表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/11

第十一話 廃教会に巣食う者


「さぁできたぞ。干し肉と干し野菜を煮たスープだ。焼いたデーモンの心臓にはこれが合う。たとえ混沌の戦士とはいえ、調理した食い物の美味さを忘れるは寂しいでなぁ」


「ありがとうございます。ご馳走になります」


 斃した双頭のデーモンの体を切り裂いて心臓を取り出した俺たち三人は、イングさん……だと二人のどっちかわかんねえや、バルトさんとヒルトさんに誘われて、遅めの朝餉に誘われた。


 聖女街に入る前に、消耗した体力やらを回復する時間が欲しかったからなのだが、実を言えば三人揃って空腹を覚えただけだったりする。


 外壁沿いの岩場に、一休みできそうなちょうどいい岩場がある。

 そこを臨時の拠点とし、俺たちはそこで支度を始めたというわけだ。


 双頭のデーモンの馬鹿でかい心臓は、バルトさんが二、ヒルトさんが一、俺が一の割合で分割し、塩を振って焼いて食うことにした。

 にしても……でかい。これ心臓だけで何キロあるんだ?


 ひと口大に斬った心臓の肉を串に刺し、焚火で炙って焼く。

 野趣あふれる雰囲気が食欲をそそる一品だ。


「ミャザワ卿、どうぞ」


 ヒルトさんは木製の器にスープをよそって手渡してくれた。

 いやぁ、物腰柔らかな美人からもらうと格別だ。

 ……ちょっとオッサン臭いな。まだ二十代半ばだってのに。


「いただきます。それと、気軽にケンとお呼び下さい。ケン・ミヤザワと言います」


 やっぱりミヤザワって発音しにくいのか。

 あ、うめえ。肉と野菜の味が沁みてる。

 分厚いハツの焼肉に、このさっぱりしたスープはいいな。


「しかし、ミーヤザワとなぁ」


 ミーはヤザワじゃないです。


「ケンよ、貴公、エイジの縁者か?」


(やっぱり知ってたか)


 薄々予想はついた。カオチャではイングバルト関連のイベントがとても多く、ミヤザワエイジなる男がいたのなら、この人が知っていてもおかしくないもんな。


「お察しの通りです。ですが会ったことはありません。私は諸事情により、彼の足跡を辿っているのです」


「おお、やはりそうであったか! いや、髪の色と顔つきが、どことなくエイジを思い出させるのでな。もしやと思ったのだ」


 名前といい顔つきといい、日本人の線が濃いな。

 エイジミヤザワ……やっぱり宮沢英治なんだろうか?


「まぁ、あの高名な『デーモン狩り』エイジ卿の?」


「で、デーモン狩りですか」


 物騒な通り名がついてやがる……まぁ納得できるけど。

 どうやらカオチャよろしく、あちこちでデーモン退治してたっぽいな。


「あの男の足跡とな? うぅーむ、かの男とは各地で何度か会ってはいるのだが……最後に会ったのはどこであったか」


 その情報なんだ、欲しかったのは。

 もし俺が知るイベント関連と一致すれば、そこから逆算してエイジの辿った道筋が推測できる。


「おお、思い出したぞ! 北方だ。ボレオール城をおとなった際に、偶然再会したのが最後であるな」


「ボレオール城……」


 あそこか……知ってるぞ。レガシーダンジョンの一つだ。

 北方はかなり終盤で行くことになる広大なエリアで、雪と氷河で彩られた銀世界たる北方の中心部に、ボレオール城がある。


 無人の廃都に囲まれた中心部に聳え立つ巨大な城で、侵入ルートも複数あり、地下エリアも含めればゲーム中でも屈指の広さを誇る。


 閉じられた城門を迂回して、無人の街中をあちこち回り道しなければならず、出没する敵はみな手強く、しかも集団で徘徊しているので、どうしても遭遇戦が多くなる。


 建物は多くが原型をとどめており、死角と高低差に悩まされる。

 かてて加えて、城の外では常に猛吹雪に晒されて、体力を多く消耗する。


 そうして城に辿り着いたら、吹雪のかわりに嫌らしい罠と強敵の不意打ちがダース単位でお出迎えって寸法だ。


 北方エリア。そしてボレオール城。

 初見なら、死亡回数は十回や二十回では済まない終盤の山場だ。


「少々共闘はしたが、すぐに別れてしまったのでな、その後のことはわからぬ。すまぬな、ケンよ」


「滅相もありません。ありがとうございます」


 そこまでで会話は一時中断。三人揃って食事を済ませる。二人ともこんな生活が長いんだろう。食べるのも片づけるのも滅法早かった。


「美味しかったです。ごちそうさまでした」


「お口に合ったようでなによりです。ところでケン様、これより私たちは、ここ【聖女街】とやらで野暮用を済ませにいくのですが」


「うむ、貴公はどうするのだ? よければ同道するか?」


「願ってもないこと。是非ご一緒させて下さい」


 ラッキーだ。正直なところ二の足を踏んでたんだよな。

 俺にとって秩序騎士は、まだまだ強敵と言わざるを得ない。

 ここは遠慮なくお言葉に甘えるとしようかね。




 ◇ ◇ ◇




 洗った鍋やら食器やらと、水袋や食料などを拠点に置き、俺たちは、先頭にバルトさん、次にヒルトさん、最後尾に俺という縦一列に並んで、亡者街、もとい聖女街の入り口のアーチをくぐった。


 このエリアの構造はそれほど複雑じゃない。

 中央に広めの通りが長く伸び、二つの入り口たるアーチに繋がっている。


 バルトさんは脇道には目もくれず、通りを真っすぐ進んでいる。

 この広い通りの真ん中あたりで小高い丘へ伸びる短い坂道があり、その先に廃教会があるのだが、そこに向かっているんだろうか?


「今更ですが、お二人はどういう目的でここに?」


 ホントに今更だが聞いてみた。

 聞いていいもんかどうかわからんかったしな。


「うむ、我が娘を聖女にしようと思ってな」


「お父様、まだなれると決まったわけではありませんよ」


「聖女に?」


 どういうことだ。聖女って、狙ってなれるのか?

 魔女もそうだけど、理力と混沌量をメインにステ振りしても人間性が下がるだけで、プレイヤーキャラが女であっても他人や自分をレベルアップさせる力に目覚めて聖女になるなんてイベントは発生しない。


「ここに移り住んだ一団がな、意図的に女の混沌戦士を聖女として覚醒させる技術を編み出したというのだ。吾輩はそれを聞き、あわよくば娘も聖女にできぬものかと思ってな」


「まだ未確認の情報なのですけどね」


「なるほど、それで」


 合点がいった。

 混沌の戦士が強くなるためには、魔女か聖女の協力が不可欠だ。


 デーモンが闊歩する荒廃した世界を生きていくには、混沌の戦士に再誕して自衛力を持つのが一番であり、なおかつ聖女としての強化能力も併せ持つことができるなら、他者の協力も得やすくなって、より生き抜き易くなるのでは、という考えなんだろう。


「この街にはその情報が真実かどうかを調べるために来たというわけですね」


「うむ! そんな方法が編み出され、首尾よく娘が覚醒できれば万々歳なのだが……むっ?」


 話しているうちに、脇道から【なりそこない】の一団が現れた。

 呻き声をあげながら、幽鬼のような歩みでゆっくりと迫ってくる。

 姿が見えないと思っていたが、いなくなったわけではなかったようだ。


「なりそこないどもですね。数は……四体ですか」


「ものの数ではないわ。ここは吾輩に任せい。十秒もいらぬ」


 バルトさんがグレートメイスを構えて前に出る。

 だが俺は、咄嗟に彼を呼び止めた。


「待って下さい!!」


「む?」


「ケン様?」


 制止したついでにバルトさんの前に出る。

 念のため抜剣して構えたが、まだ俺に攻撃の意志は無い。

 それよりも、俺はこの『見覚えのある衣装』に目が釘付けだったからだ。


「どういうことだ……?」


「ケンよ、どうしたというのだ?」


 現れた一団は、四人全員が女性の【なりそこない】であり、こちらに迫ってくるかと思いきや、ただ苦悶の呻きを漏らしながら周辺を徘徊するばかりで、一向に攻めかかってくる様子はなかった。


「この四人の服装……」


 俺は知っている。これは防具……【盲目聖女のローブ】だ。

 最初に出逢う聖女マグダレナ、彼女が纏っている服装にそっくりだ。

 少し記憶が怪しかったが、よく観察してみて確信した。


【盲目の聖女マグダレナが纏っているローブ。

 ささやかに刺繍の文様が施された、質素だが上品なもの。

 だが惨劇に見舞われたのか、返り血やらで薄汚れている】


 そしてこの一団───


「お父様、この方々、目が……」


 ───全員、眼球が無かった。


「むう? これは……なんだというのだ」


 直感が、不穏な推測と結びつく。

 何の根拠も無いのに、半ば確信的に。


 マグダレナはいかなる事故でか、両目を負傷している。

 というか顔の上半分に、引き裂かれたような酷い傷痕がある。

 それで失明しており【盲目聖女】の名はそれが理由だ。


 繰り返しになるが、魔女や聖女に覚醒する詳しい条件は不明である。

 理力や混沌量の成長と、何らかの要因によって覚醒する、程度の推測しかできておらず、何をどうすれば覚醒するのかはわかっていない。


 構えた剣を閃かせる。一人につき一閃ずつ。

【血の遺志】による技の冴えは、狙い過たず四つの首を転がした。


「イングバルト卿、イングヒルト卿、お二人はこの地の聖女、マグダレナ女史に会ったことはありますか? それと、聖女の覚醒を行っている者はご存じですか?」


「……いや、どちらも知らぬ」


「私も同じです。そもそもこの情報を得たのもつい最近のこと。幾人かの戦士たちの中で、人づてに聞いただけのものです」


 俺の声音が硬質なものに変わったことを察したか、二人の声も警戒の響きを帯びている。張り詰めた雰囲気が肌に伝わってくる。


「行きましょう。まずはあそこに。丘の上の廃教会へ」


 それきり三人、無言になって進む。

 ほどなく通りの真ん中辺り、聖女街の中央区画に辿り着き、丘の上の寂れた廃教会へ向かう坂道を登り始める。


「むっ……」


 先頭を進むバルトさんが足を止めた。

 教会の入り口に番兵よろしく佇んでいた二人の秩序騎士が俺たちを見つけ、それぞれ剣と盾を構えてこちらに迫ってきた。


 虚ろな眼差しで開けっ放しの口から怪しい唸り声をあげて、言葉のかわりに殺意を投げかけてくる。


「もはや人間性も枯れ果てたか」


「是非もありません。お父様、私は右を」


「うむ。続けィ! 娘よッ!!」


「承知ッ!」


 先鋒として突っ込んだバルトさんのグレートメイスが唸りを上げた。

 左の秩序騎士を吹き飛ばす。全身鎧を着こんだ大男が、それ以上の大男に人外的な怪力で打擲されて地に転がった。


 残った右の騎士が襲い掛かる───前に、バルトさんの脇を抜けて、斧槍ハルバードを構えた騎士が突進した。


「てぇいッッッ!!」


 裂帛の気勢とともに繰り出された、体当たりじみた突き込み。

 体格こそ秩序騎士にやや劣るものの、突進力と甲冑の重さを穂先の先端に集約させた一撃は、女性の身であろうと大柄な体格を縫い止めた。


「ギャオアアッッ?!」


「でぇ……ぃやッッッ!!」


 正気の失せた騎士もどきが苦悶に吠えたことなど露ほども気にせず、ヒルトさんは槍の穂先を引き抜き、そのまま斧による一撃を首元に叩きこんだ。


 引き抜く動作から武器だけ一回転させつつ繰り出した打ち下ろし。

 左足前・左手添え右手刺突から、踏み込みつつ持ち手を換えて、右足前・右手添え左手引きの袈裟斬り落とし。


 鮮やかで淀みない二連撃。美しささえ感じさせた。

 斧槍の重さと回転力は鎧をひしゃげさせ、首も鎖骨も胸骨さえも砕いて致命傷を与えた。


(すげえ……)


 まさしく、ほこにてとどむ、と書いて武の一文字。

 二撃で仕留めたその一芸は、武芸と称して差し支えなかった。


(パワーファイターかと思ってたけど、もしかしてヒルトさんは『筋技ビルド』なんじゃないか?)


 たしかハルバード系は、装備条件が筋力だけでなく、少し器用を要求される武器だったはずだ。そしてこの武器は、筋力と器用を重点的に上げていく『筋技ビルド』……調整も運用も難しい、玄人御用達ビルドの最適武器なのだ。


フンッッッ!!」


 ぐしゃり、という音で我に返った俺が振り返ると、吹き飛ばした相手を追い打ちの振り下ろしで絶命させたバルトさんが佇んでいた。


「お二人とも、お見事です」


「なぁに、吾輩も娘もまだまだよ」


「私など雛鳥に過ぎませんよ。お父様の足元にも及びませんもの」


 それにしたって充分強い。

 ええと、ゲーム中でのバルトさんの再現ステ振りは……




 レベル 150 人間性 ??


 生命力 50 体格 44

 混沌量 10 筋力 50

 持久力 40 器用 10

 瞬発力 15 理力 10




 ……こんな感じだったな。

 で、仮に雛鳥……レベル50くらいで筋技ビルドなら……




 レベル 50 人間性 ??


 生命力 25 体格 15

 混沌量 10 筋力 20

 持久力 20 器用 14

 瞬発力 15 理力 10




 ……ヒルトさんはこれくらいか?

 もうちょい高い気もするな。


 などと、俺が懲りもせずゲーム感覚の雑念に囚われていた時。




「いやぁあああああッ!!」




 絹を裂くような女の悲鳴が、廃教会の中から響き渡った。


「ぬぅッ?!」


「中からです!!」


「クソッ!!」


 俺たちは発条バネで弾けたように揃って走り出し、開け放たれていた教会の大扉をくぐって中に踏み入った。


 そこで見たものは───


「おや、お客様ですか?」


 ───手のひらで二つの眼球をもてあそぶ、裾の長い黒衣の男。

 その男の足元でうずくまり、呻き悶える若い女。


 そして二人を囲むように居並ぶ、幽鬼のような聖女姿の無数の女たちだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ