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ざんねんな異世界の冒険者たち  作者: 無銘、影虎
1.5章 ジョブチェンジ 編
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006 200年前の話

「お主の体があればワシの200年におよぶ宿願が果たせるかもしれん」

 霊体ゴーストの師匠は語り始めた。

「宿願?……っていうか体が痛い!!」

 先ほどまで師匠に体を乗っ取られ、激しい剣技を披露した肉体が突如悲鳴をあげる。

「まずは肉体改造からじゃな」

「いやや、ウチそういうの続いたことがあれへん」

「だからこそ、ワシがお主に乗り移ってトレーニングをする。お主がいくらサボりグセがあろうともな」

「なるほど、それならウチはなんもせんとええわけや」

「そゆこと」

「しかし、やりすぎんといてくれよ、すでに体中がぎしぎしいうとる」

「り」

「ともかく、そんなんでええのやったら、助かるわ。エロいことだけすんなよ」

「り」


 そうして、ハルカの修行は師匠が憑依することで解決した。

 とんでもなく教えるのがヘタな不死家卜全ふじいえぼくぜんにとっても、全身全霊の技を伝えることのできるはじめての弟子となった。

 しかし、ラクにレベルアップできると思っていたハルカにとって、毎日は気の抜けないものになっていた。

 朝起きて神社と屋敷の清掃をする、神棚にお供え物をして、五条くんのつくった朝飯を食べる。至福のひと時。そして、道場に赴いて師匠に取り憑かれる。激しい稽古。終わると体が動かなくなる。その隙に師匠がエロいことをしようとする。ハルカは気合を入れて師匠を追い出すことに成功する。そして昼寝。目覚めると夕方。五条くんといっしょに晩飯の用意をする。食べる。至福の時。風呂を沸かして湯船につかる。至福の時。そこを見計らって師匠が取り憑こうとする。気合を入れてそれを拒む。リラックスできない。


「じぶん、今度やったら、永久に取り憑かれんようにすんで!!」

ハルカは、なんとなく憑依を拒むコツをつかんでいた。

〈そうか、ようやく意思の力で霊力をコントロールできるようになったか……〉

師匠は、まるで自分の教えの成果のように言った。

「ならなんで、そんなガッカリ口調やねん」

〈え? そんなことないけど? もう霊体だしー、女体に興味なんてないしー〉

「なんで、そこまでしらじらしい感じで言えるねん。台本読んでるのか。そしてヘタか」


 ※  ※  ※


「だいぶ順調に仕上がってきたな」

師匠は言う。

「ああ、体が勝手に動いとった頃に比べて、自分の感覚で動いている感じになっとる」

「そうじゃ。動作は体が覚える。まさかこんな教え方があるとはな。〈教えるのヘタ選手権世界一位〉のワシが……」

「そんなコンペティションないやろ。でも、五条くん、それでもあんなに強いんやん?」

「あれはもう、独学じゃ。ワシの剣を継承したのとは違う。あれは烏丸流と言っていい」

「おかわいそうに200年も」

「だが、お主ははじめてワシの剣を継承する。〈無手勝流〉じゃ」

「無手勝流? そういう流派があんねや?」

「いや、いまつくった。ワシも実は独学でな。誰かに習ったわけではないのだ」

「そうやったんや」

「無手勝流の極意は3つ。〈殺さない〉〈戦わない〉〈怨っこなし〉じゃ」

「保育園?」

「ワシがたどり着いた究極の剣術じゃ……」

そう言ってから、師匠は回想シーンに入りますよ、といった感じで目を瞑った。


 ※  ※  ※


 少し長くなる。


 ワシは、ナルニワ大陸の東にある日本風の国「キサラギ」の生まれじゃ。


 (ナルニワにはレダ以外の国もあるとは聞いていたけど、冒険者はいかないところやな……) 


 そう。ナルニワ大陸はほとんどが中世ヨーロッパ風のレダ王国の領土だが、都合のいい感じに、そっちの世界ていうところの、和風の国やら中華風の国やらがある。〈はじまりの魔導士〉がすべての国の建国者じゃ。


(あれ? 心に思っただけなのになんか会話になっとる)


 ワシはな、キサラギの下町育ちで、両親はおでん屋を営んでおった。


(剣道場とかではないんやな)


 そう。平凡な子ども時代じゃった。

 とはいえ、ちっちゃな頃から悪ガキで、12歳で不良と呼ばれたよ。

 触るものみな傷つけた。


(早くね? そして、それはチェッ◯ーズでは?)


 15歳になって遂にバイクを盗んだ。


(オーザーキーぃぃぃ)


 毎日盗んだ。その数、1000単車になったところで、その支配から卒業した。


(オ◯キもそこまでしてへん。そしてお前は何に支配されとったんや)


 その頃だったかな。ワシが剣豪ランキングのトップ10に入ったのは。


(いきなりすぎる)


 それと、もうひとつ。あの頃は家系ラーメンにハマっていた。毎日食べたよ。どんなに胃がもたれてもな。ニンニクもマシマシマシじゃ。


(修行みたいに言うとるが、どうせ関係ないんやろ?)


 その甲斐もあってワシは剣豪ランキング1位のまま1000人を倒し、永世龍王、またの名を剣聖の称号を手にした。


(どうやって強くなったか教えろや)


 ワシはあらゆる権力者の剣術指南をしたよ。しかし、免許皆伝にできる者はついにおらんかった。


(教えるのがヘタやからやろ)


 しかし、権力者は強引に免許皆伝を迫ってきたよ。ワシは逃げ出した。盗んだバイクでな。


(何台めのやつで?)


 そうして、このヴァリスの国にたどり着いた。いまはアカツキというのじゃな。さらに独立して異世界市か。ともかく、もうなにもかもが嫌になったのじゃ。

 ワシは人を殺めすぎた。なにしろ、剣豪ランキングトップ10が10年連続。


(どこの主催やねん?)


週刊文秋の読者投票でも7年連続1位じゃった。


(すごいのか、すごくないのかがわからへん!!)


 この読者投票は誰も楽しみにしなくなった。もう2位争いにしか興味がなくなっていた。組織票で前回、32位のやつをトップにしようという動きがネットであった。でもわしは乗らなかった。12位の女剣豪が推しだったからじゃ。すごい年増じゃった。熟女じゃ。


(ジブンはどの立場で参加しとるんや?)


 ともかくワシは世を捨てて、ナルニワ大陸からこのアカツキの、霊山に来た。12位の女剣豪も誘ったが、彼氏持ちじゃった。


(いま、ウチは、熟女にフラれたオッサンの思い出話を聞いているということでええんやな?)


 悲しいかな、ワシを殺して名をあげようという剣豪ランキンガーがいっぱいきた。

 

(たぶん、ランカーいうのが正しいで)


 全部殺した。じゃなきゃ死んでたからだ。


(こわっ。急にこわっ)


もしかしたら12位のあの子がくるかもと、ランキングを聞きながら待った。でも12位は別のオッサンになっていた。そして、ワシは全部を倒した。

 でもあの子は来なかった。。

 人を殺めても、恋は実らない。


(え? 逆に人を斬ったら恋が叶うって、どの世界の常識?)


 しかし、刺客は毎日のように現れた。おもにワシがバイクを盗んだ権力者じゃ。


(バイクは盗んでもええけど、権力者かどうかは確認してからにせい! いや、違う。そもそも窃盗するな!!)


 ワシは殺人剣に絶望していた。どんなに強くなろうとも、人の命を奪えば、憎しみがうまれる。それしか、生まない。これほど無意味なことがあろうか。


(その前に窃盗やめろ)


 だから、ワシは隠れた、逃げた。戦わないことに徹底した。剣聖として嫌われる勇気を身につけた。


(お前を好いとったやつおったんか?)


 しかし、ワシはいつしか、あいつ、剣豪じゃなくて忍者じゃね?といわれ、忍者ランキングトップ10の常連になった。忍び続けたのだから、ある意味当然じゃろう。そして『月刊シノビ』の表紙を5号連続で飾った。


(は?そこで忍者? そして、まったく忍んでなくね!? なに雑誌の表紙飾ってんだよ)


 この庵に連日人が訪れた。

 チェキ会には1000人の行列ができた。

 さすがのワシも限界じゃった。


(アイドルか)


 そこで、この山の霊力を利用して鳥居をたて、結界をつくった。

 

(なんという、しょーもない歴史や。この異世界市きってのパワースポットが)


 しかし、この結界をくぐって

 ひとりの「くノ一」がワシの命をとりにきた。

 ワシはなんちゃって忍者じゃが、それは本当の忍びだった。

 名前をアヤメという。


(調子に乗りすぎてマジな忍者に命狙われたんやな。そりゃそうやろ。忍者でもない師匠が何度も『月刊シノビ』の表紙を飾るのは、一生懸命に忍者やっている人たちに失礼やで)

 ハルカは、その業界のことをなにも知らないが、なんとなくそう思った。そして、なんてくだらないとも思った。そもそも忍者が雑誌の表紙に出てくんなよ。


 彼女はこれまでの刺客とは格が違った。

 しかし、彼女は暗殺者でありながら、ワシを殺さなかった。

 丸腰だったからだ。

 それは彼女の矜持としてできないことだった。


(いい作戦を思いついたんや)


 それからワシは全裸で過ごした。

 寝る時も布団をかけない。標高が高いのにもかかわらず、霊山は暑いのじゃ。


(作戦ではなかったんや)


 彼女は12位の面影があった。しかし、明らかに若い。少し15位の面影もあった。


(忍者ランキングにエントリーした『忍者名鑑パーフェクトブック』を貸してくれへん? ぜんぜん想像が捗らん)


 彼女は全裸のワシを殺せなかった。

 この時点でワシの勝ちだと思うが、やつはワシが服を着るのを待ち続けた。


(フルチンのおっさんを殺害しても、むなしいだけやからな……)


 アヤメはその間、ワシを狙う別の刺客を殺し続けた。

 的確に、確実に。もう、もう、どっちかというと、ワシを守っていた。


(アヤメさん……)

 ハルカはアヤメに複雑な同情を抱いた。

(こんなしょーもないオッサンを殺すミッションを受けたばかりに……)


 真冬。ワシは全裸でいる限界を感じていた。

 アヤメも毎日やってくる刺客に限界を感じていた。


 ノロイが復活したのはそんな時のことじゃ……。


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