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#2 Outbreak

「ご苦労、よくやった」

 URA長官がG.A.T.E本部へ戻ったAgent VARの肩をポンと叩いた。

 

 宇宙船回収後、追っ手が来ることもなく、より目的は不明になったが、三度めの正直で宇宙船回収のミッションは無事成功した。

 「あの… 私も…」

 Agent GEEがURA長官へ語りかけるのを遮るように、回収した宇宙船の情報解析に当たっていた検証班からの連絡が室内のスピーカーを通して流れる。

「今回、回収した小型の球形宇宙船に着陸後扉の開いた形跡はありません、しかしながら中に生体反応も見られません」

「嘘だろ…」

 Agent GEEから心の声が漏れる。

「今回はハッチが開いてないんだぞ、中身の入ってない宇宙船だけが地球までやってくるなんてあるか?」   

 鼻息荒くAgent GEEは桃型へと変形した宇宙船の置かれている検証室へ入っていく。

「ハッチを開けろ、俺が確認してやる」

「こちらからアクセスをかけているのですが開きません、おそらく着陸時の衝撃によって変形してしまったのが原因じゃないかと思われます」

 検証班からは冷静な回答が返ってくる。

「思われますじゃないんだよ、少しは頭じゃなくて体を使え」

 ハッチと機体のわずかな隙間に指を掛け力ずくでこじ開けようと試みるも、ハッチは硬く閉じたままビクともせず、Agent GEEの顔が紅潮していくだけだった。

「非力なお姫様は下がっててちょうだい」

 検証官と入れ替わりに、Agent VARはどこから持ってきたのか、大きなナタを担ぎ部屋へと入ってきた。

「どうするんだよ?」

「どうするって… こうするに決まってるでしょ」

 大きなナタを桃の形に変形した宇宙船めがけ渾身の力で振り落とした。

 大きな金属音が室内に響く、そして一瞬の間を置いて宇宙船のハッチがゆっくりと2つに割れ落ちる。

 露わになった宇宙船内を覗き込む2人。

「マジかよ… また空っぽ」

「何もないわ、少し水が溜まってるだけ」

2人が落胆し肩を落とした時だった、宇宙船の機体から突如として赤色の光が発せられ部屋を覆い尽くす。

「なに?」

 慌てふためくも、赤い光は一瞬で消えた、同時に小型の球型宇宙船の内部に溜まっていた水が沸き立ってくるのが見て取れた。

「お前らすぐに退避しろ」

 検証室内のスピーカーからURA長官の指示が飛ぶ。

 慌てて部屋を飛び出した2人はガラス越しに小型の球型宇宙船の動向を伺う。

 同時にモニターに映し出されていた検証結果の数値が跳ね上がった。

「先ほどまではなかった生体反応が発生しました」

「生体反応… 何が起きている?」

「宇宙船内に生物反応あり、なお室内の空気等に変化は起きておりません、入室は可能です」

 ガラス越しからも室内のカメラからも角度的に宇宙船内部は確認できず、そこに居合わせたエージェーント達は一様に動揺を見せた。

「…私たちで見てきます」

 Agent VARが堰を切る。

「不測の事態の場合、射殺を許可する」

「承知しました」

 Agent VARとAgent GEEは腰につけたホルスターから銃を取り出し、再び小型の球型宇宙船の置かれた検証室へゆっくりと入っていく。

 足音を立てぬよう小型の球形宇宙船の裏側から左右に分かれハッチへ回り込むと同時に銃口を宇宙船内に向け構えた。

「…何で」

 すぐさま2人は同時に銃を下ろし、困惑した視線を室外から見守るURA長官へと向けた。

「どうしました、状況を伝えて下さい」

 指示を出した検証官に対しAgent VARは、しーっと口の前で指を立てて制止をかけた、桃型に変形した宇宙船の中から突如現れた『ソレ』を優しく取り上げた。

「…赤ちゃんです」

 ガラス越しに抱えた赤ん坊を怪訝な表情を浮かべるURA長官へと見せた。

「…男の子か」

「性別がどうとかじゃなくて、なんで急に赤ちゃんが現れたのよ」

 先ほどまで少し水が溜まっていただけの宇宙船内に人間の赤ん坊が、少なくともそう見えるものが突如として現れたのだ。

 ざわめくエージェント達をよそに、すやすやと眠るその姿に先ほどまでの警戒心が奪われる。

「お前ら警戒を怠るな、そいつはただのエイリアンだ、詳しく調べるからスキャン台の上に乗せろ」

 鉄製のその台に直に赤ん坊を載せるのは冷えるだろうと思い、Agent VARは脱いだ上着を台に敷き、その上に赤ん坊をそっと乗せた。

「Agent VAR、GEE退室しろ」

 検証室を後にした2人がガラス越しに赤ん坊を眺める、どうやら起きてしまったのか泣き出している。

「スキャン開始します」

 解析されたデータが数値となりモニターにどんどんと映し出されていく。

「スキャン完了しました」

「どうだ?」

「99.99999%以上が人間と同じ構成です」

「何だその分かりづらい言い回しは」

 Agent GEEがすかさず口を挟む。

「限りなく、普通の人間の赤ちゃんと言っていいでしょう」

 三度目の正直で回収した宇宙船から、突如として現れた人間の赤ん坊に、集まったエージェント達は困惑の表情を浮かべた。

「なんで人間の赤ちゃんが地球外から、しかもさっきまで宇宙船は空っぽだったのに」

「その件ですが、先ほどの赤い光は、恐らく地球に適応するために現地の生物をスキャンしたものだと思われます、今回で言えばAgent VARとAgent GEE2人を。つまり何も乗っていなかったのではなく、船内に溜まっていた水分こそがエイリアンだったということです。 …あっもしかして」

 検証官が再度作業を始め、ある数値を見つけURA長官へと振り向く。

「この赤ちゃんですが… Agent VARとAgent GEE2人の遺伝子構造を併せ持っています」

「えっ?」

「…2人の子供と言っていいでしょう、遺伝子構的に言えば」

「嘘だろ…」

 ガラス越しに赤ん坊を見ていた、Agent VARとAgent GEEが顔を見合わせた。

 検証室から赤ん坊を抱え出てきたエージェントがURA長官へそっと渡した。

「どうぞ」

 困惑しながら抱えたものの、赤ん坊は長官の腕の中で激しく泣き始める。

「おい、コイツをどうにかしろ」

 腕に抱えた赤ん坊をAgent VARに預けバトンタッチをする、不思議とその途端に赤ん坊は泣き止み、無垢な笑顔を向けた。

「URA長官どうされますか? エイリアンではありますが、この地球への適応変化で人間の赤ちゃんになってしまったようですが…」

「エイリアンに変わりわない、常に監視下に置く」

「でも長官、この施設には凶悪なエイリアンを収監しておく檻くらいしかないっすよ。 …っていうかさ、お前ら2人の子供なんだろ? お前らで育てりゃいいんじゃね? それで24時間の監視体制も取れるし」

 横から口を挟んできたのはAgent EVK(イブキ)だった。

 Agent EVKはG.A.T.E内において別格の成果を残し続けるも、普段から酒浸りで何を考えているか分からない男である。

 その男がまた突拍子も無いことを言い出した。

「お前なぁ、人ごとだと思いやがって」

 Agent GEEがAgent EVKに対して呆れた表情を向ける。

「そうだな、お前ら2人で監視監督をしろ、それが一番安心だ」

「監視監督って、それって俺たちが育てるってことですよね?」

「そういうことだ、週一回の定期検診は行うが、それ以外の時間はお前らが責任を持て、分かったかAgent VAR」

「わっ、分かりました」

 赤ん坊を抱えるAgent VARへURA長官より指示が出る。

 また泣き出されないうちになのか、長官は赤ん坊を一瞥してその場を足早に去って行った。

「どうしてくれんだよ、この酔っ払いが」

 とAgent GEEはAgent EVKの肩を小突いた。

「お前が余計なこと言うからだぞ、赤ちゃんなんか育てたことねぇっつうの」

「まぁ、がんばれよパ〜パ、じゃあな坊主また会おう」

 茶化すように満面の笑みを浮かべ、赤ん坊の頭を撫でるとAgent EVKもその場を去って行った。

「それにしてもなんて可愛いんだろう」

 突如できた我が子である赤ん坊の頭を、先ほどまで刀を握っていた手で撫でる。

 追跡者の腕を切り落とした際についた返り血の跡が目に入る。

「Agent VAR・Agent GEE、人間の赤ちゃんの姿はしていますが、あくまでその赤ちゃんはエイリアンであることには変わりません、地球を滅ぼすために送られてきた可能性もあることを忘れないでください」

 赤ん坊をあやす2人に検証官は釘をさす。

「やれやれだ」

 そんな大人達のやりとりをよそに、赤ん坊突如できた母親の腕の中で無邪気な笑みを浮かべていた。

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