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ざんねんな異世界の冒険者たち  作者: 無銘、影虎
2章 最弱とチートと復讐と 編
53/72

027 戦争

 北の宮殿では、国王軍レクス・レギオンが集結していた。

 座間ショウヘイから国王へのホットラインで、伯爵令嬢シティアの発見と保護がただちに伝えられた。

 シティアからクーデターの真相と、ムーンランス領の現状が伝わり、国王には全ての大義がそろった。


 それ以前より準備されていたことだったので、軍事行動はただちに実行にうつされた。

 前線部隊はわずかに2000。後方支援部隊、従軍職人を加えても2800だった。

 諸侯にはいっさい召集をかけていない。国王軍のなかから、厳選招集された。


「敵の数、3万に対して2000の招集とは? しかも新兵を多くお選びになっている。どういうおつもりで」

 ギルバート将軍は隣にいる家令のシュナイダーにたずねる。

 軍師や参謀の役がこの国には不在だが、シュナイダーはそれに近い扱いを受けている。

 家令というのは事務方のトップではあるが。


「はいはい。おそらく敵がいうほどには兵は集まらないと見込んでいます。まずはプロパガンダとして〈吹いてい〉る可能性、さらに一部で徴兵への抵抗が起きて、兵が集まらないどころかその討伐に兵を割かれている可能性、いろいろあわせて、せいぜい6000がいいところだろうと。なにしろシティア様が救出されて、真実が世に出ましたからな。しがらみで付き合っていた小領主は参陣しないでしょう。のこるは野心に同調したもの、あるいは戦局が読めないポンコツでしょう」


「なるほど、そこまでお読みならせめて同数以上は揃えるべきかと。2000とはいかにも少なすぎる」


「こたびの戦、長引かせたくないのです。できれば一発勝負で。だから籠城などされては困ります。敵に〈あれ、これ勝てんじゃね?〉と思っていただきませんと」


「こちらがワンチャン負ける可能性は?」


「ありませんよ。将軍ともあろうお方が。たかだか三倍の兵力差」


「し、失礼しました」

 と、言いつつ、そんな根拠ない自信を常識のように言われても困惑するばかりだ。

 王国にはここ80年、戦争と呼ばれる状況は起こっていない。

 ギルバートは〈平和世代〉の7代目将軍だ。実戦経験がないのはコンプレックスでもある。


「ともかく、あちらにはいっさいの大義がありません。数が集まったところで烏合の衆でしょう。ネット民も盛大な手のひら返しをはじめています。陛下も気が大きくなって単独征伐して〈俺つええ〉をアピールするおつもりで」


「そんな理由……失礼。そもそもネットは王国では見られないのだから関係ないのでは?」


「ギルバート卿、あなどってはなりませぬ。たとえ他国のこととはいえ、ネット民は恐ろしい速さで世論を形成します。わが国でも違法のデバイスをもちこんで閲覧するものがあとを断ちません。私もこれで、今回動画をとらせていただきます。映える戦闘にしてください」

 シュナイダーは魔法デバイス(この世界でのスマホ)を懐から取り出す。


「え? シュナイダー殿、それ、違法では?」


「私は検閲の責任者ですから、情報収集の職務遂行上、閲覧の必要があります。あらゆるおもしろ動画、ドラマ、アニメ、違法動画サイトまですべて確認しております。特権であります」


「戦の前にいうことじゃないですよね……」


 国王が宮殿のバルコニーにあらわれた。


「……わたしの騎士たち、従軍するすべての者たちよ……」

 国王はいつもの低音ボイスで、語りかけた。


「……戦さである。しかし、悲しいかな攻め入るはレダ領だ。何十年ものながきにわたり、王国の境を守りし名誉ある辺境伯の名を汚したものを討つ……」

 国王はさらにシュターケルの罪状をあげ、国王軍の正義を唱えた。


「……久方ぶりの戦だ、新兵以外にも実戦経験のないものも多くいよう。しかし、案じてはおらぬ。日頃のたゆまぬ訓練はもとより、国王軍は最強であると定められている……」


 兵士から歓声があがる。しばらくのち、国王が手をあげて制した。


「……はじめての者もあろう。出陣にあたってわが騎士たちには最強の加護を与える。はじまりの魔導師より九の末裔に授けられた最上級古代魔法である……」


 言うや、国王は左の手をかざし、朗々と呪文詠唱をはじめた。

 九の末裔にひとつずつ強力な古代魔法が継承されているのは庶民でも知っている話だ。

 しかし、その魔法の種類はそれぞれ異なり、たとえばドワーフの王には巨大な古代魔法具を生成する〈ダイナミック・コンストラクション〉が授けられている。

 そして、レダ国王に与えられたのは兵士を心身ともにを増強し、軍団にあらゆる加護を与える強力な古代魔法。


 数十秒の詠唱が終わると、国王は王笏をかかげた。

「不滅の太陽ソル・インヴィクタス!!!」


 炎のようなものが軍団を包むがやがて、まばゆい光に変わった。

 全身から力が湧き上がり、高揚感が生まれる。はじめての加護に驚く兵士たちもいた。


「ハイネル陛下、万歳!!」

 ギルバートが高らかに声をあげる。


「ハイネル陛下、万歳!!」

 軍団が一斉に声を上げる。


「出陣せよ、レクス・レギオン!」

 国王は大号令を発した。



 ※  ※  ※



 戦場は雨が降っていた。

 視界が悪い。


 両軍が対峙したのは辺境伯領地に隣接した、ウェッジウッド子爵領にあたる、ウェッジウッド平原だった。

 シュターケル軍は予想通り7000程度の軍だったが、ワーベアやヘルハウンドなど、魔獣を多く引き連れていた。

 モンスターテイマーのなかでも古代魔法レベルの使い手がいる模様だった。あるいは偽古代魔法チートか。


 なによりも目を引くのは巨大なゾウ。それはゾウと呼ぶには巨大すぎる。この世界ではレアすぎてほとんど目撃されたことのない〈ズオウ〉という伝説の魔獣だ。


「これは、非常にレアな動画がとれそうですぞ、ギルバート卿!! あーもっと天気良かったらなー。あとで加工してみますかなあ」

 シュナイダーはスマホをもって興奮している。


「そ、そうですか。シュナイダー殿はあまり前出られませんよう。ちょっと、遠くから撮影ください」

 ギルバート将軍は言ったものの、どうせ無理だろうと思っていた。家令シュナイダーは自分の遠戚にあたる。

 一族のなかでもとくに変わり者で、しばらく、失踪していたところ、ずいぶんとたって、戻ってきたかと思えば、いきなり国王の筆頭家令になっていた。本来、「大叔父」と敬うべき人なのだが、あまりにふざけた人柄なので、距離感がつかみにくい。


 そうこうしているうちに、ムーンランスの反乱軍の隊列から一騎が前に出た。

「ハイネル国王の兵たちよ! 私はムーンランス騎士団長のシュターケルである。そして、伯爵の意思を継いで領主を代行するものである。私が召喚人サモンであることを理由に伯爵領の自治に介入し、あまつさえ過日、わが妻となるべきシティアを誘拐したことに対し、正式に抗議するとともに、時代遅れの王国法の撤廃を求める。みとめられなくば、王国の古式に従って、一戦交えてみせよう!!」


「われわれは王命ロイヤルオーダーにより参じた正当なる国王軍だ。諸侯の賛同もえている。お前はただのテロリストだ。ハイネル陛下の名において成敗する!」

 ギルバート将軍は右手をあげた。

「全軍突撃!!」

 旗もち騎士が一斉に旗を上げる。

 ロングボウ部隊が一斉射撃を開始し、歩兵部隊も駆け出し、騎馬隊が左右に展開した。


 ムーンランス反乱軍の前衛は魔物部隊だった。

 ヘルハウンドはその機動力でいっきに歩兵部隊と乱戦になった。

 そこへ、ムーンランス反乱軍が弓と魔法の遠距離攻撃を仕掛ける。

 味方とはいえモンスターならおかまいなしという戦術だ。

 しかし、どちらの攻撃も国王軍はうけつけなかった。古代魔法〈不滅の太陽〉の加護だった。

 すなわち、この攻撃はムーンランス反乱軍の同士打ちに終わる。


 左右に展開した国王軍の騎兵は、敵の側面をつき、ヒットアンドアウェイでこんどは右翼と左翼が入れ替わる。みごとな用兵だった。騎兵には二人の魔術師がいて、敵集団を効率よく破壊していった。


「くそう、突撃だ!」

 シュターケルは初手における劣勢が予想以上と知り、数による力技に頼った。

 そのことで、平原は一気に乱戦模様となった。


 雨が激しくふりしきるなか、国王軍を苦しめたのは、〈ズオウ〉だ。

 大きな鼻の一振りは、いっきに数人を葬った。

 弓矢がほぼ効いていない。

 大きな雄叫びは、兵士たちを怯ませる。

 歩兵部隊が、どんどん押し込まれていく。


「まずい、魔術師を戻らせろ! 歩兵は退けっ その化け物の相手をするな!」


 〈ズオウ〉は突進を続けるが、兵たちが散会しているのをみると立ち止まる。

 よく見れば、〈ズオウ〉の上に人が搭乗している。

 ローブをまとっている。

 モンスターテイマーは大物ほど近くにいないと操れないといわれている。

 擬似古代魔法のテイマーなら、複数の下級モンスターも同時に指令を出せるかもしれない。


(つまり、あいつを仕留めれば、ズオウどころか敵のモンスターをとめられる)

 ギルバートはそう判断した。


「弓兵、ズオウに乗る男を射よ!!」


 十分に距離が取れているロングボウ小隊がこれに反応して一斉に射撃するが、高さがありすぎて、まるで当たらない。しかも、そこへズオウが突進して、部隊は散り散りになる。こうなると、遠隔からの攻撃は不可能だ。

 ロングボウ部隊は、全員弓を捨て、ソードに持ち直した。


「これは、さすがに伝説ともいわれる、魔獣。一筋縄ではいきませんな」

 シュナイダーだ。魔力デバイスをつけた自撮り棒を手にしている。

 鋭意、撮影中だった。自分を。


「いけません、シュナイダー殿っ、近づきすぎです!!」

 ギルバートが叫ぶ。


「はい。いったん録画は停止します」

 シュナイダーは魔力デバイスを懐にしまった。

「ひさびさの戦さ、なかなかの強敵、楽しいですなあ!」

 馬を疾駆させながら腰から剣を抜き去った。


 拍車をかけてズオウに直進する。


「カール・ハインツ・フォン・シュナイダー、推して参る!!」


 シュナイダーは騎乗したままズオウの周囲を信じられない速さで旋回する。

 そしてズオウの足をなん度も斬り付ける。

 まさに人馬一体の動きだった。

 ズオウはただその太刀を浴び続けるばかりだった。


 数度の攻撃によって、ズオウが膝をついた。


 地響きのような大きな音が平原に響いた。


 シュナイダーはいつの間にかズオウの頭のうえに直立して剣を構えていた。

「天誅!」

 叫ぶやいなや、背に乗っていたモンスターテイマーを斬りつけた。

 たった一撃。シュナイダーは血ぶりをして剣を納めた。


 形勢が逆転する。術師の死によって、魔獣たちが解放される。

 ムーンランス軍の魔獣たちが、混乱をはじめる。

 ズオウは逆に暴走をはじめた。

「ギルバート殿、こちらは私に任せて、敵の本陣を!!」

 シュナイダーが叫ぶ。


「了解した。女神のご加護を!」

 ギルバートは自身の馬廻を連れて混戦している一帯に馬首を向けた。

(ていうか、大叔父上、めちゃくちゃ強くね? は?どゆこと?)


 そののち、シュナイダーは肩があがらなくなるほど幾度もズオウを斬り続け、ようやく仕留めることができた。

「ズオウの肉は幻の美味といいますからね。どうしましよう。〈伝説のズオウの肉、食べてみた〉動画アップしましょうか……」

 とはいえ、年齢のこともあり、くたくただ。

「あとはお任せしますよ。ギルバート将軍。よい経験を積んでくだされ……。あ、自撮り、しとこ」

 シュナイダーはズオウの背中に大の字で寝転がった。


 ※  ※  ※


 ギルバート隊は、その頃、シュターケルを捕縛し、本隊をほぼ壊滅させていた。

 そして、高らかに勝利宣言をしていた。


 敵は混乱のなか離散、国王軍のほぼ完全勝利だ。

「敗残兵は追わんでいい。降伏してきたものは拘束しろ。あとは陛下が裁かれる」


 シュターケルはギルバートの前に引き出される。


「やっと話ができるな、逆賊よ」

 ギルバートは兜を脱ぐ。

 相手の兜もはいだ。


「ん? お前、誰?」


 中身はおどおどした凡庸な男だった。


 ※  ※  ※



 シュターケルはひそかに戦線を離脱していた。

 完全な敗北。

 自分たちが過激派として活動していたことが世間に知れ渡ることになろう。

 そうなれば、本部からの資金提供はもう期待できないかもしれない。

 しかし、その時に召喚人同盟の領地があれば話は変わっていたはずだ。

(あいつらは甘ちゃんだからな。交渉だの話し合いだのいうが、その背後に金か武力がなければ、なんの意味もないことがわかっていない、幼稚園児だ)

 だが、すべては失敗に終わった。


 空は小雨に変わっている。

 シュターケルは馬を歩かせるが、とくに行くアテはない。

 ただ、馬の歩みに任せていたが、草の葉がうごく音がして、身構える。


 遠くに見える森から、騎馬が現れた。騎士、だろう。そう見える

 ちっ、なんでこんなところにっ!!


 グレートヘルムをかぶり、騎乗でランスをたずさえた騎士、盾の紋章は黒く塗りつぶされている。

 

 黒騎士……?


 シュターケルは、もちろんその男にこころあたりがあった。

 騎士は馬の歩みを止め、ふたりは対峙した。


 ※  ※  ※


 黒騎士は少しずつ歩みを進める。


 これで、終わりだ。こんどこそ。


「いいだろう。決着をつけよう」

 シュターケルは両腕をひろげた。武器は持っていない。

「さあ、こいよ。道連れにしてやるよ」


 黒騎士は馬の歩をすすませる。拍車をかけ、徐々にスピードをあげる。


 瞬間、シュターケルは懐に手を入れる。

「お前が先に地獄に堕ちろ!」

 取り出したのは拳銃だった。


 バンッ!!


 銃声がひびく。黒騎士の左肩に当たったようだ。

 馬も悲鳴を上げた。前足を高くあげ、制御ができない。

 その間にもう一発、今度は盾に当たった。思わず、手落ファンブルしてしまう。


 「ちっ!」

 シュターケルが拳銃をリロードしている。


 バンッ!!


 もう一発。今度は左の腿に命中した。

 GPが割れる。


 バンッ!!

 今度は左腕を貫通した。

 

 黒騎士は馬を制御しようとしている。負傷出血した左手で手綱を強く握り直す。


 頼む! ひるまないでくれ! 立ち向かうんだ! 俺はもう逃げたくないんだ!!


 その思いが届いたのか、馬は両足を地につけ、落ち着いた。

 

 よし、いいぞ、行け、進め!!


 黒騎士は拍車をかける。

 馬は襲歩までいっきに加速した。


 パンッ!!


 銃声がまた響く。

 しかし、外れる。馬はおそれず足を早めていた。


 いいぞ! いまだ!! 突っ込めぇーー!!


 「ふん、これまでか」

 シュターケルは悟りながらも笑みをこぼした。銃を捨てて、剣を抜き払った。

 そして、自分も馬を走らせる。


伊庭いばぁあああぁあああっーーー!!」


 ふたりの軌道が交差する。

 黒騎士のランスは、シュターケルの胴を一直線に突いた。

 鎖帷子はぶち抜かれ、槍先が背中から飛び出し、ランスの半分が体を貫くと、馬は速度を落とし、そのままたちどまった。血が溢れ出す。


「ばかな、やつだ、この世界で、われらの居場所などないぞ……」


「お前はきっと別の世界でもそう言っているのだろう……」


 剣が落ち、生命が抜け落ちた肉体がだらりと崩れ、そのままどさりと落馬する。

 黒騎士はまだ抜けきれていないランスを引き抜いた。


「さらばだ」


 黒騎士は銃弾による痛みを抑えながら、そのまま踵を返すと、出てきた森に引き返して姿を消した。


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