#1 Fortune In
むかし むかしのこと…
とはまだ呼べやしない2月3日 渋谷の赤鬼襲撃事件から遡ること約半年前のこと。
「こちらAgent VAR、Agent GEEと共に落下予測地点へ急行中」
2人のエージェントが所属する銀河応用技術班(Galaxy. Application. Technical. Elements) 頭文字を取り、通称 G.A.T.Eの本部より2人のエージェントへ連絡が入る。
「目標物は直径1m前後、薄ピンク色をした機体、過去に2度飛来している小型の球形宇宙船と同じだと思われる、今回は中身を確実に回収して我々のメンツを保て、いいな」
G.A.T.Eの最高司令官であるURA長官より連絡という名の檄が飛ぶ、おのずとAgent VARの握るハンドルに力が入る。
「承知しました」
小型の球型宇宙船の飛来は今回で3回目となり、過去2回は宇宙船の回収時には既にハッチが開いており、その中身は見当たらなかった。
地球に未確認のエイリアンが放たれた可能性が非常に高い。
エイリアンとの交流が珍しくなくなった時代にAgent VARとAgent GEEが所属するG.A.T.Eは地球外の技術を応用し外部からの脅威に対し自衛するべく設立された。
また、害のあるエイリアンを排除し地球の平穏を保つという地球と外部との門番の役割も秘密裏に担っていた。
「…後ろからバイクがついて来てるな」
宇宙船の落下予測地点へ向け、山道を急スピードで駆け上がる高機動車の中、後部座席に悠然と掛けていたAgent GEEはバックミラーにかすかに映るその姿に舌打ちをした。
その矢先のことだった、落下予測地点方向から車体を揺らす程の地響きが襲う、どうやらその衝撃から察するに小型宇宙船は着地に失敗したのか、地上へ落下したようである。
「どうする?」
今回のミッションにAgent VARとAgent GEE以外のエージェントはG.A.T.Eより駆り出されていない、何より丑寅の時刻である、夜中の3時に何もない山道を、たまたまバイクがツーリングしているとは考え難い。
小型の球形宇宙船の回収、そして何より中身の回収を確実に成功させる為には、追跡してきているバイクは、この任務において脅威と考えるのが妥当だろうと二人が考えていた時だった。
後方から発砲音と同時に2人の乗った防弾の車体を細かく揺らした。
「おいおい、やってくれるねぇ」
すかさずAgent GEEが愛刀を手に取るも
「まだよ、勝手に動くんじゃないわよ」
好戦的な性格を見越してだろう、運転席から振り向くこともなくAgent VARから制止の声が掛かる、そんな2人のやり取りの中URA、長官より再度連絡が入った。
「G.A.T.E本部より、小型の球形宇宙船は落下時に岩へ衝突、はずみで近くを流れる笹ヶ瀬川に落ち、現在下流へ運ばれている模様、修正した到着予想場所と到着予定時間のデータを端末に送った、一帯の地場管理と対象物の回収の二手に分かれて行動してくれ」
Agent VARは顔色ひとつ変えず答える「承知しました。なお現在襲撃を受けております、対象は1名の模様、フルフェイスのヘルメットを被っており何者か判断できませんが、バイクに乗り発砲をしてきております、私たちか今回の落下物を狙った者かと思われます、反撃を承認して下さい」
「許可する、いいか必ず宇宙船の中身を回収してこい」
URA長官との通信が切れると同時に「殺していいって?」と背後から弾んだ声
「反撃を許可するって」
「あっそう、それでどっちにする? 川へ宇宙船拾いに行くか、後ろのうるせぇ奴を狩って、ここいらの山一帯を地場管理に行くか、好きな方を選んでいいぜ」彼なりのレディーファーストなのだろうが、バックミラー越しに見えるAgent GEEの背中には愛刀2本がすでに挿さっており、にやけた表情が宇宙船回収などより戦いを求めていることを物語っていた。
「後ろの奴は譲ってあげる、私は宇宙船回収の方へ行くわ。今回こそは失敗できないからね」
Agent VARは川を選択し、Agent GEEはへ地盤管理に。
「まったく酷い言い方じゃないか、前回だって前々回だって宇宙船を回収した時点で空っぽだっただけで失敗じゃねぇっての」
過去2回飛来した、今回の宇宙船と同型と思われる小型の球形宇宙船回収の任務についていたのはAgent GEEであった。
今回こそは絶対に失敗できないミッションに、パートナーとして選ばれたのは実生活でも夫婦というパートナーでもあるAgent VARであった。
Agent VARはG.A.T.Eの中でも屈指のエージェントであり、Agent GEEは家庭でも職場でも憎まれ口を叩かれるのは日常である。
「スピードを落として俺の合図で後部扉を開けてくれ」
Agent VARの肩を軽く叩きAgent GEEは銃撃を受け激しく音を響かせる後部の荷室へ、左腕をあげ待機の指示を運転席へ送る。
「分かってるわよね、何が目的か自白させるのよ」
「分かってるって」
車体を揺らす銃撃が収まった瞬間を見図りAgent GEEが左腕を下ろすと同時に後部扉が開く、追跡者も虚をつかれたか、突如現れたAgent GEEに向けとっさに銃を構えたが、相手に照準を合わせる隙を与えず、Agent GEEは走る車から追跡者のバイクヘ飛びかかる、闇雲に撃たれた銃弾を空中で体を華麗にひねりかわした、同時に背中から刀を抜き、追跡者の左腕を切り落とす、ハンドルを握る片腕を失ったバイクは追跡者とともに土煙をあげ転がっていった。
Agent GEEは、倒れても尚残った腕で銃口向ける追跡者ににじり寄り、銃を蹴り飛ばし、そのまま追跡者の手の甲をブーツで踏みつけ手の自由を奪った。
「次に歯向かったら容赦無くもう一本の腕も切り落とす、まずはお前さんが何者か拝ませてもらおうか」
顎紐を剣先で切り落とし追跡者のヘルメットを外した。
「見ず知らずの女に命を狙われる覚えはねえなぁ」
現れた追跡者の顔に見覚えはない。
「プレイボーイの俺ともなると、いちいち女の顔なんか覚えてらんねぇからな、恨みを買うことでもしたか? なんか言えよ」
苦虫を噛み潰したような表情だけを向ける女の首筋に刃先を軽く押し当てる、首からはうっすらと血が流れる。
「何が目的だ、さっさと喋った方がいいと思うけど」
Agent GEEは女の長い髪を掴み、顔を近寄らせる
「そう怖ぇ〜顔しないで喋ってくれよ」
女の目をしっかり覗き込んだまま、刀を躊躇なく太ももへと突き刺す。痛々しい悲鳴が山にこだまする。
「早くしてくれねぇ〜かなぁ」
太ももに刺した刀に、痛みを加えるよう深く刺す、さらに大きくなった女の悲鳴は耳を裂くようであった。
「分かった、なんでも話すから助けてくれ」
「ったく、手間とらせるんじゃねぇ〜よ」
Agent GEEは女の太ももへ突き刺していた刀を引き抜いた、その際に痛がる様子がなかったことに多少の違和感を覚えた瞬間だった。
「…なぁ〜んてな、お前らのことは今日は殺さないでおいてやる」
とっさにAgent GEEは刀を振る、首を切り落としたかに思えたが、まるで流れる水をを切ったかのように、刀は女をするりと通り抜けた。
「感謝しな、機会があったらまた遊んでやるよ」
そう言うと、不敵な笑みを浮かべた顔が溶け出し、間も無く女の体はドロドロと溶け、その場で水たまりとなった、そしてその水たまりもすぐさま消えて無くなった。
「クソがっ」
Agent VARへ直ちに連絡を入れる。
「こちらAgent GEE、先ほどの追跡者は捕獲後溶けて消えやがった、擬態していたエイリアンだ。目的は不明、一匹とは限らないから充分に警戒してくれ」
「了解。こっちは目的のポイントへ到着、追っ手の姿は見当たらないわ」
「ここら一帯に人が入れないよう、地場管理しているから、宇宙船の回収が済んだら拾ってくれ」
通話を切りAgent GEEは先ほどまで追跡者が乗っていたバイクにまたがり山中へ消えていった。
川岸で待機していたAgent VARの腕の端末が回収目標物である小型の球型宇宙船の到着を告げる。
暗闇の中で目を凝らすと川上からドンブラコドンブラコと流れてくる薄ピンク色の機体を確認、小型の球型宇宙船は落下時の岩への衝突のせいか、船底部に凹みが生じ、さながら大きな桃のような形へ変形している、目視ではあるがハッチはまだ開いていないようである。
川岸につけておいた高機動車後部から大型アームを伸ばし、球形から大きな桃型へと変形した宇宙船を拾い上げ、そのまま中にいるであろうエイリアンが逃げられないよう宇宙船のハッチをアームでロックする。
「もう逃げらねないわよ、いい子にしてなさい」と宇宙船を小突き、本部へ連絡を入れた。
「こちらAgent VARです、宇宙船の回収が完了しました。落下による変形が見られますがハッチは開いた様子はありません、Agent GEEをピックアップ後、本部へ戻ります」
「本部URAより、よくやった気をつけて戻れ」
追っ手の気配は今のところない、任務の完了とはまだ言えないが、旦那であるAgent GEEにかわる汚名返上に一息ついた。
車のダッシュボードからタバコを取り出し、回収した宇宙船を横目に火を着ける。
「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか」