004 外道(チート)パーティー
俺はエルサがリーダーのパーティーに入ることになった。
〈冒険者になろう亭〉で自己紹介をする。
いずれも召喚同盟のメンバーらしく、古代魔法によるチートスキルをもっていた。
「俺はケンだ。職業は戦士」
そう言った若い男はいわゆる犬タイプの獣人だった。
耳と尻尾があるのでかわいいっちゃかわいい。ただご本人の人相は相当悪い。あっちで出会っていたら絶対に目を合わせない。
ちなみにこの世界の本当の獣人は完全に獣顔で獣度は段違いだ。召喚人の獣人は耳と尻尾がついてるだけ。「ノケモノ」と呼ばれるなんちゃってだ。
しかも、通常の耳もあるので、耳が四つあることになる。獣耳のほうは何に使ってるんだろう。
この世界ではGPを持っていることが「人間」の基準とは聞いた。だからGPのないコボルトはきわめて獣人と近いがモンスター扱いなんだそうだ。なんだかモヤモヤするが。
たしかに、それに加えてコボルトは人間と会話ができない。だか、目の前のコイツも、話ができるかっつーと、そんな気もしない。
むしろ実家にいた芝犬のデスピサロのほうが言葉は通じなくても、絆を感じる。
「俺はよ、あっちではこれだったんだよ」
ケンはそう言って人差し指で頬に切れ込みを入れるようになぞる。
最近見ないが、ヤクザ屋さんジェスチャーだ。
ていうか、いきなりすごいアピールしてくるな。顔を至近距離まで近づけてドヤ顔してくる。ヤクザというより、サイコパスだ。意外とすぐに片付けられるキャラだぞ、いいのか?
「お前らと違ってあっちでもヤッてるからなあ、ああん?」
何を? なんでそんなに俺にアピールしてくるんだよ。
「どんな、スキルをお持ちなんですか?」
とりあえず、ごまかした。
「あ? なんでてめーに教えなきゃなんねーんだよ?」
どんどん顔が近づいてくる。タワーディフェンスゲームなのか。
「チームを組むからにはお互いの能力は開示すべきよ」
エルサが見かねていう。
「ああ? てめーがいつからボスになった?」
俺にキレていた勢いでエルサにつっかかる。
「私があんたをぼっこぼこにした時からよ」
ケンの獣耳がわかりやすく折れた。
なるほど耳はこういうことに使えるのか。
そりゃ物理が効かなくて、魔法を使う奴なんて、こんな脳筋じゃ勝てないだろう。
ケンはなにごともなかったように俺に向き直り、
「俺様のスキルは鑑定だ」
といった。
なんか意外。使いようによってチートな感じになるあれだろう。
ただ、使いこなせるのか、こいつに。
「敵の弱点が見えたり、行動パターンが読めたり?」
「は? ちげーよ。金目のもん持っているかわかんだよ」
「えっ、それなんの役に……」
カツアゲ用? 驚いて思わず口に出してしまった。
「なにいってんだ、シノギに使えんだろーが」
え、なにその犯罪者専用スキル。ある意味チートか。
「ちなみにあそこにいるやつが持っているマント、売ったらいい金になるぜ。知る人ぞ知るヴィンテージだ」
え、古物商スキルなの?
お前みたいなんが知る人でいいの?
「ひとりのとき狙っちまおうぜ」
今度はケン尻尾がさわがしく動いた。感情バレバレじゃないか。ほかに使い道ないのか。
「いや、俺、そういう冒険はちょっと」
ケンはつまらなそうに舌打ちした。
こいつやばいな。いろんな意味で。
「まあ、とりあえず、杯かわそうぜ」
いきなり飲みュニケーションの話?
ケンのはビールジョッキ、俺はコーヒーだけどいいのかな。とりあえずカップをもつ。
「七三の兄弟だ。もちろんお前が三分」
は?
杯ってそっち?
よく知らないが義兄弟になる儀式のやつだろ?
なんか舎弟になれと言われているのと同義な気がしたので、カップを置いた。
「ちょっと待ってください。まだ知り合ったばかりですし」
「ああ!? てめえ俺の盃が受けられねぇーっつうのかよ!」
「ケン、極道ごっこはやめなさい!」
エルサが一括する。
「なんだと! ごっこなんかじゃねー。俺は超有名な組織の三次団体の兄貴と知り合いの先輩の弟と杯交わしてんだ!」
よくわからんが、一般人に近い気がしてきた。不良、チンピラあたりの? なんで構成員じゃなさそうな先輩の弟は盃交わしたの?
「ならまず私と盃を交わしなさい。当然、親子盃よ」
エルサがキッと睨みつける。
ケンはなにも言えずに黙っている。
よわ。
なにこのパターン。毎度お馴染みなの?
次に紹介されたのは、ミサモというこちらも獣人だった。大人気の猫だ。
キュートな外見で、とても冒険者には見えない。コスプレイヤーだ。
「彼女のスキルは化け猫よ。完全に猫になれるわ」
かわりにエルサが答えた。
ミサモは顎下ピースでウインクしてくる。あざとかわいいアピールがひどい。
「職業はアイドルどえす!」
(は? どえす? なにそのへんな語尾)
どうしよう、リアクションがとりずらい。
「す、すごいですね。今度、ライブに行きます」
「いやー、まだ、その時ではないっちゃ。デビューにむけてレッスン中だっちゃ」
いや、なら冒険者まずやめようよ。
あと、また語尾が変わっている。
「音痴なのよ。人に聞かせられるものではないわ。魔獣に襲われても文句が言えないレベルよ」
エルサがばっさり切り捨てた。
ひどい。歌は楽しく歌えてればそれでいいのだよ。むしろ、どんだけ外しているのか気になる程度にあんたがハードルあげてんだよ。そこまでジャイアンな人っていないと思うぞ。
「そこまで言わなくても……、ねぇ?」
ミサモとやれやれ共感しようと視線を送るが、
「たしかに魔獣を呼び寄せたことはあるんだーわ。カーニバル、そう闇の者たちの集会だったんだーわ」
事実を認めてきた。そしてとつぜん陰キャになった。
「そ、そ、それは、それは、ある意味スキル! っていうか、なんでさっきから語尾が違うんですか!」
「キャラ強化のためっす。いま模索中っす。人気が出るためには必要っす」
少年口調に変わった。
正直どれもよくない。
「〈にゃ〉でいいのでは……」
「それだけはダメにゃ!! 猫だから〈にゃ〉は安直すぎるにゃ!そういうのは猫型獣人の7割が使ってるにゃ! カブりまくりだにゃ!」
なんだそのこだわりは。といいながら使ってるし。
「了解しました。落ち着いたらまたご連絡ください」
俺は業務連絡のように返信した。
「まあ、あたしは主に連絡役だからあんま戦闘は期待しないでっつーの。レッスンもあるし。事務所の社長が同盟の関係者だけど、表立ってメンバーであることを公表していないから、連絡役が必要だっつーののよ。口がかたい人向きの超高額バイトだっつーから」
すごいこと言ってる。召喚同盟って芸能事務所なの?
「口、軽くないっすか?」
「はっ! !」
しっかりしてくれ社長、キャラがブレてて歌が下手で口が軽いアイドルは炎上まっしぐらだ。
最後はトレミーという男。こっちは廃エルフ、クラスはアーチャー。
「俺のスキルは魔法の矢を無限に作りだせる」
「えっ、それはすごい!」
はじめてマジものだ。わかりやすくチートだ!
「だから、荷物が少なくて済む」
「そこなんですかね!」
「外して矢が不足する心配がまったくない」
「当てていきましょう!」
「実は矢はオートで必ず当たる」
「めちゃくちゃすごいじゃないですか!」
「矢筒を持ち歩く必要がない」
「だからそれはオマケ!」
しかし、それは本当にすごいスキルだ。
「いや、荷物が少ないのはメリットだ。ちなみにおれのバックパックは最高級のウルトラライト仕様だ」
「登山家か」
「そして矢筒を持たなくていい代わりに抱き枕を持ち運べる」
「無駄!」
「寝つきが悪いからな。アイマスクやら、アロマスチーマーは必須だ」
「無駄無駄無駄無駄!!!」
それにしてもエルサとトレミーだけじゃないか。チートと呼べるのは。そして、ふたりは半年以上のベテランで、うるさいだけのオラオラくんは俺と同じ初心者のようだ。
ちなみに俺の透明スキルだが……。
5分程度しかもたないし、足音は消せないし、じっと見ればなんとなく光の屈折でわかるような光学迷彩のようだし、そもそも気配が消せない。
(うん。これどこで使うのか実はよくわからないやつだな)
これが漫画だったら、影のうすいやつ、の誇張した特徴ぐらいにしかならんだろう。
世界中の男がうらやむだろう夢の能力のいまいちな性能がわかったとき、全米が泣いた。
「まあ、戦闘中なら間違いなく使えるわ。そして女湯で使えそうになくてよかったわ」
エルサは冷ややかにフォローした。
正論だが、なぐさめにはならない。こんなにがっかりしたのは人生初だ。
いちおう、新しい仲間に説明すると、男性陣はやはり最初色めき、そして同情した。
「ま、使い手の魔力が上がると使い勝手が上がることもあるらしいし、まだ諦めんな」
ケンが同情してくれたみたいだ。
「なにを? なにを諦めないの?」
俺とは関係ないところでまたケンとエルサが口論し始めた。




