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#7 Re:venge

「おかえりなさい桃太郎さん」

 帰宅した桃太郎を迎え入れるのは、愛する家族の声ではない。

 桃太郎が独自に開発した人工知能『Secretary ALgorithm』通称S.AL(サル)の機械音声だ。

 黒いネクタイを緩めながら「ただいま」と誰もいない部屋に返す。

 Agent VARとAgent GEEの四十九日の法要が今日執り行われた。

「無事終わったよ」

 そう言って桃太郎はベットに倒れ込んだ。

 桃太郎の成長スピードは知能・肉体共に通常の人間のスピードを大幅に上回り、すでにこの頃には成人の肉体へと変化をしていた。

 天井を見上げながら思い返すのは優しかった2人の姿、そして死に際にAgent VARが言った「どうか私たちの事… 人間を嫌いにならないでね… ごめんね桃太郎」という一言。

 人間を嫌いにならないでとは一体どういう意味だったのか、なぜ謝ったのか、しかしすでにAgent VARのいない世界で真意を知る由はもうない。

 一息つきベットから勢いよく立ち上がる。

「S.AL新しいファイルを製作してくれ」

 空中にディスプレイが投影される。

「データはG.A.T.Eじゃなく、個人用のサーバーに保存してくれ …G.A.T.Eは信じられない」

「秘密裏に何を進めるつもりですか?」

「…鬼退治を始める」

「鬼退治ですか?」

「あぁ、俺から全てを盗んだやつらを皆殺しにしてやる」

「お言葉ですが桃太郎さん、復讐をしてもVARさんとGEEさんは戻りませんよ」

「人工知能のくせにもっともなこと言うな、戦うのは俺だ、黙って作業をしろ」

「何をおっしゃいます、私も桃太郎さんのお供をしますよ」

「そいつは頼もしいねぇ」

 と桃太郎は笑ってみせた。

「まずは何から取り掛かりましょうか」

 机の引き出しから、あるものを取りだす。

 Agent VARが死の直前手渡したものとAgent GEEが使用していたKeep damp ballと呼ばれる白い球だ。

 桃太郎はURA長官へ直談判し、Agent VARとAgent GEEが青鬼に殺され、欠員が出たG.A.T.Eに新たなエージェントとして採用された。

 採用試験では実技・筆記ともに、誘拐され未だ行方が掴めないままのAgent EVKことシュタイン・ドッジが記録した最高得点に次ぐ歴代2位の成績だったという。

 そして桃太郎はG.A.T.Eのエージェントになって一番初めにしたことといえば、G.A.T.Eによって管理されている、2人が使用していたKeep damp ballを偽物とすり替えることだった。

 Agent VARの死際に桃太郎に握らせたこの玉に、必ず意味があるはずだと考えたからだった。

 G.A.T.Eに入った目的はこれであり、Agent VARが殺された後、耳元で聞こえた誰かの声「G.A.T.Eを信じるな」の言葉の真意を確かめる為でもあった。

 

 Keep damp ballはホルスターに装備されている。

 Agent GEEが使用していたものを腰へ巻いてみた。

 ベルト穴がAgent GEEが通していたと思われるベルト穴に通すとちょうど良く、桃太郎は自身の体の成長がAgent GEEに追いついたことを彼の遺品を通して知る。

 試しにホルスターからKeep damp ballを取り出し右手で握り潰してみる、ヒビが入ると同時に握りつぶした手の周りに水蒸気がまとい、刀を形成していき、手の中に赤く光る刀身が収まる。

「どういう原理なんだ」

 どう見ても鉄と思えるそれに不思議さしか感じないし、水蒸気とは思えぬものでしかない。

「リリース」

 Agent VARが見せたように同じく声を出してみる、桃太郎の手にあった刀は形を失い水蒸気と化し腰のホルスターに吸い込まれるように戻り、以前と同じ白い球体を形成する。

「スキャンの準備ができました、机にKeep damp ballを置いてください」

 解析されたデータが空中ディスプレイに表示されていく。

「解析完了しました、Keep damp ball内の水蒸気ですが、基本構成は鉄で出来ています、正確に言うと水蒸気が鉄に変化したのではなく、鉄を水蒸気化させている状態です」

「こんなもの見たことないぞ」

 とKeep damp ballを手に取る。

「そうだと思います、地球上には存在しない技術です」

「じゃあなんで地球上にある?」

「桃太郎さんは地球に来る前の記憶はないのですか?」

「一切ない」

「おそらくですが、桃太郎さんの乗ってきた宇宙船から研究して作られた武器なのかと思います。 桃太郎さんは球型の小型宇宙船で地球に来る際に、元の肉体を水蒸気に変換され、適応しやすいように現地の生物であるVARさんとGEEさんをスキャンし、人間の姿に変化したしたのではとG.A.T.Eでは結論づけられています。Keep damp ballと非常に似た技術が使われています」

「まぁそうか、G.A.T.Eは銀河応用技術班だからな、それが仕事か。 ただなんでVARさんがKeep damp ballを最期の瞬間に俺に託した? 仇を討ってくれということなのか。 …じゃあなんであの時謝ったんだ?」

「VARさんにどのような意図があったかは分かりませんが、不思議なことにKeep damp ballには使用者権限が設けられています」

「使用者権限?」

「はい、使用者の手から遺伝子構造を読み取り、権限者以外は使用できない仕組みになっております。 登録されている内容は 01.VAR 02.GEE 03.MOMOTARO となっています、あらかじめ桃太郎さんも使用可能な状態で登録されていました」

「…なぜG.A.T.Eの武器が、あの時点で俺が使用する前提で設定されている? どういうことだ… 引き続き解析を続けてくれ」

「分かりました。ただ…」

 歯切れ悪くS.ALが続けた。

「美術館襲撃の映像を検証しました、あの青鬼ですが、とてつもなく強かったです、まだあんな鬼が他にいるとしたら、ましてやもっと強い鬼が存在するとしたら… いくら桃太郎さんが常人を遥かに凌ぐ強さと言っても…」

「2人の二の舞ってことか? だから俺も考えていたことがあったんだ」

 とKeep damp ballを手にした。

「何をするおつもりですか?」

「この技術を応用して対鬼用のパワードスーツを作る、これが設計内容だ、読み取ってワイヤーフレーム化してくれ」

 とフォルダを開いた。

「毎日夜遅くまで何をやっているかと思えば、こんなことを…」

「まぁな、気を紛らわすにはちょうどよかった、Keep damp ballをいじっていて特性はだいぶ掴めた、こいつは半永久的なエネルギーを持っているが、1回の使用エネルギーには上限があり、使用の能力の回数や耐久度によって上限に達すると物質化が溶け、使用前と同じく腰につけたホルダーに戻ってしまう。簡単に言えば充電池と同じようなものだ」

「なるほど」

「体をコイツで覆い、鬼からの攻撃耐性を高めるとともに、動作の強化拡張にエネルギーを使う」

「あの、今パワードスーツとお聞きして、参考になるものはないかと過去のデータを漁ってみたのですが、桃太郎さんが以前アーマーを着用している写真が見つかりました、こちらを参考にしてみてはいかかがでしょうか?」

「アーマー? そんなもの今まで着た覚えはないぞ」

 空中に写真データが投影される。

 そこにはAgent VARとAgent GEEに囲まれた鎧兜姿の桃太郎の幼き姿の写真。

「これはアーマーじゃないよ、端午の節句の時の写真だ。 …でもよく考えれば鎧は昔のアーマーか、実戦向きかもな… 分かった、鎧兜をもとにパワードスーツのデータを作り直してくれ」

「承知しました。それで武器はどうしますか」

「決まってるだろ」

 手に握っていたKeep damp ballを握りつぶす

「刀だ、これで仇を討つ。…S.AL一応言っておくけど、背中の日本一の旗はいらないからな」

 写真の中で無邪気に笑う、幼い頃の自身の背中に刺さった『日本一』と書かれた旗を指差し笑った。

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