001 俺TUEEEは違法です。
「ようこそ異世界市へ!」
「え、ああ……」
あれ、なんなんだろ、これ。市役所だよね。
えーっと、たしか仕事から帰って、風呂入って、スマホいじってて。
異世界? どこが? どのへんが?
「それではあらためまして。ザキさん。志望動機はスローライフ、ですか?」
中村と名乗る男は、まるでハローワークの窓口のような感じで俺の書類らしきものに目を通して値踏みしてくる。
ザキというのは小学校のときのあだ名だ。あの頃は即死の意味でからかわれて嫌だった思い出もあるが、結局、ゲームやらSNSでのアカウント名として長らく使っていた。
「仕事に追われる毎日で、自分の時間がなかなかもてない、そんな感じですか?」
「いえ、まあ、まあ……それなりに」
「最近、多いんですよ。スローライフ。でもほんとにスローしてる人少ないんですよ。みなさんご隠居するお年じゃないですからね、結局、いろいろやりたくなるんです」
「そっか、転生して若くなっているんですね?!」
そうだ、自分はいったいどんな姿に転生したんだろう。
「すみません、ご年齢のほうは自己申告で。われわれは把握してないんですよ」
自己申告というのはなにかここにくる前にスマホで入力したやつらしい。
正直に35歳と書いたが。18禁ゲームだったら困るし。
「いちおう確認してみます?」
中村はそう言って鏡を取り出して俺に向ける。
なんのことはない、きわめてモブみたいな冴えない顔、輝きのないおっさんの顔。
なにこれ、俺じゃん。
だがよく見ると金髪だ。一度も髪なんて染めたことなかったのに。
「生まれ変わったわけじゃないんですね」
「生まれ変われるか、やり直せるか、それはあなた次第です」
中村はドヤ顔だ。
なんか、むかつく。
「なんか思ったより・・」
言いかけたところで、中村はシーッと指で口をふさぐ。
「わかっています。らしくない。それについては申し訳ありません。サービスは適宜改善させていただきます。しかし、なんやかんやで、あなた次第なんです。われわれはザキさんのやりたいこと、できる限りサポートさせていただきます」
〈ザキ〉さん。IDだかアカウントだかで入力した名前。いつも使っているやつだから、問題ないが、実際に他人から呼ばれると、気味が悪い。
「とはいえ、できればまずは冒険、してほしいんですよね。スローライフ、あとからでもできますし」
「冒険っていうお年頃じゃないんですけどね」
「人生いつまでも冒険ですよ、やるっきゃナイト!」
中村はサムズアップした。うざいな。
「あ、それからザキさん。最近、チート屋っていうのが流行っていまして」
「チート屋?」
「ええ。チートスキルが使えるようになる古代魔法系のアイテムを配っている輩です」
「へえ。そりゃ神様ですね」
「いえいえ、一応、違法になってます。なにしろチート能力を身につけた冒険者の犯罪が最近続発しているんです。その能力を使って世界を救おうなんて人は滅多にいなくて。で、いま取り締まり強化中なんです」
「悪用する人ばかりということですか」
「チート屋に会ったら警察に通報してくださいね。転入したての人が狙われやすいんですよ」
「はい」
「あと、チートスキルには決して手を出さないでください。違法ですから、ムショ行きになりますよ」
そうか、俺TUEEは違法なのか。いろいろ常識が覆されるな。
常識ってなに?




