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ざんねんな異世界の冒険者たち  作者: 無銘、影虎
2章 最弱とチートと復讐と 編
39/72

014 ボス戦

「よ、よかった……」

 俺はぐったり疲れながらもマントとカボチャ頭を装備し直す。

 精神攻撃無効が役に立ったのか。

 それにしても、このレッテル、そこまでの力があったんだ。


 5枚も貼ってたからか。

 というかそんな使い方があったのか。

 俺は、みんなにいろいろ説明した。


「あーしたちにナメプをさせて、自分はザマプとか。結局ナニプ?」

 マリンさんは言う。

「なんちゅうえげつない作戦や」

 バニーさんも落ち着きを取り戻している。

「見回り冒険者も、ほんとに油断させられてたんですねー」

 フィーナさんも口の悪さが治っている。

「どこの誰がつくったのか知らんが、重ねがけされると強力なようだ。市役所には発売禁止を要請しておこう」

 と、これは勇者様。


「なんや、わからんで売っていたんか」

「異世界市のほうはイベントの集客・告知・運営が仕事で、販売されているものについての仕入れ元、効能などについては関与していませんー」

 フィーナさんが事務的に答える。

「逃げんな。ジブンらもいんちきチートの片棒かついどるやんけ」

「違いますぅー。その責任は古王国のほうにありますぅー」

「知らんがな」


「しかし、古代魔法の偽物とはいえ、その効果は現代魔法にはないものだ。気をつけていかないとな」

 勇者はいつもまともなことを言う。

「いまさら情報収集もないやろ。入口もひとつしかないんやし、当たって砕けろや」

 忍者とアサシン的な俺がいるというのに正面突破なんだ。

「まあ、おそらく一番厄介なデイモスの能力はわかっています。ほかにどんなのがいるかは分かりませんが、まあ、なんとかなるでしょう」

 フィーナさんが言う。

「お前ら結構いい加減だな」

 勇者はあきれている。

「ボス戦なら変身してすぐ終わりや。敵が第二形態とか第三形態とかなければな」

「あまり装備を過信するな。まだ長時間はつけられないんだろ?」

「あーしも作戦とか苦手。マジだるい」

「だるいのと命どっちが大事!?」

「だるいはイコール〈死〉」

「おい勇者、マリンとの口論は平和しか生み出さへんで」


「と、ともかく、真っ向勝負なんですね」

 俺は口をはさんだ。少し気の焦りもあった。


 ※  ※  ※


 地下二階。

 あの大広間の扉を開ける前に俺はかぼちゃ頭とマントを外した。

 前回失敗した作戦だが、今回は人数が違う。

 バニーさんたちが戦っている間にデイモスを仕留めたい。


 扉をあけると、エルサは広間の中央にオブジェのように飾られていた。


 エルサっ!!


 まるで美しい彫像のようにも見えた。

 生死は不明だが、いますぐ抱き抱えて街に帰りたい衝動を覚えた。


 敵は三人のようだったが、想定外なことにモンスターがたくさんいた。

 多数のモブリンと3体のミノタウロス。これは多勢に無勢のように見える。

「やっば!!」

 マリンさんが驚愕した。なんだよ楽勝みたいにいってたくせに。

「どうやらモンスターテイマーがいるようですね」

 フィーナさんが言う。

 やっぱり事前リサーチ大事じゃん?


「お前がデイモスか? ウチは異世界市の依頼でお前らを摘発しにきた。これが令状や」

 バニーさんが言いながら罪状が書かれたスクロールを広げて見せつける。

 こんなに遠かったら読めないと思うけど、儀式なんだろうな。


「お前らも異界人だろう。なぜ政府の犬なんぞやっているんだ」


「給料がええからや」


 えーーーーーーーっ! そんな理由だったの!!?


「愚かな。現地人コモンたちのわれわれ召喚人サモンへの差別は獣人にも劣るひどいものだぞ」


「お前がすでに獣人差別しとるやん。あとな、お前らが召喚者同盟でも異端の過激派っちゅうのもこっちはわかってんで。人殺しで人体実験しとんのも、ネタあがってんねん」


「非道と言われようともわれわれは自由と権利を得なければならない。なぜそれがわからない。無能どもが!!」


「また差別発言や。お前こそあっちの世界でなにを学んで、何に絶望してこっちの世界に来たんや。ここに来てやりたかったことがそれなんか!?」


「どこにいても私は、私や同胞を苦しめるものを排除する!」

 言うや否やデイモスは弓をつがえる。必中のオートアローだ。

 バニーさんたちには数本同時に飛んでくることは伝えてある。


塔楯タワーシールド!!」

 フィーナさんが手際よく大きな防壁を張る。

 最初の矢は弾かれた。


「ふむ。ならこれはどうだ?」

 デイモスは次の矢を放つ。

 すると、矢はシールドを回避して、背後にまわった。


「危ない!」

 マリンさんがバスタードソードを抜いて振り向きざまに矢を叩き落とした。

 すごい、そんなことできるんだ。

 しかし、撃ち漏らした矢がマリンさんを襲う。


 バリンッ


 マリンさんのGPが割れる音だ。

 致命傷の一撃だったようだ。


「マリン、大丈夫か!」


「ちょっと、やばみ」


「ならっ、隔壁シェルター!!」

 フィーナさんは今度は周囲を覆うように魔法防御がはられた。

 しかし、範囲が狭い。


 そこへ、操られたモンスターたちが雪崩れ込む。

 魔法防御は物理も魔法も防げるが、生き物は阻まれながらも強引に侵入することができる。

 前衛の二人はそういったモンスターに対処する。

 人間の敵は三人、デイモスとテイマーと、もう一人は魔術師のようだった。

 テイマーがモンスターを操ってシェルターへの侵入を試み、デイモスのオートアロー、魔術師の火球攻撃でシェルターを破壊しようとしている。

 これでは防戦一方だ。


「まずい、二手にわかれよう。マリンとフィーナ、勇者は魔術師とテイマーをやってくれ。ウチはデイモスをやる。あいつのオートアローが早くていちばんやっかいや」

「わかった!」

 バニーさんの言葉にみんながうなずく。

 そしてバニーさんは俺に目配せをする。いま俺の姿を見ることができるのは彼女だけだ。

(わかっている。こんどこそやり遂げるっ!)

 俺はしっかりと頷いた。


「武装!!」

 バニーさんとマリンさんが同時に叫んだ。


 魔法陣があらわれて次の瞬間、二人の姿は変わっていた。

 黒いバニースーツ、そして二振り日本刀を腰の左右に備えている。

(やっぱりバニーガールなんだ!)

 ふだんの様子からはかなりギャップのある色気というかエロ気。

 なんというかスタイルがいい。

 まさか変身ヒーローだったとは。あと、ハイヒールで戦えるのか?


 こんなことだと、ぶだんセクシービキニアーマーのまりさんはいったいどうなってしまうのだろう……。

 俺は何かを期待してそちらに目をむける。


(え!?)


(え!?)


 禍々しい全身漆黒のプレートアーマーにバカでかい大剣を背負っていた。

 髑髏の面のついた大兜グレートヘルムで、もう誰だかわからない。

 全体的に禍々しい黒いオーラが出ている気がする。


暗黒騎士ダークナイト?)


 マリンさんことダークナイトはシェルターを出て、まず大物のミノタウロスに狙いをつける。

 ミノタウロスの斧を大剣で弾き返し、体制が崩れたところでもう一撃を繰り出す。

「即死、1/144!!」

 大剣の突きは敵の脇腹を掠めた。傷は浅かったが、確実にヒットしている。

(即死ってなんだ!?)


「説明しよう! 暗黒騎士装備とデスブリンガーのセット効果で、確率で即死させる能力が使用できる。しかも、攻撃がヒットするたびに確率は上昇する!! 俺の作品中、最強傑作だ!!」

 勇者さんが言う。

(え、つくったの? 伝説の鍛冶屋なの?)


「戦闘中に解説すんな!!」

 バニーさんが横から言ったが、敵連中は少しおののいたようだったから意味はあったっぽい。


「即死、1/60!!」

 またヒットした。しかし、ミノタウロスは持ち堪えたようだ。

 さらに気合をこめて斧による激しい連撃をくだす。

 マリンさんいずれも冷静に受け流し(パリィ)を続けていた。


「これに耐えるなんて、その根性マジリスペクト。でももう終わり。1/35!!」

 三発目は首から袈裟斬りにした。頸動脈に近いところから血が勢いよく噴き出る。

 ミノタウロスがどうっと、倒れた。

 もう即死じゃなくてふつうに倒してる気がする!! どっちかわからない!!


 ちょっと気を取られていたが、俺は自分の仕事をする。モンスターのいない広間の右側に大回りで駆ける。最大限に集中して気配を消す。


「臨・兵・闘・者・開・陣・列・在・前!!」

 バニーガールが忍術みたいなのを唱え始めたのが聞こえた。


「――春の夜の夢の如し!!」


 瞬間、敵の魔術師が膝から崩れ落ちた。


「ちっ!! リザラス、そっちは任せた。私はこのうさぎ女をやる!」

 デイモスが叫んだ。

 リザラスというのはモンスターテイマーのようだ。

 いずれにしろ、勝機が見えてきた。

 モンスターの方は数が多いが、近接・遠距離・防御の三人態勢なら問題なく行けそうだ。


 そして、バニーさんは凄まじい太刀捌きでデイモスが放つすべてのオートアローを叩き落としていた。これで一気に間合いが詰められた。やつは俺に気づいていない。


「いまやっ!!」


「はいっ!」


 俺はデイモスに目掛けて短剣を振り下ろした。

 しかし、瞬間、腕を掴まれてしまう。

 くそっ、見えていないのに。


「忘れたのか。君は焦ると気配がダダ漏れなんだよ」


 くそっ。


 でも、いまならオートアローがとまっている。バニーさんがなんとかしてくれるのではないか。

 そう思って視線をやるが、もう一体のミノタウロスがバニーさんにターゲットを変えていて、その応戦をしている。

 デイモスも俺の腕を掴んでいるために弓による攻撃ができない。千載一遇のチャンスなんだ。

 なのに、こいつにいちばん近いのは俺なのに。倒すことができない。


 どうする、どうする……。


 その時、あまった左腕にぶら下がっているだろうブレスレットのことを思い出した。


 これだ!!


 ブレスレットに魔力を込める。いつか試しにやってみて俺の少ない魔力でも動いた。

 その威力は試していないが。


 魔力が装填されるのを感じて、俺はその左腕で、俺の右腕を掴んでいるデイモスの手首を掴み返した。


 握力10倍!

 握りつぶすっ!!


「ぐわーーーーーっ!」

 デイモスが悲鳴をあげる。

 やった。俺は解放された右腕でしっかりと短剣を持ち直し、デイモスの心臓に突き立てた。

 バリンッ

 GPが割れる音がする。


 やった!!!!!


 俺は短剣を持ち替えて、デイモスの顔面めがけて渾身の拳をぶつける。

「こんちくしょーーーーーーーっ!!!!!!」

 額に重い一撃が入る。硬さを拳に感じたがそのまま地を砕くように叩きつけた。

「っっ!!」

 デイモスは声にもならない音を短く発して沈んだ。


「やったか!」

 勇者様が叫ぶ。


「よっしゃ殲滅や! 足枷領域スネアフィールド!」

 バニーさんが叫ぶと、モンスターの何体かがずっこけた。


 そこへ勇者様のドラゴンブレス、暗黒騎士が切り込んでいって、のこりの敵は俺が膝をついてぼーっとしている間に殲滅されていったようだった。

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