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ざんねんな異世界の冒険者たち  作者: 日向小次郎影虎
1章 ざんねんな異世界 編
6/70

006 ざんねんなミッション

 仕事終わりにマリンに誘われてコンビニに寄った。

 着替えてはじめてちゃんとした姿を見たが、マリンはすごい美人だった。クールで切れ長の目、スタイルもいい。とくに足が長い。銀髪のロングヘア。廃エルフもまんざらじゃない。普段着なのかタンクトップに短パンという露出多めなところに雑にパーカーを羽織っている。


 マリンは木刀を腰にぶら下げていた。

こわ。こんなんがコンビニに入っていいのだろうか。

 コンビニも「あっち」とあまり変わらないどころか、正式なフランチャイズのようだ。おにぎりや弁当、ペットボトルの飲み物やアイスも売っている。

 Gスレイヤーも売っていた。2500ゴールドだった。

「高っ!」

 今日バイト先から10万ゴールドをもらった。というか先立つものがないといけないのでバイト代の前借りということだった。つまり、返すまではGスレイヤーにシールを貼り続けないといけない。いや、もしかしたらずっとかも。


 弁当と缶ビールを2本買った。1200ゴールドだった。ほぼ円の感覚だ。

 マリンが部屋でいっしょに飲もうという。

 聞いたらおなじマンションだ。


 ハルカは同い年の女がいちばん苦手だったが、同い年というか、もはやエルフだし、異世界の恥はかき捨ての気分になっていた。あと、ギャルの知り合いもあっちにはいない。最近のラブコメではだいたい、ピュアないい人だし、マリンもそういふうに見えた。そしてグイグイくるし、ボディタッチしてくる。

ちょっと圧倒されてる。


 マンションに戻ると玄関の前にフィーナと中村がいた。

「やあ、千葉さんもいっしょだったんですね。ちょうどよかった。阿倍野さんの歓迎会、しましょう」

 ふたりともビニール袋を手にしている。酒やつまみであろう。

(ふつう、異世界来たらビールとコンビニおつまみで歓迎会開いてくれるもんなのか?)

 と、ハルカはここにきてから頭がバグっている。


「カンパーーイ!!」

 缶ビールのプルタップをぷしゅっとやってゴクゴク。

「ぷはーーーっ」

 あえて言った。昼間は魔物倒して夕方は工場でシール貼り。充実しているのかどうかはわからないが、すっきり爽快気分。

「もう、異世界とかどーでもええなー」

「マジそれなー」

 エルフのギャルが同意する。

「おふたりとも気があうようでなによりですね」

 ハルカはコンビニで買ったのり弁を食べる。完全な「あっち」クオリティ。


「つーか、あーしんとき歓迎会とかなかったじゃん。つーかあんたに会うのも三ヶ月ぶり? つーかくらいだし」

 マリンもコンビニで買ったソフトさきいかを食べている。

「いやー申し訳ない。つーかずっと仕事がいそがしくて」

 中村は恐縮していない顔で答える。

「つーかやめろ」


 ハルカは2本目を開けた。

 中村には今日の体験クエストやバイトのことをざっくり話した。

「そうですかー。戦闘苦手ですか。困ったなー」

「経験積んだら強くなるんやろうけど、ウチレベルあげとか嫌いやねん」

「あー、あーしもー」

 エルフ美女はこんどはチョコアイスもなかを食べている。

「多いんですよね。そういう人」

 中村はため息をついた。

「なんか困ることあんの?」

「ええ。じつはそのこともあって今日はうかがっているんです」

 かわりにフィーナが答えた。

「最近、異世界できちんと人生やり直そうとか、充実した異世界ライフを送ろうという気持ちの入った転入者が少ないんです」

「そうなん?」

「そこの千葉さんもです。転入してから三ヶ月たちますが、冒険者エリアにも行かなくなりました。いまではただのフリーターです」

「えーまじめに働いてんだからいーじゃーーん」

(エルフのフリーターか。ならなんで木刀ぶらさげとんねん。そしてこいつギャルなのにちゃんと働いてて真面目か。いや、ギャルはそもそも真面目な種族やったっけ?)

 ハルカはいくつかツッコミを発動したがサイレントだった。酔っていたからだ。


「そうなんですが、モンスターは一定量倒してもらわないと治安が乱れるんです。現地の人は生活者なんで冒険者は少ないんです。あと行政のほうでも、魔力や魔物素材の年間収穫量も予算化されていて。ぼくら転入者サポート課としてはその実績も問われていまして」

「なんやそのノルマみたいなんは」

「実際、ノルマなんですよ。実績賞与に影響します」

「よし、飲もか!」

「もう飲んでますよ。とにかく冒険者さんたちの活動実績をあげないと中村さんの立場にかかわるんです」

「あんたは違うの?」

「わたしは責任者ではないので。でも、中村さんが困ると私も困るんです!」

 といってフィーナはちらちらと中村に視線を送る。中村はいっさいの表情をつくらず無言でいる。しらばっくれているのか。

(めっちゃわざとらしいラブコメはじまった!)

 なぜかハルカはドキドキした。


「にしても、なんかえらいちっさい話やな・・」

「まあ、そういわず。仕事でもありますが、せっかくの異世界を楽しんでもらいたいのは本心でもあります。どうせ帰れませんし、バイトとかいつでもできるんで」

(帰れない事実軽っ!)

「つーかー目的がないっつーかー」

 マリンは髪の毛を指でくるくるやってる。

(あっちの世界でもフリーターやってそうやな)

「ハルカすみたいにハーレムしたいとかないしー」

「オイ、コラ。ばらすな」

「みんな知ってますよ」

 フィーナがあざける。公開設定わざと教えなかったのか。

「ていうか、いま『ハルカす』いうたんか。お前も『ぞぞ』にしたるぞ」

 ハルカはマリンに絡んだ。酔っていたからだ。

 しかしマリンはにっこりピースしている。


「まあ、阿倍野さんのハーレムはともかくとして、たしかに目的がないと作業ゲーですもんね」

 中村がいう。

「作業ゲーって。……っていうか魔王とかおって、それ倒すとかいうフツーあれは? フツーってなんやろって思うけど」

「や、まったく。そうっすよね。魔王、いたらいいんすけどねー」

「その感じだとおらんよーやな」

「いや、確認されてないというか。行政のほうでもさがしてるんですが。もういっそのこと召喚できないかなって」

「魔王にいてほしいって、なんかゆうてておかしいの気づけへんの?」

「実際、強いモンスターが発見されると、冒険者稼働率上がるんですよー」

「平和より大事か」

「このままだと『異世界来たらクソゲーでした』というタイトルになってしまうんですよ。困るんです」

「2周まわってマジでおもんなさそやな」

「そこで、おふたりには入門者のめんどくささをすっとばして、上級レベルのダンジョンにもぐっていただこうかと」

「なんでや、危ないやろ」

「いやいや、おまちかねのチートですよ、チート」

「テレビショッピングの時間か」

「ほかの人には案内してません。特別なんです」

「詐欺の常套句!」

「お申込みは本日限りなんです」

「それも!」


「『最強装備で初心者でもけっこう冒険楽しめましたの件』で。うふ」

 フィーナがかぶせる。

「4周まわってマジでおもろなさそやな」

「『初心者なのに高レベルダンジョンに挑んだら、いつのまにかハーレムができていた件』だとしたら?」

「ハーレムとのつながりが見えん」

「『異世界ハーレムをつくりたいので中村課長には逆らえません』で、どうです!?」

「せやからつながってへんねん!  『わたしのハーレム第1号は中村課長だった』、どや?」

「だが断る!」

「なら断る!」

「なにそれーうけるーぎゃはははは!!」

 マリンがふたりのやりとりに爆笑している。

「まあまあ」


 その後、しばらくゆっくり飲んだ。

「しかし、そんなチートアイテムあるんならみんなに配れよ」

「SSランクの装備なんてめったにありませんよ。それに市のものではなくて個人蔵なんですよ。で、じつはその所有者も冒険にひっぱりだしたいんです」

「誰?」

「伝説の勇者です。先に言っておきますが『伝説の勇者』という異世界ネームの人です」

「恥ずかしくはないんか、そいつ。いじめられてまうで」

「略して『勇者さん』です」

「個性がなにひとつなくなった!」

「でも実際にこの世界では最高クラスの魔法戦士なんです。職業が勇者という名誉職にもかかわらず」

「名誉職やったんかい!」

「伝説の勇者さんがフル稼働してくれたら、ノルマの問題もそれほど深刻にもならないんですけど、彼もやる気をなくしてまして」

「なんで?」

「まあ、彼も強くなりすぎたというのもあるのですが、資産も十分にもってしまったので、いまは趣味に没頭しているといいますか」

「趣味?」

「それが、装備品をつくることでして」

「はーそれで」

「彼はいっしょにパーティーを組んで冒険に行ってくれたらその装備品を貸し出すっていうんです」

「は? そんないいもんなら応募者殺到ちゃうの?」

「でも、ご本人的に誰でもいいわけじゃないらしく・・とりあえず女性限定なんです」

「ウチらならいいの?」

「はい。そういうわけでいかがでしょう?」

「あーし、いいよー。伝説のギャルがノリで世界を救いましらの件」

「1周もまわらずに駄作臭がするな……。まあ、ウチはバイトするよりおもろいほうがええわ」

「バイトしたくない関西ギャルがなんかいいものにつられれおもしろいことをすれがてら」

「噛んだっ!へたくそ!酔っ払い」

 そのあともみんなわりと飲んだ。

 結局、そのノリで了承してしまい、数日後、ハルカとマリンは伝説の勇者とお出かけすることになった。


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