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ざんねんな異世界の冒険者たち  作者: 無銘、影虎
2章 最弱とチートと復讐と 編
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002  最弱ブームというかムーブ

 ザキ――俺が最初に選んだ職業は「戦士」。


 実は、こういうので戦士以外を選べたことがない。


「魔術師」はなんとなくMP切れがこわいし、僧侶とかサポート役は現実で充分なんで絶対に選ばない。俺が現実でサポートとして有能かは関係ない。


 ああ、有能じゃないさ。隠したって無駄だよな。どうせ。


 盗賊とか遊び人みたいなのもトリッキーで、ゲームをやりこんでいる人が「しばりプレイ」をするものだと思っている。


 慣れないうちにはじめてから苦戦するのもいやなので、最初はいつも「戦士」。

 そして最後まで戦士。


 戦士を選ぶと養成所に連れて行かれて、1ヶ月半の合宿訓練を行う。

 剣の扱いやら、冒険の基礎知識、この世界についてのガイダンスを受けて、時間が過ぎる。


(そりゃ、そうだよな。ゲームじゃないんだから)


 正直に言おう。ひょっとしてものすごい才能が与えられたかもしれないとおもったこともあったさ。


「ステータスオープン!」


 何も出ない。

 そうだよな。ゲームじゃないんだから。能力が数値化されたら、逆に絶望するわ。

 たぶん全部平均よりちょっと下だわ。

 ステータスオープンに酷似したもので、住民カードを持っている時に宙に手をかざすと、スマホのようなデバイスとして使えるんだが、市役所に登録されたプロフが出てくるくらいで、強さやスキルの表示なんてもちろんない。公開と非公開が選べるが基本的に個人情報だ。健康保険とかクレジットカード機能もあるが、つまりマイナンバーカードみたいなものだ。あとはちょっとしたネット検索、チャット機能がついている。そしてそこまであるのになぜか通話機能はない。


 戦士としての訓練は軍隊のブートキャンプのようなものかと思ったが、わりと丁寧で親切だった。軍人になるわけではないから、ということらしい。


 とはいえ、それなりに訓練は厳しかったし、この年齢(たぶん実年齢のまま)にはこたえた。剣を振り回すのは新鮮な面白さがあったが、実戦形式だとやっぱり怖い。


 一ヶ月半の訓練を終えると、成績発表があって、俺は中の下だった。

 さすがとしか言いようがない。


 どこにいっても安定のポジションだな。

 きっとこの世界でも「フツー」で終わるんだろう。


 魔王を倒すこともなく(残念なことに存在しないらしいが)、モテるわけでもなく(ビジュアルはあんまり変わらなかったし)、隠れた実力はあるけど静かに暮らすのも、まず実力がないから楽隠居するためには定年ギリギリまで金を貯めるために働かなきゃだろう。


 実際、平凡なパーティーに参加して、弱小モンスターを倒して、わずかな報酬の配分でパーティーでちょいちょい揉めるのが日課になった。


 あとはバイト。あと二ヶ月程度で、生活費の支給が打ち切られると言うので、時間がある時はこつこつと日雇いのバイトをしている。

 モンスターと戦うなんて非日常は刺激的だけれど、なんかそのうち慣れてきて、あっという間に日常になりそうな気がする。ここでも俺は人の羨望を集めるようなこともない凡人だし。


 初心者とはいえ、冒険者のほうが若干、実入りがいい。この世は魔力がインフラに関与しているので、それが多く手に入れられる冒険者稼業はなかなか悪くない。だが、多くは異世界人だ。古王国にいる現地人はこの中世風のフィールドで、モブのように生きている。いや、失礼。地に足をつけて生きている。


 結局、異世界人なら、倒せるモンスターのレベルがあがれば、たぶん、冒険者のほうが儲けられるのだろう。そうじゃなきゃ誰も冒険者はやんないか。


「とんでもなく異世界損だな!」

 思わず叫びたくなる。いや、何回か実際に叫んだ。誰もいない夜の児童公園で。


 やっぱりゲームの良さはがんばった分だけ成長することだな。わりと早く。

 実生活ではなかなか感じられないものだ。


 そういう意味では、この異世界もまごうことなき実社会だわ。

 せめて、逃れられない運命やら派手な活躍をお膳立てしてくれないものか。


 そんなある日、グランオートのいちばんの広さのある公共スペースであるレジェンド広場で見たこともない市場を見た。


 〈最速! 活躍! 大満足! チートスキル定期市」〉


 横断幕がかかげられ、いつもはひらけた広場に所狭しと露店がならんでいる。


「あれ、チートは違法じゃなかったっけ?」

 まあ、その前にチートは売り物なんだという疑問があったが。


 俺は呆然とひとりごちていると、近くにいた男が親切に教えてくれた。


「ここのは違法じゃないよ。いちおう公認だ。あんたが言っているのは闇チートだよ」


「どう違うんですか?」


「ここのチートは最先端で……闇チートはマジでやばいらしい」


「いや、ちょっと何言ってるかわからないです」


 ともかく、違法じゃないならちょっと覗いていこう。

 俺はマーケットに向けて歩きだした。


 近づくに連れて、露天主たちの威勢のよい呼び込みが聞こえてくる。


 すごい活気だ!

 逆にそれぞれなにを言っているのかわからないぐらいの騒音。


 集中して聞き取ってみる。


「最弱あるよ、最弱だよ!」

(は? 最強じゃなくて?)


「はい、追放されるよ。追放されるよ!」

(え? 誰に?)


「にいちゃん、最弱いらんか?」

(うわっ話しかけられた。いらねーよ、なんだよ最弱って)


「最強の最弱だよ!」

(どっち!)


「最高級の最弱だよ」

(だんだん、いいもののように聞こえてきた!)


 最弱、追放、ざまぁ、そんな売り文句の雨霰にだんだん気持ちが悪くなってきた。

 そもそも売り文句なのか。

 なにが売っているのか気になるが、話しかけられたくない。


 老店主がひっそりやっている露店を見つけた。

 とりあえず、そちらに足を進めて、ゴザ(ゴザって!)に並べられた商品を見てみる。

 紙や布類ばかりのようだ。


 〈いま大人気! のレッテル各種〉

 追放幹部腕章

 レベル1冒険者ワッペン

 失格令嬢ステッカー

 最弱勇者認定書

 田舎者は当然のように無能力者シール


 何これ、また最弱か。


「これ、何に使うんですか?」

 勇気を出して店主に聞いてみる。この市場自体がイカれている気がするが、なんとなく自分のほうが場違いな感じもなくもない。


「なにって、これさえあれば最弱だと証明できるだよ」

 やっぱり、こちらが非常識な感じの反応だ。


「ダメなやつって思われるってことですか?」


「そうそう。こういうのでもないと、最弱だとわかってもらえねぇべ」

 さらに当たり前のような驚きの顔を見せられた。


「あのぅ、最弱だと思われるのは、いいこと?なんですか?」


「あちゃー。おめー田舎もんか。最弱に見せかけて、か、ら、の、すげーところを見せつけるのがいま流行っているだよ」


「ああ、強さを隠したい人が使うんですね。これはチートアイテムじゃないんですね?」

 よく見ると、缶ジュースレベルの値段だ。

 ここはお笑い店舗だったか。


「あんた。そこは幹部やら実力者になってるやつが利用する店だよ」

 しまった。隣の店の親父に話しかけられた。


「あんたが買っても意味ないぞ」


「強い人が買うのにはどんな意味が?」


「そりゃ、見る目がないバカを見返すためだろ」


「えっ、見る目っていうか、能力隠してるんだから、それは詐欺なのでわ?」

(なんだその水戸黄門プレイは。いや、水戸黄門には悪意はないぞ、たぶん。

 いや、虚偽の申告だから同じか。だとしたら、これは伝統芸なのか!)

 思考は迷走しまくっていた。


「まあ、どっちにしろ初心者にはわからんだろうよ。だから、まずはこっちでチートアイテムをゲットすることをおすすめするぜ」

 と、隣の店に強引に連れて行かれた。


 リング、ワンドなどが並んでいる。

 これがチートアイテムなのだろうか。

 どちらかというとチートというよりチープ。


「かなり虐げられるよ。効果バツグンだよ」

(だからなんだよ。その売り文句)


 どんなスキルがあるのかと聞くと、

 吸収スキルだそうだ。食事で摂取できるビタミン、カルシウムが2倍吸収される。


「どうだ、最弱だろうぅ?」

 なつかしのワイルドだろうぅ?の発音で言ってくる。


 この世界ではもしかして、ハズレスキルのことをチートと呼んでいるのか。

 だとしてもそんなもの誰が買うのだろうか。


「わかった! いずれものすごい強靭な骨格になって、攻撃が効かなくなるんだ!」

 なぜかひらめいて大声を出してしまった。


「いや、骨固くなっても、切られたら大怪我だろ」


「いや、じゃあ……」


 店のおやじはとりあえずどんどん商品を説明してくる。

「こっちはテイマースキルだ。虫限定のテイマーだ。最弱だろうぅ?」


「虫は、苦手な人が多いので使えるかもしれませんね……」


「人につかっちゃいけないよ。あんたがどんな虫を手なづけようとしているのかわからんが、毒のあるやつは手なづけられないぞ」


「はっ、もしかしてこの世界には王蟲みたいのがいるのでは?」

 ムシキングになれるのか。じつは、子どものときムシバトル好きだった。


「にいちゃん、安心してくれ、テイムできるのは5センチ以下だし、生涯に一匹だけだよ。どうだ、最弱だろうぅ?」


「……ほんとに。そんなスキルもっているのがバレたら、虐げられそうですね」


 うっかり騙されるところだった。

 いや、本当に心を込めて最弱商品を売っているらしい。

 よく見たら、価格も縁日のお面くらいだ。


「ほう、今日も賑わっているな」

 そんな声が聞こえて振り向くと、スーツ姿の女がふたり。

 いかにも場違いなそれはおそらく市役所の職員だろう。


「このあいだの婚約破棄イベントといい、異世界人は本当にこういうのが好きだな」

 サイドテールで白のタイトスーツを着ている女がいう。

 一見、ギャルっぽいが、軽さは一切ない。むしろ獲物を狙うような厳しい目つきをしている。


「ええ、まったく」

 そばに控えて、頷いた女はコバルトブルーのスーツだ。


 上司と部下、あるいは秘書、または先輩後輩だろうか。

 こうして見ると白スーツの女はキャリアウーマンというよりは軍人のようだ。

 軍人を見たことはないが。


 あと、婚約破棄イベントってなんだ。


「婚約破棄を前提に婚約することの意味、私たちにはわかりませんでしたがね」

 部下のほうが呆れたようにいう。

 ごめん、それは異世界人の俺にもわからない。


「何を言う。どん底に落ちたからこそ、本当にやりたいこと、友人や仲間、真実の愛が見つかるんだ!」

 上司がにわかに激昂した。


「だからって自分からわざわざやるなんて。本当のどん底と言えるのでしょうか」

 部下はいたって冷静に答えた。


 部下の言ってることが正しーーーぃっ!


「何を言う。本当にどん底だったら辛いだろ!それに重要なのはそこからバンバン上がっていくことだ。それが楽しいんだ。読者が」


 なんだよ読者って。


「まあ、参加してくれた古王国の貴族たちもわりと楽しんでましたけどね」


「本気になる者があらわれないといいのだが。トラブルは困る」


「異世界人とは結婚できないので、結局は婚約破棄になりますから、いいのでは」


 偽装婚約なのか。


「ただ売り上げ、集客ともにわずかながら落ちています」


「そうか、このイベントもそろそろ終わりか。またリサーチが必要だな」


 この人たち広告代理店かなんかのイベンターなのかな。


「次は、ループものがくるのではないかという調査報告です」


「なんだと。それもう終わったんじゃないのか!?」


「いえ、ループがループしているみたいで。なかなかハズレがないと好評のようです」


「そうか。まあループイベントはとりたてて我々にできることがないな」


「そうですね。なんでもない日常を繰り返してもらいましょう」


 いや、ループってそういうことじゃないだろう。

 それがループなら俺、あっちで何千回ループしたかわからんよ。


 スーツの女とその部下はぶつぶつ言いながらイベント会場をあとにした。


 祭りのテンションで、「10秒だけ握力が10倍になるブレスレット」を購入してしまった。

 雑誌の裏表紙の通販広告を思い出すなあ。


 あ、さっきの教官みたいな人、なんかガイダンスをしてくれた風間さんでは。


 急に思い出した。

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