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ざんねんな異世界の冒険者たち  作者: 無銘、影虎
2章 最弱とチートと復讐と 編
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【幕間】  無能詐欺被害対策協議会

「みんなそろっているな」

 風間は会議室に入るなり言う。

 真っ白なスーツ、黒髪をサイドテールにしている。

 一見ヤンチャだが、背筋も視線もまっすぐですきがない。

 強さからあふれる気品がある。


「すみません。阿倍野さんがダブルブッキングで、討伐依頼を優先して、本日は欠席です」

 風間の秘書の山田が答える。


「ちっ、またか。あいつは……まあ、いい。なら、定刻前だがはじめよう」


「はい。日本対策協議会、通称〈チーム風間〉、定例報告会、始めます」

 風間の最側近である山田が進行をつとめる。


 会議室に集まっているのは、12人。9人が異世界人サモンで、のこり3人は現地人コモンで構成されている。

 異世界人の8人は風間がとくに認めた専門性の高い人材だ。

 風間からは「マスター」の称号が与えられている。

 彼らは日本、すなわち「あっち」の情報と、転入者の動向を把握するため風間によって招集されている。

「こっち」の国益、いや、異世界益を最大化する目的で創設された。

 ちなみに「あっち」「こっち」は行政文書にも記される用語として認められている。

 すでにそのことで現場にはどえらい混乱が起きているが、お役所の対応が遅々として進まない。


「本日の議題ですが、先日、ご連絡していた通り、〈ざまあ詐欺〉についてです」

 山田アナが司会進行する。


「うむ。これについては正直、個人の趣向と思って放置していたが、いま現在は転入者の多くがそれを指向している。なおかつ、一部で被害が出始めている。大事になる前に対処したいと思う」

 風間がいう。肘をつき、指を組んで顔を載せている、「こっち」でいまさら流行っている立木文彦ポーズだ。


 同時に、パシャツパシャツとシャッター音らしき音がする。


「撮影禁止だぞ。マスター・オブ・フォーカスよ」

 風間は注意する。

「すいませんすいませーん」

 一眼レフを首から下げた、落ち着きのない男が答えたものの、言いながらしばらくやめなかった。というか、まったく無視している。

 しかしながら、風間もポーズをとり続けていた。

 常人には気づかれないが、風間はちょっとずつポーズを変えている。


「各分野で本件に関しての報告はありますか?」

 山田秘書官が続ける。


「ああ、ちょと関連があるかもな」

 いかにも料理長といった格好をしたオヤジが発言した。


「なんだ。マスター・オブ・グルメ」


「じつは、市内の高級レストランで異世界人の新入りが入ったんだが、皿を割るわ、掃除もきっちりできんわ、ちょいちょい無断欠勤もするというやつがおったそうな」


「ほう」

 風間は興味を示した。


「あまり使えないんで、店主が追放したんだ」


「クビと言え。こちらではそう呼んでいる」


「いえ、日本でもふつークビって言うが、最近、こっちでは〈追放〉のほうが一般的でして」


「まあ、どっちでもいい。それでどうした?」


「店休日に、大富豪の常連が急にやってきて、いままでたべたことのないものを食べさせなければ、いますぐこの店を潰す、と言ったんだ」


「もう、その状況がやばいな。無法地帯だな」


「店主が対応できず、たまたま身辺整理で休日店にいた例の〈追放男〉がつくった料理を食べて、大富豪が腰をぬかしてしまったんだ」


「なにをつくったんだ?」


「タコライスとラフテーだ。あまり、こっちでは知られていなかった。すまん。わしの責任だ。結局、〈追放男〉の料理に感激した大富豪が、そいつの事情を聞いて〈おこ〉になって、オーナーのほうが追放されてしまった……」


「ちっ。またか。わざわざいったん追放されるなどと、姑息な真似をしやがって」


召喚人サモン同盟ではマニュアル化されているとの噂です」


「〈ざまあマニュアル〉だな。聞いたことはあるが、まだ確証が得られていない。だいたい、そいつの出身県は聞いてなかったのか?」


「わかってはいたが、対処できなかった。申し開きもできない」


「まあ、仕方ない。〈日本〉はご当地グルメが多すぎる。まずは出身都道府県は必ず確認しろ。私がつかんだ情報によると、キタカントー、サンイン、コーシンエツは気を付けろ。意外なグルメが潜んでいる。むしろオキナワは想定できたはずだ。たるんでるぞ!! ――まあいい、われわれも料理人が転入した場合は、ただちに1週間の勾留と身辺調査を可能にするよう、市役所に働きかけるつもりだ」


「はっ!」


「あと、各店にすぐに追放するのもやめさせろ」


「イエッサー!!」


「よろしい。では次」


「はい」

 魔術師が手を挙げる。


「では、マスター・オブ・ソーサラー」


「魔法学園でも、実力隠しが横行しています」


「MPとか魔法能力の適正などは〈こっち〉ではそもそも数値化されないはずだが?」


「そうなんですが、全員能力隠しをしているせいか、今期の魔法学園の新入生の平均能力評定が史上最低です。もう全員クズ判定です。退学させてもいいですか?」


「それはやつらの実力隠し戦略だと思われる。組織だった行動とは思えないが、俺TUEEはいずれすぐ炙り出されるはずだから、その時に対処しよう。あいつらは陰で動くので警戒は怠らぬよう。あとどっちかというと、学園の権威と質が落ちる方を気にしてくれ。ていうか、そもそもなんでそんなやつらを合格させた?」


「はい! 学校運営のために受け入れは少々ガハガハになっているようです。むしろ劣等生枠が確立されようとしています」


「少々ガハガハってなんだ? どちらにしろ問題だ。異世界市が転入者の人材提供をストップすることも交渉材料に加えるべき時かもな」


「わかりましたっ!」


「次は? マスター・オブ・イベンター」


「はい。偽物の古代魔法アイテムは、近年にみないほど出回っています。それがまともなものかどうかは被害者が出るまでわからない状況になっているでやんす」

 メガネをかけた守銭奴のようなやつが答えた。


「ナルニワで売られている限りは規制ができない。レダの幹部とは話し合っているが。われわれには〈はじまりの魔導士〉から与えられた、異世界人を楽しませる、という最大にして必須の使命フェイトがあるからな。そのバランスをみなくてはならない」


「しかし、規制ができないのに〈チート市場〉とか開催するのおかしくないでやんすか?」


「黙れ、こぞうっ! チート市場の売り上げは過去最高益だ!」


「われわれ企画料しかもらっていないから、売り上げ関係ないですよね」


「あさはかな。レダに貸しがつくれるというものだろうがよ」

 風間は一蹴する。儲かる、儲からないではない。公務員だし。


「次は? マスター・オブ・レビュワー」


 妙にこの場に似つかわしくない男が発表したのは、日本におけるラノベ最新刊のタイトルおよびプレビューだった。


 風間はその報告を目を瞑りながら頷いている。

 ほかのマスターたちは、この報告動画配信で済ませろよ、と思っている。

 なぜなら長い。そして、これを聞いてどうすればいいのかがわからない。


「そこのバトルだけでほぼほぼ一巻やってしまうのか……。ちょっとまて、その展開はありなのか!?裏切ったとみせかけて操られているのでは!? ……いやいや、もうその二人、くっついてよくね!?…………」

 風間は報告に対していちいち興奮気味にリアクションをとる。


 だから、家でやってくれと。


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