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ざんねんな異世界の冒険者たち  作者: 日向小次郎影虎
1章 ざんねんな異世界 編
21/70

019 ざんねんな黒幕

 扉のむこうには人がいた。


「人間!?」

「わっわっわわわ!……脅かさないでください。タワーが崩れちゃう」

 そこにはピンク色のローブをまとった黒髪ハーフツインテールの女性と、テーブル、そしてその上にシャンパンタワーがあった。

「あなた、ミサモさん!?」

 フィーナはその姿を見るだに言った。

「はっはい!」

 どうやら最初に行方不明になった人物らしい。

「無事やったんか。よかった」

「もうひと月近くになりますよ。なにをしていたんですか?」

「ら、ラスボスが怖くて、くつろいでましたっ」

「くつろいでた?」

「そ、そうです。ここ、トイレも冷蔵庫もキッチンもあって」

「こんな部屋、以前はなかったようだが」

 勇者がいう。

「攻略したとかいうてたのに、知らんのか」

「転移ゲートが多すぎて完全踏破はしていなかったようだな。それにしても・・・」

 一行は部屋を見渡す。豪奢な貴族の部屋のようだった。寝室もあるが、クイーンサイズ、いやダブルベッドか。

「なんやねんここ、まるで・・・」

「ラブホだな」

 言い淀んだハルカを尻目に勇者ははっきりと言った。

「ちょっといかがわしいですけど、快適でしたよ」

 ミサモが呑気にいう。

「あーあ。助けにくるんやなかったわ」

「そんな、もう限界だったんです!! ハモンセラーノもモッツァレラチーズも、キャビアもクラッカーも鶏肉のパテドカンパーニュも、ボローニャソーセージも、赤ワインも、ぜんぶっ、ぜんぶなくなって……しまっ、た、んですっ。うっううう……」

「ゴォーーージャァーーースッ!」

「シャンパンはまだ残ってますけど」

「ラーグジュアリーーーーーーー!!」

 ハルカはメタルバンドのボーカルのようにブチギレて、シャンパンタワーに思いっきり蹴りを入れた。


「とりあえず、私たちも少し休憩しましょう」

 ハルカは椅子に腰掛けると、朝ギルドから支給されたおにぎりを出してたべはじめた。

「いいな」

 ミサモはまさしく指をくわえて見ている。

「やらん」

「私のあげます。食欲ないんで」

 フィーナがおにぎり差し出しながらミサモに話しかける。

「あなた以前、市役所でお会いしましたよね」

「はい? そうでしたっけ?」

 どうやらミサモも転入者のようだった。

「聖女は異世界人は名乗れない職業クラスだと思いますけど。そもそも〈私はアイドルになる〉って言ってて、冒険には一度も行かなかったような気がしたのですが。印象が強かったのでよく覚えています」

「あ、そうですか、よく覚えてないです。あははは」

 なにかばつの悪そうな様子だ。


「のわっ!」

 いきなり、ハルカがのたうちまわった。

「どうしたおかかが腐っていたか!?」

「目がーーーーーっ!」

「ここでかっ!」

「大丈夫ですか!?」

 ミサモが駆け寄る。

「ミサモさんダメっ!」

 声につられてハルカはフィーナを見てしまった。

 裸だ。スッポンポンだ。

三つ編みおさげメガネが、スタイルいいのは反則だ。

「ぎゃーーーーあ」

 ふたりは同時に叫んだ。


「どうしたんですか、しっかりしてください」

 ミサモはハルカの肩をつかみ、ゆすっている。

 ハルカは正面からそれを見てしまう。

「うわあああ、!」

 あわてて視線を落とす。落としたら股間だった。当たり前だ。

 ハルカは絶句した。


「阿倍野さん、エロ眼、エロ眼なんですね? 早く眼帯を!」

 フィーナは後ろを向いて自身を抱き抱えながらいう。

「そっそや」

 ハルカは右目を隠しながらポケットから眼帯を手繰り寄せる。

 やっとのことで結び終えると、少し落ち着いた。


「いったいもう、なんなんです?」

 ミサモはわけがわからず、問いかけてくるが、答えられない。

「いや、目が調子悪くてな」

「ピンクに光ってましたよ。目。エロ眼ってなんですか?」

「いやいや――そんなことより、あんた、人間ちゃうの?」

「え?」

「阿倍野さん、どういうこと!?」

「いや、尻尾が見えたんで。獣人というやつ?」


「いやですっあんな〈ノケモノ〉といっしょにしないでください。私は正真正銘の猫です。猫の頂点、猫の王です」

「なにが違うん?」

「亜人ではなく、妖精ケットシーという、というのをきいたことがありますが」

「その通りです!」

「せやからなにが違うん? ていうか猫耳ないやん?」

「そういう耳と尻尾だけが猫のアイデンティティみたいな、語尾が〈にゃ〉ならいいみたいな考え方、死ねばいいのに」

 そういうと、いつの間にかミサモの頭には猫耳が現れている。

「獣度はいくらでも変えられます」

 手が猫パンチになり、猫目になる。さらに体毛が現れるとダウンサイズしていき、黒猫になった。白靴下のハチワレ。

「おお、すごいっ」

 チビドラが拍手している。

「いかがですか? かわいくてキュン死しそうでしょう?」

「自分で言ってくるんやな」

 ハルカはかわいいと思ったが、ムカつきが優っていた。


「ちょっとまってください。あなた人間で転入したんじゃなかったの?」

 フィーナがとんでもないことに気づいたようだ。

「私もあとで気づいたんです。猫になれるって」

「そんな。そんなの聞いたことないわ。帰ったら市役所に報告しなくちゃ。あなたもいっしょに来て」

「お断りします。めんどうなことになりそうなんで」

 フィーナはミサモを無言で睨みつけている。


 しかし、いまはそれどころじゃない。

「ほんまは聖女じゃないんや?」

「いま人間界で聖女ブームだと聞きまして。私よりかわいいものってないと思うんですよ。なので聖女業界でも一番になって、総合一位であることを確認しようと思いまして。実際、猫要素消しても圧勝だと思うんです。かわいくてごめんなさい」

「やっぱり助けなくてよかったんちゃう」

「そんなことありません。美少女を悪の手から救出できるなんてめったにない栄誉ですよ」

「はあ……。ところで、あんたはなんで一人で迷宮に入ったん? ほんまは聖女でもなければ冒険者でもないんやろ?」

「そ、それが、迷子に、じゃなくて、この奥にいるラスボスに捕まりまして」

 明らかにキョドっている。嘘を用意していなかったようだ。

 三人全員が不審の目を向ける。

「正直に言わないなら、助けない!」

 ハルカは高らかに宣言した。


「す、すみません!」


 化け猫が言うには、迷宮に捉えられたことにして、どれくらい救助にくるか試したかったのだそうだ。つまり自作自演だ。


「遊びでやったんか! なんちゅうやっちゃ! 死人が出たらどうすんのや!」

「ち、ちがうです。この迷宮、すでにクリアされていてモンスターもいませんでした」

「そうだな。けっこう前だが俺がクリアしている。モンスターが棲みつくにしては早すぎるな」

 勇者がいう。

「そうなんです。だから、迷宮の仕掛けをいじって、ここで優雅に救出を待っていたんです」

「仕掛けって」

「恋愛心理アンケートです。私はただ愛されるだけではなく、リサーチもかかさない勉強熱心なのです」

「お前やったんかー!」

「すみませんすみません。で、でも、アンケートですから、どれを通ってもいいんです」

「そうやったな、びびらせやがって」

「でも、そしたら救助隊や捜索隊はなんで失敗したのでしょう。まさかっ、ラスボスにやられた!?」

 フィーナが最悪の事態に青ざめた。

「いえ、みなさん不正解ルームです。答えない場合は不正解扱いになっています。あと、2問目だけ不正解があって、転送されるようになっています」

「全員、不正解だったと……?」

「はい。答えを揃えて通ったみたいですが、愚かなことです」

「2問目……ほんまにふざけとるな」

 アルパカを選んでいたら、ハルカたちも牢獄行きだったということだ。


「私もリサーチが済んだらみなさんを解放するつもりだったんですよ。でも知らない間に最奥の回廊にあのラスボスが鎮座していたんです。だから、ちらっと見て引き返しました。でも脱出しようにもにあちこちにスパルトイが出現するようになっていて。もうくつろぐしかないじゃないですか!」

「あのなー」

「ハルカ、まぁいいじゃないか。みんな無事のようだし、全部がぜんぶこの子のせいじゃないさ」

「全部やろ。そんでお前犬派やろ」

「いや、自分がなるのと愛でるのでは違う」

「知らん」

「しかしラスボスは俺が倒しているから、この先になにかいるならそれは裏ボスだな。どんなやつだ?」

「ちらっと見ましたが、鎧をきた巨大ガイコツです。この部屋にいる限り安全ですが、出ることもできません」

 どちらにしろ裏ボスを倒すしかないようだ。

 化け猫によると不正解ルームはラグジュアリーではない単なる檻のようだから、早く救出しなくてはならない。


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