009 死亡フラグ
それから俺はワラシベチョウジャの情報を集めた。
同盟に所属している「もぐり」の冒険者も見分けがつくようになった。
やつらは、ふつうのギルド所属冒険者のように〈冒険者になろう亭〉に集まるが、クエストを受けていない。報酬の換金をしているのも見たことがないが、いつもいる。おそらく通常の冒険者を装っているのだろう。
俺たちもそうしていた。
そいつらを尾行していると、端々でいろんな情報が聞けた。
どうやら人殺しを請け負ったアタリチートのようだ。
犯行計画とともに、元締めの名前と居場所がわかってきた。いつもいる時間帯など。
名をデイモスという召喚人の冒険者。
居場所は俺たちがミノタウロスと出会った廃墟の貴族屋敷。
あの館には地下構造があり、そこを根城にしているという。古い記録だがダンジョンC203と呼ばれるポイントだという。
もし以前からそうなら、俺たちはそもそもハメられたかもしれなかった。
ギルドの冒険者を始末するついでに、ミノタウロスでチートスキルの性能確認をしていた、ということだ。
情報は出揃った。
俺はいつものようにエルサのもとへいく。
俺の透明スキルは、ますます冴え渡っている。時間制限も伸びている。いまさらながら夢のスキルに近づいているかもしれない。
そればかりか、超近接がうまくいけばステルスプレイが可能だになる、まるで「アサシン」だ。短剣なら透明化にはまったく問題がない。
エルサと話し合って、決行する日取りを決めた。
「ずっと引きこもりだったから、たのしみだわ」
そういうことなんだろうか。
「油断はできないよ。敵の人数は、まだ把握できていない」
「あなたは姿を見せずできるだけ倒す、乱戦になったら私が暴れるわ」
「簡単に言うなよ」
実際、二人でなんとかなるものだろうか。いまから緊張する。
「あなた、ザキって、本名が山崎だからでしょう?」
エルサが唐突に言ってきた。
「ちがう、違う」
本当に違うが、いきなり懐に飛び込まれた気になって俺は狼狽えた。
「じゃあナニ崎なの?」
「ナニ崎限定なの?」
「フツーのあなたがつけそうな名前だわ」
「間違いなく合ってる、ごめんなさい」
降参だ。実際の命名は友だちだが。
「やっぱり。ふふふ」
あれ、笑った? はじめてかな。
「じゃあ大崎、田崎、高崎?」
いたずらっぽく言う。
「教えない――いや、無事に帰ったら教えるよ。そしたら、君の名も教えてくれ」
自然と口から出た。
「いやよ。それ死亡フラグ以外のなにものでもないわ」
「しまった! ほんとだ!」
こういうところがモブキャラのうかつなところだ。
でもエルサはやっぱり笑っていた。




