。

「くたばれ、クソ野郎が」

 腕部のジェット噴射により勢いをつけ、黄鬼の頭部を爪で串刺しにした。

 ドンと音を立て、黄鬼の巨体が崩れ落ちる。

「よし」

 と桃太郎が一息つくやいなや「おい、すげぇな」先ほど逃げたと思っていた坂田の姿があった。

「おい侍、今度はあんたがさっさと逃げろ、警察がもうすぐここに来るぞ。あんたも厄介ごとは勘弁だろ、今度は俺に任せろ」

「分かった、だがいいな二度と首を突っ込むな」

 そう桃太郎は、坂田へ強い口調で言い残し飛び去っていった。

 空の彼方へ消えてく桃太郎の姿を傍目に、坂田は耳に装着されたマイクをタップした。

「坂田だ、予定通り例のものが手に入ったぜ、回収してくれ。警察は金を握らせて解決しておいてくれ」

「あぁ、もう手配してある、すぐにヘリが到着する」

 渡辺の抑揚のない返事が返ってくる。

 坂田はポケットから煙草を取り出し火をつける。

「全て渡辺の計画通りに進んだな。鬼共の第一陣を貨物列車に餌を撒いておびき寄せ戦力の縮小、さらに餌の場所をトラックで移動させ黄鬼をおびき寄せ、あの侍とぶつける、そしてめでたくを獲物ゲット、さすが渡辺、天才的だね」

「まぁな」

渡辺からはそっけない返事のみ返ってくる。

「にしてもあの侍は、わざわざ警察の目をかいくぐってまで、鬼退治の自警活動なんぞ何でしてるんかね?       

…名前は桃太郎とか言ったっけ?」

「あぁ、詳細は調査中だがG.A.T.Eのエージェントだ、ただし鬼退治はG.A.T.Eの任務ではない」

「物好きな奴もいるもんだ、あと鬼共を誘き寄せるための餌に使った、本物の蓬莱の玉の枝の回収も忘れずに頼むぜ」

「もちろんだ」

「これで鬼共の狙いが確実になったな…」

「そうだな」

「鬼共の狙いはやはり… Princess Orderか」

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