表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ざんねんな異世界の冒険者たち  作者: 日向小次郎影虎
2章 最弱とチートと復讐と 編
31/70

006 外道(チート)スキル狩り

 基本的に魔法デバイスにあるチャット機能でエルサから連絡がくるまで俺は待機だ。

 ある日、そのエルサから連絡があった。

 あれから冒険自粛だから、そのお誘いではなかった。

 話があるので家まで来て欲しいという。


 なんだろう。

 ドキドキしてる自分がいる。妄想って楽しいな。


 俺もエルサも古王国に住んでいる。冒険者向けの賃貸だ。異世界市よりもずっと家賃が安い。コンビニなんかがなくて不便だが(実際には、81ナイススクリームという店舗がグランオートにひとつだけある)、トイレも水洗だしシャワーも完備だ。

 異世界気分を味わいつつ、本気で中世やら近世みたいな不便さがないので、こちらに住む冒険者も多い。ただなぜか、食費だけは異世界市よりずっと高い。


 俺は伝えられた場所に行く。1階で家主が雑貨屋を営んでいて、上層を冒険者に貸し出している一般的な形式だ。

 俺は居住者用の外階段からいちばん上の3階にあがる。

 一番奥がエルサの部屋だ。名乗ってノックすると「入って」と声が聞こえた。


「よう、どうした? 意外と寂しがり屋?」

 女の家に呼ばれた緊張を隠すために、わざと軽薄な口調をしてみる。


 が、いきなりがっつり睨まれた。

 エルサは普段着ではなく魔力のかかったいつもの冒険用ローブをまとっていた。


「たいへんなことになったわ」

 エルサは深刻な表情で告げる。


「冒険者がミノタウロスに殺された件? ニュースでもやっていなかったけど」

 古王国は公共の限られた場所にしかテレビは置かれていない。宮廷の祝賀や、行政的な通達などの国営放送、それと異世界市でもやっているニュース番組などしか放送されない。

 主に古王国側の出来事が放送されるが、シークレットミッションの冒険者が死んだ話題はなかった。もっとも、冒険での死亡案件はニュースにはならないし、そもそもシークレット案件だから余計にそうなのかもしれない。


「報道はないけど、警察は私たちの関与に気づいているみたいだわ」


「なぜ?」


「ケンが捕まったのよ。窃盗で」

 あいたたた。本当にチンピラだったか。


「うっかり喋ったのか」


「どこまでかはわからないけど、そうみたい」


「でも、正直に話したらダメなのか。もぐりのクエストで鉢合わせたとはいえ、実際に俺たちは犯人じゃないわけだし」


「問題はギルドではなくて、召喚同盟のほうよ」


「……え?」


「……トレミーが死んだの」


「……」

 俺はこのふざけた世界で立て続けに人の死を目の当たりにし、知人の死を知り、その現実に言葉が出なかった。

 エルサによると、ミサモが知らせてくれたらしい。


 ミサモは事務所社長からトレミーをとある場所に呼び出すよういわれた。ミサモは案内を果たした後、その場を立ち去ることになっていたが、ほんの好奇心で、猫になって同盟幹部とトレミーのやり取りをすべて見ていた。

 そして、ミサモの話によると、トレミーは幹部への昇進を打診されたという。しかし、幹部の仕事というのは――。


「人殺しだそうよ」


「え?……誰を」


「特定の人物じゃなく古王国の騎士階級以上、貴族らしいわ」


「ちょっとまってくれ、召喚同盟ってのはやっぱり」


「そうね。召喚人の地位向上といっても、力づくのようね」


「だからチートを配っていたのか」

 先日、古王国の辺境伯だかの領地が召喚人に乗っ取られたニュースを見たばかりだ。あれも異世界同盟が絡んでいるのか。


「そして、トレミーは断ったの」


「それで消された?」


「そう……」

 やっぱり、やばい団体だったんだな。怪しいのは十分にわかっていたけど自分のあさはかさにがっかりする。


「もうひとつ、大事なことがあるわ。トレミーのチートは〈アタリ〉だったの」


 当たり?  たしかに俺の使えそうで使えない透明スキル、ケンのカツアゲ用なのかリサイクルショップ用なのかわからない金目のもの鑑定スキルに比べたらアタリかもしれない。


「だから幹部に誘われた。断ると能力を回収されて殺されるそうよ。その様をミサモが見ていた」


「ハズレなら?」


「ほうっておかれるみたいね。ハズレはチートどころか〈呪い〉だそうよ。だから新参者で実験させているの」


「呪い……」


「そもそも役立たずか、使い過ぎると体に悪影響があったりするものもあるらしいわ。奴らはしばらく使わせて問題なく〈アタリ〉と思ったやつに暗殺ミッションに参加させるか、殺して能力を回収するか」


「……」

 けっこうヘビーな話だ。俺は何もいえなかった。いまさらながら軽率だった、そう思う。


「なら、君は?」


「私のはたぶん〈アタリ〉でしょ。そのうち声がかかる。そのことをミサモが忠告しに来てくれたわ」

 その口ぶりだと、彼女も暗殺者になりたいとは思っていないのだろう。


 ミサモは同盟との連絡を断って、しばらく姿を消すという。エルサを売るようなことはしないと約束し、同じように冒険に出たり派手な活動はしないよう忠告してきたという。


「ギルドに相談できないかな」


「ギルドが禁止しているチートに手を出したのに?」


「僕らは知らずに利用されたんだ」


「知ってたじゃない。それにいまは殺人の容疑者よ」


「どっちも、誤解だ」


「なんでそんなに能天気なの。タダじゃ済まないわ」


「なら、正直に話して罪をつぐなおう」


「いやよ!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ