010 ノロイ
ハルカは武装をして山中を歩いている。
足軽のような、落武者のような格好だ。
勇者からパクったチートアイテムの日本刀、兎月村正も装備している。本当はバニースタイルでないと扱えない代物だが、師匠が取り憑いているときは一刀だが使えている。
師匠は霊体のまま後ろをついてきている。合意なしの憑依は禁止することになった。というか、ハルカが嫌がれば追い出すことができるようになっていた。
〈おそらく、スーパーパワースポットである霊山の力だろう。おぬしの「霊眼」も常時発動しているし、おぬし自身の霊力が増幅しているのかもしれん〉
と師匠は解説する。
ハルカ的には迷惑だ。霊眼は見えてはいけないものを見せる。夜中におしっこに行けなくなる。
しかし、山頂の鳥居をくぐってから庵の周辺で幽霊らしきものを見ていない。
しかし、その理由はすぐにわかった。
すべての幽霊はノロイの狩場にいた。ノロイに殺されたものがおびただしい怨霊となって。
「うぎゃぁーーーーーーーぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
ハルカは悲鳴をあげてとびのく。
「慌てるな。お主が持っている魔力の打刀ならば斬れるじゃろう」
「あれやっぱ襲ってくんの? モンスターなん?」
「うーん。意思も感情も失った怨霊じゃて、行動はいまいち読めんが、基本的に生命に執着があるゆえ、人間には寄ってくる。ぜんぶではなかろうから安心せい」
「いやー、それにしてもあの数は無理やろー」
ハルカはなぜか小声になる。足もガタガタと震えていた。
「そ、そやっ! 眼帯!!」
ハルカは慌てて眼帯を取り出して目を隠す。しかし。
「あれ、あれ!?! 見えたまんまや!」
「そういえばワシが200年前に来た時も見えておったな。ワシ霊力ないのに」
「それはどういうことや!?」
ハルカが振り向くと師匠の姿がない。
「し、師匠、どこ行ったん!?」
「いやっずとここにおるじゃろ。お主のスタンドのように」
「まさか師匠だけ見えなくなった?」
ハルカが眼帯を上にあげて目を覗かせると、師匠が見えた。
「どういうこと? 師匠はあっちの幽霊とジャンルが違うの?」
「あれら怨霊は激しい恨みでこの世を去ったものというからな。ワシは死んだ時、自分の剣で敗れたのであれば仕方がないと思うていた。ただ、アヤメルと五条君のことだけが気がかりでな。なので地縛霊なのかもしれん」
そうであれば、眼帯をつけてもまったく意味はなさそうだ。
むしろ師匠がどこにいるかわからなくなる。
「さて、準備はいいか?」
「ビジュアルは怖いけど、どうせ戦うの師匠やもんな。任せるわ」
「オッケー。では、パイルダーオーン!!」
「人を巨大ロボのように扱いやがって!!」
師匠がフェードインしたハルカは鞘から刀を抜き払い、ゆっくりと歩み出す。
怨霊の群れのなかに入っても、一切動じることはない。
怨霊も取り囲むようにしているが、様子を見ているかのようだった。
その時、静寂を破るかのように一体の怨霊が襲いかかった。
しかし、次の瞬間には切り滅ぼされていった。
一体、二体、三体……。次々と斬られていく。
「まったく目にもとまらん。マジ剣聖。ていうか、幽霊って一体、二体って数えんの?」
〈どうでもよくね?〉
「技のネーミングにはこだわるのに、そういうとこ雑やな」
〈じゃあ1G、2Gとかは?〉
「いや、スマホの通信速度っぽい」
〈1GB、2GB……〉
「ギガバイトになっとるがな」
〈いや、ゴーストボディじゃ〉
「ボディあらへん」
〈なら、グレートブリテン〉
「それはイギリスや。」
〈そうこう言っているうちに、45MB倒したぞ〉
「容量が減っとるやん」
怨霊はまだまだいたが、すでにハルカの背後だった。
どうやら怨霊の溜まり場からは抜け出したらしい。
〈ノロイの居場所に近づいたという事じゃ〉
「そ、そうか」
ハルカはゴクリと息を呑む。
〈作戦は覚えているな?〉
「ああ。ノロイとはふつうに戦う。おそらく激しく長い戦いになる。長丁場を耐え抜いたなら、隙は必ずあらわれる。その瞬間を見逃さず〈壱乃太刀〉を打ち込む」
〈その通り。肝心なのはハルカス、お主も殺意を消す事だ。さきほどはできておった〉
「まあ、見てるだけやったからな。どいつもこいつも一瞬やったし」
〈しかし、撃ち合い続けていたら気持ち、感情が爆発する。倒してやろうという気持ちじゃ。それこそ殺意〉
「わかった。無でいくわ」
〈よし。さあ、ここじゃ〉
「もう、着いたんか」
そこには古い建物があった。木造の倉庫のようなもの。
注連縄があり、神社のような佇まいだった。
「ワシの狩場を荒らすものは誰じゃ?」
ふいに建物から声が聞こえる。男のものとも女のものとも思えない不快な声。
現れたのは人の姿だった。般若のような面をかぶっている。
「え? ちょ、怪物なんとちゃうの!?」
〈あれかノロイじゃよ。……アヤメルじゃ〉




