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ざんねんな異世界の冒険者たち  作者: 無銘、影虎
2章 最弱とチートと復讐と 編
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【幕間】 フツーの勇者

 俺には特徴がない。

 もちろん、特長もない。

 長所も短所もない。

 なにもないのが短所であり、長所であるというロジックを使うしか、個性が表現できない。

 勉強もできたっちゃあ、できたし、頭がいいかっつったら、そうでもない。

 運動は得意ではないかもしれないと思ったが、自分よりも下は結構いる。

 そればかりか、学校で体験したボルタリングでは意外な才能を発揮してしまった。


 そうそう、モテなかった。

 ぜんぜん、と言いたいところだけど、中学のときにラブレターをもらったことがある。

 うれしい、というより、恐ろしくなって、その事実はなかったことにしている。

 あの時の〇〇さん、ごめんなさい。まだまだ子どもだったんです。

 フツーにクラスでいちばん人気の子に恋していたので、〇〇さんのことぜんぜん知りませんでした。

 あとで卒業アルバムをみてしみじみ後悔したのを覚えています。


 それから、フツーの成績でフツーの大学に入り、フツーに就職した。

 事務処理は得意だったかもしれない。決められたことを確実にこなす、フツーのことだけど、できない人は結構いた。でも、そんなやつらは意外と大きな仕事を成し遂げていた。

 大きな失敗をするやつが、大きな成功を掴む。

 そういうものなのだろうかと思い始めた時、自分の凡庸さが憎くなってきた。


 後輩ができたけど、自分のような凡人がなにかを教えてやれるはずはないと思った。

 間違っていても、うまく叱ることができないから、後始末だけをこっそりやっていた。

 後輩は、よく聞きにきてくれるから自分が知っている限りのことを教えた。

 そいつは、自分の教え方がいちばん丁寧でわかりやすいと言ってくれた。

 褒められるのは好きだ。そして頼られるのも気持ちがいいことを知った。

 仕事をしていていいことがある、というのはそういう時だった。


 ある時、後輩が大きなミスをした。

 上司に叱責されている。

 とりわけ教育担当としてついていたわけではないが、頼られる存在として、なにかフォローができないかと俺は焦っていた。

「でも、柿崎さんがそうしろって」

 後輩から出た言葉に俺は驚いた。

 ひどく落ち込んだ。そんなことを言われる筋合いはないし、そんなことを言う人間が信じられなかった。

 平気で人を貶める。そんなことは俺は決してできない。


 でも、わかっている。

 俺はただ、誰にも嫌われたくないだけだ。

 なんでもない人間は、好かれることもないだろう。でも、組織や社会で生きていく限り、嫌われることはあり得てしまう。本音を言うと、どちらもいらない。

 仕事をしていて嫌なことがある、というのはそういう時だった。


 仕事のくぎりがついて、明日は有給をとっている。帰りのコンビニで値がはる季節限定のスイーツに思わず手を出す。その瞬間の幸せ。


 仕事のミスに気づいて、それを報告しそびれて、その晩なかなか寝付けず、明け方にようやく眠って、最悪の結果を先取りする悪夢を見て、寝坊する。その瞬間の不幸。


 そんな小さいことを繰り返す。


「フツーってなに?」

 あの娘は言った。


 俺にもよくわからなかったよ。

 でも、この世界に来て、君に出会って、でたらめな日常を過ごしていたら、わかったことがある。

 泣いたり、叫んだり、辛かったり、楽しかったり、感情が揺さぶられること、人生は結果じゃなくて、良かったり悪かったりを繰り返す。ただ、それだけだ。


 裏切られたり、落ち込んだりすることは、これからもずっとある。

 でも、同だけの喜びも楽しみがある。

 どちらかが多すぎる、と言う人を俺は知らない。

 それがフツーだと思う。

 だったら、その振り子を大きくすることで変われることはある。

 フツーのまま、しょんぼり過ごすことも、成長することも、勇者になることだって、できる。


 強くもなく弱くもなく、まんまの俺でこれからも生き続ける。

 思い出すなら、涙じゃなく、笑いとともに。


 こんな俺でも成し遂げられた。

 君を助けることができた。


 さあ、いっしょに家に帰ろう。

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