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ざんねんな異世界の冒険者たち  作者: 日向小次郎影虎
2章 最弱とチートと復讐と 編
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025 ハロウィンパーティー

 勇者は考え事をしていた。


 マリン、エルサ、ハイドラックスは牢獄塔に囚われていた。

 武器を取り上げられているだけで、とくに拘束などはされていない。

 勇者は状況を分析する。


 逃げられない自信のある仕掛けがあるということだろう。


 天守の外にある独立した塔だ。ムーンランス城は、モンスター侵攻を考慮して、ほかの領地よりも高い外壁に囲まれている。その中に城仕えの者の住居、騎士団の館、そして領主の住居であり、政務の場所でもあるところの天守が中央にある。監獄塔は城下とは反対側に位置している。

 牢獄は塔の一番上にある。いつだって囚人はいちばん高いところか一番深い地下にいれられる。


 扉の小さな小窓から顔を出した看守は、異世界人の獣人〈ノケモノ〉の牛タイプだった。

 ちっちゃいミノタウロスのような感じだ。

 なんでこのチョイスにしたんだろうと思う。もうやり直せないんだぞ。


「お前らは運がいい。本来なら、人喰いモンスターのいる地下に落とされて死ぬまで出てこれないが、国王が寄越した暗殺者の一団として、世間にさらされ、シュターケルさまの大義をアピールする道具になってもらう。その際はとても抵抗できない精神魔法がかけられるからな。そのあとは頭がいかれて廃人になるやつだ」


 牛男はいかにも悪役なセリフを並べる。気分がよさそうだ。もともとこういうやつなんだう。

 しかし、はるかが落とされたのはそんなにヤバいところなのか。

 勇者ははるかが穴に落ちるのを確認している。

 居ても立っても居られない。


「それと、3万の兵が招集されている。いよいよ、異世界同盟の強さを王国のやつらに見せつける時だ。はーっはっはー!」

 なかなかいまどき見ないくらいの雑魚セリフ。

 勇者はある意味、感心した。こういうやつ、昔の漫画で必ずいたな。

「そしてここの錠は魔法で開けられもしないし、壊すこともできない。なぜなら、魔力を無力化する部屋だからなあ」

 そして口が軽い! もうここまでくると親切っ!


 牛男は一仕事終えたかのように去っていった。


「さて、どうしましようか? バニーさんはリタイアのようですし、お姫様救出も失敗しました(゜∀゜)」

 ドクロンはこんなときでも空気が読めない。

 エルサが自分の帽子を殴った。

「ぐはっ、な、なぜ!?└(՞ةڼ◔)」」

「なぜそういうのは学習できないの。あんたポンコツなの?」

「ももも、申し訳ありません。エルサ様 (>_<) 」


「勇者ちゃん、はるかす助けに行こうよ」


「その前に自分たちの窮地をどうにかすべきでわ。フツーwww」

 ボスッ。

「ぐはっ└(՞ةڼ◔)」」


「いや、はるかのことは心配だが、たしかにその通りだ」

 勇者はパーティー唯一の頭脳として頭をフル回転させている。


「申し訳ありません。簡単ではないと思っていましたが、情報も準備も足りませんでした。焦っていたのかもしれません……」

 ハイドラックスは意気消沈している。


「いまさら弱音をはかれてもなあ」


「すみません」


「まだ終わったわけじゃないが、あんたは諦めているのか?」

 勇者はハイドラックスに問うた。このまま使えないやつのままでは困る。


「いえっ……」


「はるかすもお姫様もだいじょうぶだよ。元気出して。とくにお姫様はきっと助かるよ」


 図星すぎるストレートな励ましっ!! 根拠もなにもない、マリンにしかできないやつっ!


「ああ、いえ。そうですね」


 重症だな。


「ともかく、俺たちは国王が差し向けた姫様暗殺の下手人ということになって、その裏で姫様は用済みということになって、はるかと一緒に罪人の迷宮に落とされたということだ。嘘を広められる前に、真実を届ける、それが最優先だ」


「なんでっ!? 嘘ならどうせわかるんだから、はるかすを助けにいくのが先だよ!!」


「嘘が嘘とわかるまでには時間がかかるんだ。世間はそれほど真実に目を向けていない。それよりも、俺たちは生きた証拠だ。事実を伝えて国王に救援を仰ごう。姫を蔑ろにしてあまつさえその死を利用しようとした。その事実は確定だ。こんどこそ動けるはずだ。それと同時にはるかと姫を助け出そう。それがかなえば、当初の目標は達成だ。ムーンランスに軍を送り込めるだろう」


「だめ! ぜったいだめ! 絶対いますぐに助けに行く!」

 マリンが声を荒げる。


「マリン。確実なほうを選びたい。いまはるかがどこにいるかはわからないんだ」


「悪いやつをやっつけるのとはるかすを助けるのと、どっちが大事かなんて考えなくてもわかるっ!」


「マリン……」


「いやあ、だから、それ以前に脱出する方法を考えてくださいよ( ̄∧ ̄)」

 ボスッ、ボカッ、ダダダダダッ、グシャ。

「お前、黙れ!!」

 エルサが珍しく荒ぶった。


 だが、それが一旦、場を落ち着かせた。


「勇者ちゃんは、はるかすのこと好き?」


「えつ!?」


(え、なんでいま、そんなことを。あ……あ、でも、そうか。そうだな)

 ドラゴンの目から涙がこぼれた。

(出るんだ、涙。知らなかった)

「好きに決まっている。なによりも大事だ」


「なら、気持ち一緒。疑ってごめん。勇者ちゃんの作戦聞かせて」


「いや、これから考えるところだけど……武器はぜんぶ没収されているし」


「あのーすみません」

 どこからか拍子抜けたセリフが聞こえた。


「はい?」

 一同が周囲を見回す。


「あー、すみません。俺です」

 とんがり屋根のとても高い位置にある唯一の窓からだった。

 窓とはいってもただの穴だ。


「カボチャ頭か!」

 勇者は叫んだ。


「名前、もう誰も呼んでくれないんですね……」

 カボチャ頭は、ロープを手に窓から降りてきた。たぶん。姿は見えない。


「あんた。どうやって!?」

 エルサが驚く。


「いやいや、何言ってんの。潜入作戦当日にへんな動きがないかずっと城壁の上で見張ってろって言ったの君だよ? いい金になるミッションだからちょっとでも手伝って分前もらおうって」


「そうだったかしら?」


「ひでーな。褒めてくれないのかよ」


「まあ、悪くないというか……かっこ、よかったんじゃない?……」

なんか、透明人間の透明などこかをさわりながら顔を背けてデレている。


 あーーーーーっ。手、握ってる!しかも、たぶん絡まってる系。見えないと妄想がはかどるーーーっ!

 勇者は雰囲気を壊さないようサイレントツッコミに徹した。


「は? いちゃいちゃすんなし?」

 マリンはニコニコしながら言う。嬉しそうだ。


「とりあえず、あの窓からロープ張ってあるから、城壁まではいける。でもそこからは高すぎてどうしようもない。もう、ふつうに城壁内の階段を降りて、楼門から出るしかない」

 いいながら、カボチャ頭とマントの姿が現れた。

 勇者の変身魔法でオンオフができるようになっていた。チート装備ではないから身体への負担はない。


「強行突破ですか? 守備兵はどれくらいで?」

 ハイドラックスが問いかける。


「どうやら、どこかの領主を粛清するとかで、一軍が出陣したんだ。軍の招集に従わなかったらしい。吊り橋も下ろしっぱなしだ」


「もう、チャンス以外の何ものでもないな。急ごう。北の王宮に戻って、はるかを一刻も早く助け出そう」


「で、その窓から出ているロープでどうやって、城壁にうつるんです? エルサ様はそんな訓練を受けていませんぞ」


「ああ、登ってくる時は大変だったよ。こっちの塔のほうが高いからね。だけど、そのぶん帰りは楽さ」

 カボチャ頭は大きなカラビナのような金具のついたロープを取り出す。

「ターザンして帰ります」



 ※  ※  ※



「報告!! たぶん、先刻捕らえた囚人と思われますが、なぜか城壁から襲撃してきています!!」

 兵士が騎士館に駆け込んだ。


「たぶんってなんだ!?」

 報告を受けた異世界同盟の騎士が問いただす。


「ハイドラックスがいるのは確認できているのですが、ほかはなんか仮装パーティーみたいな集団でっ! 全身黒ずくめの暗黒騎士と、小さなレッドドラゴン、魔女と、それからパンプキンヘッドが!!」


「ハロウィンか! 今日ハロウィンだったっけ?すぐに兵を集めろ!」

 騎士は兜を手に立ち上がった。


 月あかりの中、ハロウィンパーティーはガンガンと敵をなぎはらい、進んでいく。

 とくに暗黒騎士の暴れぶりが敵に恐怖を与えた。

 魔剣〈デスブリンガー〉を両手で振り回し、それだけで多くの兵が近寄れない。

 勇敢に突っ込んだものはことごとく打ち払われている。

 そこに勇者のドラゴンブレスが撃ち込まれる。


「いけるな。カボチャ頭! 吊り橋の装置を制圧してきてくれ!」

 勇者は指示を出す。

「了解」

 カボチャ頭は透明化した。正確にいうと装備をオフにした。


 その頃、騒ぎに気づいた騎士館から兵士がたくさん出てきて、城門前は一気に騒がしくなった。

 ここで目を見張るような活躍をしたのは、ハイドラックスだった。

 敵の一人から斧槍ハルバードを奪うと、次々と兵士を打ち倒した。

戦うことで鬱憤を晴らしているかのようだ。


 兵士はハイドラックスの実力を知るものたちばかりだ。

 自然、間合いをとって躊躇するようになった。


 それからすぐに吊り橋装置の制圧が完了して、勇者たちは城外に脱出することができた。

 

 「エルサ様、火炎魔法でつり橋を攻撃して足止めをしましょう (゜∀゜) 」

 ドクロンがいう。

 「魔杖スタッフがないわ」

  魔杖は捕まった時に没収されている。あれは魔力の指向性にかかわる。なくてもいいが、ベテランでないとうまくいかない。

 「私、その代わりになりますv(^_^)v」

 「そうなの?」

 エルサは試してみると立ち止まり、詠唱をはじめる。

 時間がないから、いちばん簡単な火炎魔法で、橋に火がついてくれれば御の字。

 エルサの集中に感応してドクロンの口に魔力が集まる。


 「火矢ファイアボルト!」

 

 ドクロンの口から巨大な火柱が噴き出す。

 爆炎に包まれて吊り橋が一発で半壊した。


 「は!?」

 「キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!!!」

 

 あ……。

 そうだった。勇者はドクロンが古代魔法兵器なのを忘れていた。

 武器に見えなかったから、取り上げられなかったんだ。

 

 ともあれ、時間稼ぎができた。


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