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ざんねんな異世界の冒険者たち  作者: 無銘、影虎
2章 最弱とチートと復讐と 編
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019 黒騎士

 ハルカたちは、〈冒険者になろう亭〉でひとりの男に会っていた。

 国王からレダ領内全域の通行許可証を授与されたのち、ミッションに随行する人物として紹介された。

 男は、鎖帷子ホーバークにブリガンディンを着込んだ兵士。

 黒髪は短いが、少し無造作に伸びかけのようだった。

 髭が生えているが、こちらは短く整えられている。

 精悍な中年だ。青年かもしれない。

 もうこの国の見た目とか年齢は信じないほうがいい。


 —————————

 ハイドラックス


 年齢 32歳

 種族 ヒューマン

 職業クラス 黒騎士ブラックナイト

 元ムーンランス騎士団

 —————————


「黒騎士ってかっこええなー……」

 ハルカはのんきなことを言う。


「黒騎士は主君を失った、あるいは捨てた騎士のことなんです。侍でいうところの浪人です」

 ハイドラックスは言う。落ち着いた大人の男性という感じた。

 たしかに鎧が黒いわけではない。


「そうなんや、ああ元は騎士やったんですね?」


「そうです。異世界人が騎士になれるのはムーランス以外にありません。本来は貴族の子弟ですし、聖騎士という宗教騎士団制度を模してつくられた世俗騎士団も最近の流行りですが、それとて異世界人が叙任されることはありません。聖騎士も聖女もそうですが異世界人にはなれない職業がいくつかあります。といっても、肩書きだけの問題なので、聖女ではないヒーラー、主君をもたない黒騎士などはいます。その組織に与することができないというだけのことです」

 ハイドラックスはスラスラと淀みなく説明する。


「そういえば、フィーナも聖女やなくてヒーラーっていってたもんな。呼び方の違いか。あれ、忍者は名乗ってOKなの? 師匠、業界からハブられてた人やったけど、忍者服部くん協会、略してNHKみたいな団体(笑)とかはないんかな?  聞いたことないな。まあ、ええか。どうせ自称やし(笑)」


「ハルカす、でっかいひとりごと」

 マリンにつっこまれる。


 ハイドラックスはシュナイダーから紹介された元ムーンランス伯爵領の騎士だ。聞けば辺境伯は、多くの異世界人を騎士に叙任していたという。


「辺境領は〈魔界村〉と接しているため、戦いが途絶えることがありません。一方、異世界の冒険者が増えたことによって、年々、現地人での兵雇用が難しくなっています。とくに専門職の兵士としての騎士にいたっては、激減しています」


「それで、異世界冒険者のなかから、騎士を任命したっちゅうことやな」


「はい。辺境領にとって武力の保持は最大の任務です」


「辺境伯なんて田舎の貴族みたいなのに大変やな」


「ハルカ、それは逆だ。防衛上重要な領地だから、むしろ辺境伯というのは地位は高い。王族の子弟がなることが通例の公爵の次くらいだ」

 勇者が解説する。


「そうなんや。えっ、そんなところが乗っ取られたらまずいんちゃうん?」


「ほんとにいまさらだな、ハルカ」


「あーしもー田舎の事件、つーか八つ墓村? 的なやつだと思ってたし」


「なんでだよっ、どこにそんな要素があった!?」


「まあ、世間ではそんなに関心がないでしょうな。しかし、知られていないだけで、多くの仲間が、シュターケルによって殺されています。私は内側にいて、すべてを目撃しています」

 おふざけ三人組のしょうもない会話にもいっさい惑わされず、ハイドラックスは答える。


 さすがに三人は沈黙する。


 その話によると、やはりシティア嬢との結婚は偽りで、シュターケルは召喚人サモン同盟に所属している騎士と結託し、ほかの騎士にも乗っ取りに与するよう説いた。反対したものは容赦無く殺されるか捕縛された。シュターケルによる制圧は1日もかからなかった。


「殺されたのは、ほとんどが在郷の人間です。それまで、異世界人との共存をよく思わない人は少なくありませんでした。しかし、伯爵様の統治のもと、表面上、問題はありませんでした。でも、あの、もうクーデターと言ってさしつかえないでしよう。あの日、異世界人の騎士団たちが行ったのは、虐殺としかいいようがありません。」


 それほど召喚人同盟の騎士が多かったのと、内通者が多かった。さらに彼らの仲間にはモンスターテイマーもいて、モンスターを城内に引き入れるという力技をつかった。ハイドラックスもそのとき、召喚人同盟に反発したが、多勢に無勢で敗れ、投獄されてしまった。


「その後、知られていない地下通路の存在を知り、なんとか逃げ延びることはできました。しかし、深傷を負っていまして、その後は治療に専念しておりました。以来、伯爵領の出来事が捻じ曲げられて伝えられていることを知ったのは随分たってからでした」


「あんたが黒騎士になったのは……」


「もちろん、あそこにはもう仕えるべき主君がいないからです。しかし、ムーンランスの名誉ために勝手ながら最後のご奉公をするつもりです。世の中に真実を知らせなければならない」


「わかった……ウチらは仕事として引き受けたど、そんなひどい話を聞いてもうたら、ますます失敗できんと気合はいったわ」


「ありがとうございます。みなさんにとってはクエストのひとつかもしれませんが、これは異世界人全体が直面している課題でもあります」


「せやな。政治のことはわからんが、このままではあかんのはわかる」


「では準備を整え、明日朝、出発します。辺境領は遠いので、最寄りの転移ゲートから馬車で一日半かかります。野営の準備もしておいてください」


「キャンプ!? えーなにもってけばいいー?」

 マリンがは急な遠足にとまっどっている。


「すみません、ギャルなんで。あとウチら冒険者やけど、じつはあんまり野営はしたことないんです」

 ハルカは慌てたが、ハイドラックスはとくに気にしていないようだたった。


「初級冒険者は転移扉ゲートで行ける範囲しか行きませんからね。辺境領はそれよりも先にあります。とはいっても、片道で一泊ですから、そんなにいりませんよ。クッカーや火おこしの道具などはこちらで用意しておきますので、寝袋と飲料水と、非常食だけ準備してください。なろう亭でレンタルもできますよ」


「慣れてる感じですね」


「はい。あちらではレンジャー――自衛官でしたので」


 言われてみればそんな風貌だ。


 ※  ※  ※


 馬車にゆられながら街道を進んでいる。

 秋が深まろうとしていた。

 〈こっち〉の世界も四季は豊かだ。空は澄み渡って、空気がおいしい。

 街道を進む限り危険はほとんどないだろう。

 辺境伯領にはいるまではのんびりとした時間が続く。


 潜入作戦には、ハルカ、マリン、勇者のいつものメンバーに加え、エルサ、そして今回のミッションのゲストであるハイドラックスがいる。

 フィーナは最近忙しいらしい。だいたい、いつも臨時参加で、〈イツメン〉ではなかった。ヒーラーがいないのは心許ないが、初級レベルなら勇者ができるという。隠密作戦はチームワークが大事だから、はじめましての人を混ぜるのは危険と判断した。

 そういう意味ではエルサと、ハイドラックスは未知数だが、仕方がない。


「隠密作戦やで? 魔女とかいらんちゃうん?」


「感知魔法は潜入で必須よ。このなかで誰か使えるの?」


「いや、使えんでも、店で売ってるやん。〈誰かいるかな?〉とかいうの」


「準備がいいのね」


「いや、持っとらん。あれ、名前可愛いのにごっつい値段すんねん」


「魔法使いというのは貴重ですからね。知っていますか? 転入者で魔術師を目指す6割が中級魔法を身につけられずに挫折することを。異世界冒険者のなかでも100人にひとり程度なんですよ (・∀・)ニヤニヤ」

 ドクロンが自慢げに言う。


「ウチらも使えるで」


「バニーさんのは無詠唱でもできる基礎魔法ばかりじゃありませんか。あと、忍術?でしたっけ、よくは知りませんが、所詮は正当魔法の亜流です。魔法としては格下です。発言を撤回していただけますでしょうか?(°〆°#)」


「だまっとけっ!」

 ハルカはドクロンに手刀を振り下ろす。しかし、エルサが無表情のまま真剣白刃取りをする。


「何回目だ、これ?」

 勇者が呆れる。


 この世界の魔法はじつはいろいろいとある。〈はじまりの魔導師〉が残した「現代魔法」だけではなく、エルフたちが使っていた「精霊術」、そのほか「呪術」「忍術」なども魔力の発現方式が違うだけで、ひとくくりに魔法といわれる。最上位はすでに一定の条件がないと再現できない「古代魔法」、ほとんどの人が無意識で使える「運動魔法」までありとあらゆるものがある。いまのところ「現代魔法」を極めることが、いい就職先につながる。残念ながら魔法のエリートはだいたい冒険者になどならない。


 夕暮れまでには辺境領近くまで来た。今日はここで一泊する。

 ここからは街道をはずれた道をいくため、翌朝は寝袋などの嵩張る荷物と馬車は引き返すことになっている。


 ハイドラックスが手早く野営の準備をする。

 ハルカたちは役に立たず、川から水を汲む係になった。

 戻ると焚き火ができている。ハイドラックスはひどく寡黙だが、とても頼りになる。

 というか、ベテラン冒険者感がすごい。

「川の水は飲めません。いちど漉してからこの浄化魔法が込められたタブレットを入れて飲み水にします。スーパーで売ってます」

 それから手際よく、スキレットでソーセージを調理してみんなに配る。鍋には野菜屑を調味料で煮込んだだけのスープ。それにパン。質素なものだった。


「馬!」

 マリンが絶賛する。


「ありがとうございます」

 シュターケルはいいながらも手を動かしている。


「あの、敬語でなくて、ええんやけど……」

 ハルカは、この壁のある感じが苦手だ。


「はい。でも、このほうが慣れているので」


 こっちが慣れへんのやけど。

 こういうタイプは緊張する。ハルカは沈黙がすごく苦手だった。

 昼間は、ドクロンがよけいなことも含めベラベラしゃべっていたから間が持ったようなもんだ。

 そんなドクロンももうすやすやと寝てしまっているし……。


「え!? お前、寝るんかい!!」


「そうなのよ。わりと早めに寝るわ」

 エルサは当たり前のように言う。


 食後、交代で就寝することになった。

 くじびきで、ハルカとハイドラックスになった。なってしまった。


 気まずっ!


「火を絶やさなければ動物はまず来ません。モンスターもこの辺では出現情報がほぼありません。ただ油断はいけません。知っていましたか? 油断というのは火を絶やしてしまったことが語源です。さて、眠らないよう、少し話しましょう」


 意外な展開だが、話している方が気が楽だ。


 しかし、話題がない!!


 だが、語り出したのはハイドラックスだった。

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