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ざんねんな異世界の冒険者たち  作者: 無銘、影虎
1章 ざんねんな異世界 編
22/72

020 ざんねんな必殺技

 ゲートの向こうは、王の謁見の間といった風情の広い空間だった。

 左右に檻があり、人がたくさん収容されているのがすぐに目に入った。

 どうやら迷宮の試練に失敗してとばされる拷問部屋と呼ばれるところはここだったようだ。

 かなり多い。捜索隊、救助隊のメンバー全員無事ということか。

 彼らはハルカたちの姿を認めると、歓声を上げた。賞賛の嵐だ。


「よかった、みなさん無事なようですね」

 ミサモは人の姿に戻って歓声に応えるように手を振っている。

「いや、お前のせいでみんな捕まっとるんやろ」

「それはそれ。これはこれです。かわいいは正義であり、罪なんです」

「ポジティブでええなー。そやけど、あれ倒さんことには、意味ないんやで?」

 ハルカはぶるっていた。

 目の前にはまさしく玉座がある。そこに座るのはまたガイコツだ。しかも巨人と形容してもいいほどの。鎧に身を包み、巨大なバトル・アックスを傍に置いたまま、肩肘をつく格好でこちらの様子を不気味にうかがている。


「フィーナ、これいけんのん?」

「わかりません!」


「ネコよ、じぶん戦えんの?」

「私はかわいいだけです!」

「冒険出てくんな!」

 そしてほぼ初心者の自分。


「勇者、なんか作戦ない? あの檻の連中出せないかな?」

「あれも呪いだろう。かけた張本人を倒さなきゃ無理だな。しかし、あんなのは以前来た時はいなかった。初見だから様子見ながら攻略するしかないな」

「あれは勇者さんに呪いをかけたガイコツ魔術師と雰囲気が似ています。おそらくアンデットではありません」

「なに、そうなのか」

「ゴーレム、魔法生物の一種ではないかと」

「そういえば今回はぜんぶスパルトイだったな。高位の魔術師でも潜り込んでいるのか? しかし、それにしても高度だ。モンスターならかなりの知性と魔力をもっているはずだ」

 勇者はぶつぶつと言っている。スパルトイも分類としては魔法生物だ。動物の骨の一部に魔力を使ってつくりあげたゴーレムだ。


「なあ、やばいんか?」

「いや、いずれにしろ、あいつがゴーレムならスパルトイのように動力源であるコアを破壊すればいけるぞ」

「コア? どこにあんの?」

「見えるところにはないから、おそらく鎧に覆われている部分だろう。場所がわかればピンポイントで鎧を破壊するんだが」

「ぜんぶ破壊したらええんやないか」

「どれだけ時間がかかると思う? その前に力尽きるわ。それに向こうが待っててくれるわけないだろ」


 話しているうちに巨人ガイコツは武器をとり、ゆっくりと立ち上がる。動きは遅い。だが、その大きさ、重量にものすごい威圧感を感じる。

 同時に、玉座の裏からスパルトイがぞろぞろと現れた。

「なんてこった。厄介だな」

 勇者はつぶやく。


「もう考えてる暇はない!! いくぞ!!」


 ハルカは叫んだ――。


 その瞬間、視界が歪みだし、景色が消えた――。



 ※  ※  ※


 みんなの姿が消えた。

 敵の姿も消えた。 

 というか、何もない。地面も天井すらも。


「あれ?」


 ハルカはうろたえた。

 あたりを見回してみると、少し離れたところに人がいるのが見えた。


「よく来たな。赤朱鷺色の髪の乙女よ。〈魔眼〉を持つ者よ――」

 黒いマントに黒いフードの、声からする印象は男。玉座のようなものに座って片肘をついている。


 いかにも、悪役!

 ハルカは武器を構えて臨戦体制に入る。


「くっくっく、我はこの世で最強の魔道の使い手。やめておくがよい――」


「いったるーー!!」

 ハルカは先制攻撃とばかりにつっこむが、障壁のようなものにぶつかり、よろけて尻をついた。


「くっくっく、待てと言ってるだろうが……」

 男は繰り返す。


「ちくしょうっ、ヴァーストッ!……」

 ハルカが魔力を込めた途端、何かにはじき飛ばされるた。


「まあまあ、ちょっと待って。とりあえず聞いて」

 男は急に砕けた口調でいう。


「何を聞けっちゅうんや。っていうか、お前誰やねん?」


「我は創世神ゲームマスター。この世に魔法を伝え、この世の理をつくり、国々をつくった。いわばデウス!!!」

 男はまた芝居がかった口調になる。福山潤か。

 よく見るとアニメに出てくる主人公のような素顔だ。かえってモブっぽい。


「お前に問おう、なぜこの世界にきた?」


「ネットでや!」


「いや、理由を聞いている」


「しらんがな」


「思い出せ。貴様は自分自身を、世界を〈否定〉したはずだ」


「え?」


 もしかして、こいつは自分がここにきた理由を知っているのだろうか。

 たしかに高校時代よりも気楽になったとはいえ、社会から隔絶されているような感じはあった。たいして人生の目的もなかった。なにより、人との関係が、自分を知る人間がこれ以上増えることがないように思っていた。


 そんで、いっそ異世界でやり直せんかなーとは、たしかに思った。


「それそれ」

 神は心を読んだように言う。


「お前は世界が滅ぶとしたら、こちらとあちら、どちらを望む?」

 また二択か。これは罠だ。


「どっちも望まん!」

 本当に。いまこの世界をようやく受け入れられた。あちらではつくれなかった人間関係がある。かといって、あちらにも大切な人がいる。


「では世界を救うしかない。これはお前の使命フェイトだ……」

 男の口調はさらに芝居がかってきた。


「なんのことや?」


「魔眼を手に入れただろう」


「ああ、おかげさまでえらい迷惑や。人の裸が見えたり、幽霊が見えたり」


「あれ? そんな機能つけたっけな? ――まあ、いい。魔眼は二つで正しい力を発揮する。お前はなんで片方しかしていない」


「知るか! いっこしかなかったんや」


「そうか。トイレ用、寝室用、便利なように複数つくっておいたのだが、たしかによくなくしたな」


「メガネか!」


「まあ、ひとつでもなんとかなるだろう。ともかく。お前は運命に選ばれた。9女神の守護者ガーディアンの封印をとけ」


「やっぱり。お前が〈はじまりの魔導士〉なんやな? まだ生きとったんか?」

 1000年前の人物が、いま目の前にいる理屈はわからない。


「いや、お前が手にした僕の日記――『禁書』は僕の記憶データだ。それにアクセスできる魔眼をもった君だけが、この空間で、僕の思念と話ができる。簡単にいうとここにいるぼくはAIがつくった仮想の僕だ」


「わかりやすい解説、ありがとう。ほんでなんで、このタイミングで出てきたん?」


「いま、君の肉体の前にいる敵が女神の守護者ガーディアンだからさ。9体すべての封印を解くと大秘宝をプレゼントすることになっているが、基本的に女神の末裔にしか封印は解けない。しかも、あれは女神の血脈が途絶えた一族のものだ。はぐれ守護者ガーディアンさ。主人がいないから命令もきかない。もう、倒すしかないんだ」


「ちなみに大秘宝ってのはなんや? ワンピースか?」


「僕も最終巻まで読んでないからわからないね」


「ごまかすな」


「ふふ。ちょっと喋り過ぎたな。あのはぐれ守護者ガーディアンは強い。たぶん君は死んでしまう。ので、イージーモードにしてあげよう。今回だけ特別だ」


 〈はじまりの魔導士〉は手をかざす。魔力のオーラが拡散するのがわかる。


「これで弱体化したよ。あとはがんばってね。赤朱鷺色の髪の乙女」


「まっ待て! お前にはいろいろ聞きたいことがあんねん!!」


「うーん。じゃあ、いっこだけ」


 えっ!?いっこ!?

「あー、うーんと、ええっと」


「早くして」


「じゃ、じゃあっ、名前! なんていうん!?」


 男は、その言葉をまっていたかのように男は玉座から立ち上がり、マントをひるがえした。


「いいだろう……」

 男は顔の前に手をかざし、眼光鋭く、ハルカを凝視した。


「我が名は――!!」

 男がばっと両腕を広げる。ごくりと唾を飲まざるをえない。福山潤か。


 しかし、つぎの瞬間、動作がぴたりと止まる。


「あれ?  なんだっけ?」


 ――ブッツン――


 ※  ※  ※


「どうした!? ハルカ、しっかりしろっ!」

 勇者の声で現実に戻った。

 数秒も経っていないようだった。


「お、おうっ!」

 ハルカは気を取り直した。

 全員が戦闘体制に入る。スパルトイの数が多い、すぐに取り囲まれる。

 勇者はハルカに強化をかけまくる。ハルカはハルバードで薙ぎ払う。撃ち漏らしを炎のブレスで個別に対応する。いまできる唯一の連携パターンだ。

 フィーナは防御魔法に徹する。

 ミサモは半猫化けして、素早く賭けの回りながら敵の攻撃を分散させてくれている。


 だが、あきらかに攻撃の手が足りない。


「危ない!」

 ミサモがさけんだ。


 巨人ガイコツの斧が頭上から落ちてくる。

 ハルカたちはタイミングを測って左右に飛び退く。

 幸い太刀筋が遅い。集中できていればかわせる。


 檻の囚人たちから歓声があがる。


 だが、すぐにスパルトイの相手をしなくてはならない。

 その後同じような流れが続いた。単純な攻撃でパターンがわかったので対処できているが、防戦一方だ。攻勢に転じなければ、いつかやられる。


 その時、ハルカは小指をなにかの角にぶつけた。めっちゃ痛い。

 そして、女神のギフトであるGPが割れる音がした。

 これでもう次のダメージは直接肉体的の損壊につながる。

 が、初心者なので、もともとあてにはしていない。


 ――コアを見つければ勝機がある。

 ハルカは心で復唱してみる。衝撃波を繰り返し、考える時間をつくる。


 鎧の下?


「わかった!」


 ハルカは巨人ガイコツのほうを向き直り、その間にいるスパルトイに槍先をむけて突っ込んだ。


「どりゃぁぁーーーーー!」


「ハルカっどうした!」

 勇者は慌ててブレスで援護する。


 ハルバードの突きで三体が重なって押し出される。巨人ガイコツに近づいたところで、ハルカは眼帯を外して注目した。ピンク色の眼光が輝きを放つ。


「阿倍野さん!」

 フィーナはハルカの無防備な背後に防壁をつくり直す。


「そうか、そういうことか!」

 勇者にも意図がわかった。


「見えた首や! 」


 鎧の下に隠された臓器のような鉱物のような鈍い光る物体。コアに違いない。


「よし、よくやった! 装甲を破壊する。ハルカたちは時間を稼げ!」


 勇者はブレスを集中的に鎧の首元部分に放ちはじめた。

 巨人ガイコツはターゲットをチビドラに切り替えた。

 勇者はそれをかわしながらありったけのファイアブレスを打ち込んでいく。


 ハルカはスパルトイの相手に戻るべく振り返った。

 だが、ハルバードは投げ捨ててしまう。ガランと重量感のある金属の音が響く。


「なにしてるの阿倍野さん!?」


 ハルカは左の手首にあるブレスレットを右手で掴みながら、左の手のひらを正面に広げ、魔力を集中した。

 すると左の手のひらから魔力が放電するように宙に稲光が走りだす。


「フィニッシュや。見とけ」


 ニヤリと笑うと、ハルカの周正面にに魔法陣があらわれる。

 ハルカはそこに走り込んで飛び込んだ。


 ふたたび姿を現わしたハルカは黒いバニースーツに黒マント、二本の刀を腰の左右に差していた。

 伝説の勇者作・狂気のSS装備コスプレ。


 ハルカは瞬時に一刀を鞘から抜き払うと、猛然とオートマタを斬り捨て始めた。

 ひとつ、ふたつ、みっつ――すべて一太刀。切り捨てるたびにハルカの全神経は高揚する。


 そして太刀を左に持ち替え、右手に魔力を込めてゆく。

 衝撃波は装備補正で超強力な一撃となる。

「くらえっ! ヴァァァーーーストッストリイィーームッ!!」

 のこり十数体がほんの一瞬で殲滅された。


 どこかで聞いたような技名だがとくに意味はない。戦闘訓練で大声を出すと力を乗せやすいいう話になって以来、渾身の衝撃波はその名で放たれる。ハルカはテンションがマックスになるとどんな攻撃でもそう呼んだものだが。


 同時に、金属が割れる高い音が響いた。ガイコツの装甲が砕け、落下していく。

「やったぞ、ハルカ!」

 コアが剥き出しになっている。


 ハルカは、ゆっくりとガイコツに近づく。

 勇者がまだ牽制の攻撃を続けているものの、ガイコツはハルカに焦点をきりかえた。

 そして、ゆっくりと大剣を振り上げる動作に入った。


「いったる、いったる……」

 ハルカは不気味な声で繰り返しつぶやいている。もう一本の刀も抜き払った。

 抜いたばかりだが血振りの所作をする。

 目には狂気に似たものがゆらめいている。

 二刀の切先が光る。


「滅びろぉぉっっ!」


 そう叫んだかと思うと、二刀をクロスして重心を落とした。

 制御できないほどの力が溢れ出す(※)

 紅蓮の炎が吹き出し、双刀を包み込む(※)


「なっ、ハルカっ、まさか!」

 勇者がなにかに気づいた。


「超・弾・道ッ!!!!」

 ハルカは叫ぶ。


 同時に大地が振動し、足元から石の破片が舞い上がる(※)。


「やめろ、それ以上はーーー!!!」


 ハルカは、地面を蹴り舞い上がった。

 ガイコツの巨体も超える大跳躍(※)

 クロス切り、一閃。


「そうーーーーえーーーんーーーーざーーーーん!!!!!」


 刃が確実にコアを砕き、そのまま骨を砕いた。

 ガイコツの首が、飛んだ。


 ゆっくりと、回転しながらしゃれこうべの孔から光が消える。

 ハルカはマントを翻しながら着地。立ち上がると同時に背後でラスボスが大爆発を起こした(※)。




 ※一部脳内演出を含みます。


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