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ざんねんな異世界の冒険者たち  作者: 無銘、影虎
1章 ざんねんな異世界 編
12/72

011 ざんねんなランクアップ

 それから一週間、いろいろなことがわかった。

 目の呪いはランダムで起きる。数分で治ることもあるが、1時間くらいおさまらない時もある。いずれにしろ一日に一度しか起きない。まったく起きない日もある。


 そして、初日は体のあちこちが痛かったので気づきにくかったが、呪いが発動するときにいわゆる予兆がある。

「右目が疼く」というあきらかに厨二病なやつだ。さらに発動中は何色かに光っているらしい。

 心の文字が出る時はイエローに光っているらしい。

 そしてさらにやっかいなのは、呪いの種類が、「魔道士の日記が読める(白く光る)」「人の心の声が文字で可視化される(黄色に光る)」以外にもあったことだ。


 その一 霊が見える。ブルーに光る。

 夜中に幽霊のようなものが見えた。これも目を隠したから消えたので呪いのせいだと思われた。怖すぎてその夜は眼帯をしたまま寝た。


 その二 裸が見える。ピンクに光る。

 その後2日はなにもなかったが、こんどは裸が見えるようになった。注目すると服が透けるのだった。あせった。お世話にきたシルバー人材のおばあさんを見て発覚した。


 その三 すごい近眼になる。瞳が消える。

 いきなりド近眼になって、部屋のなかでつまづいてしまった。これもなぜか目を隠すと通常通り見えた。


 これでいまのところ計5種類だ。もっとあるかもしれない。

 心の文字は2回目の発生があった。街に出られたので実験してみたが、こちらが意識しないと文字は現れないようだった。複数人同時も見れない。つまり通行人その他大勢の心の文字があらわれるわけじゃない。そんなことになったら、視界がぐちゃぐちゃで落ち着かないだけだからある意味よかった。


 ついでに『禁書』を開いたが、読めないままだった。そのうち読めるパターンがくるかもしれないが、まったく法則がわからないので、待つしかなかった。

 そして、ハルカは目が疼き出したら眼帯をするようにした。とりあえず本が読める時以外はハズレだ。


 そんな報告(『禁書』が読める件だけは秘密にしている)をしたら、フィーナが医療用じゃない黒い眼帯を持ってきてくれた。さすが異世界。


 マリンにもこのことは話した。

 案の定ゲラゲラと笑われた。

「ハルカす、ウケる!」

「シャレにならんねんで・・・」

 けっこうしんどかったが、笑われて良かった気もする。

 ちなみにマリンも同様に数日寝たきりだったそうだ。

「せっかく強くなれたのに、いちいちあんなんになってたら使えへんな」

「それな。マジしんどい」


 とりあえずふたりで話し合ったのは、やはり地道に強くなることだった。ハルカは漠然とだが目的ができたし、マリンもレベル上げは嫌いだが、遊びにいくならレベル上げとは思わないからいいと言ってくれた。要するにただの考え方だ。

「ところで、レベルってどうやってわかるん? ステータス画面とかないよな?」

「ないよう。ゲームじゃないんだから」

「この世界ある意味ブレへんな」

「冒険者ギルドでランクがもらえるらしいけど」

「ああ、実績による実力認定というやつか」

 なら当然、二人は最下層ランクだろう。結局地道にクエストをこなさないとなのか。

 とりあえずきちんと初心者を始めるためにいったんギルドでレクチャーしてもらうことにした。

 例の装備は危険なので家に置いておこう。

 ハルカの髪型はマリンがハーフアップに整えてくれた。可愛くて気に入った。

 マリンは美容師の資格をとりたいらしい。


 ※  ※  ※


 市役所2階冒険者ギルド。

「ようルーキー。懲りずにまたやってきたか」

 ギルドマスター田中のセリフはやはり言わされているようにしか聞こえない。市役所のマニュアルなのか。

「ああ、あれくらいで参っちまうオレじゃねーぜっ」

 ハルカも素人ながらにエチュードした。

「は? なんかあったのか?」

「なんで合わせてやったのに、置き去りにすんねん!」


 ハルカはまた一から冒険者をはじめてみる旨を伝えた。

「ちょっと待ってくれ。お前らこないだ、冒険出てるよな」

「え? なんで知ってんの」

「王都でクエスト達成が報告されると、こっちの端末に記録が共有されるんだ」

「そうなんか。フィーナがやってくれたんかな」

「なら、ここでジョブポイントや、ランクの手続きをするんだ」

「そうやったんか」

 マリンのほうを向くと首を振る。あいかわらず案内が悪い。


「ちょい待って。ほんだら毎回ここにこなあかんの?」

「そうだ。報告と換金は王都で、ステータス手続きはギルドだ。覚えておけ」

「え? 換金?」

「ああ、ここで報酬分のメダルを渡すので王都に行って現金に換えてくるんだ」

「は? なんやねんパチンコか」

「しーっ声が大きい。みんな知ってるが公然の秘密だ」

「パチンコか!!!」


 しかし、この間の報酬はフィーナからもう受け取っている。田中によると立て替えた記録も残っていたようだ。たしかに教えられてもわざわざ受け取りに行くのはしぶっただろう。


「ジョブポイントも入ってるぞ。それぞれ200だ」

「いらんわ。ていうか賢者になったがなにもないやん」

「んー賢者はな。賢いだけだからなー」

「ああ、自分らよりもよっぽど賢い気がしてる」

「ほかの職業なら講習が受けられるぞ。魔法使いなら魔法を覚える授業が週3で受けられる」

「ジョブポイント、まさかの入学金やったかー」

「そうだな。職業には自称クラスがあるから気をつけろよ。このエルフのお嬢ちゃんの「傭兵」も自称クラスだ。もちろん、村人、勇者もそうだ。あと、空間プロデューサー、予言者とかあたりもだ」

「毎回毎回思うんやけど先に言っとけ! それと自称クラスを用意すんな!」

「すまんな。勇者とかそれらしいの入れておかないと市民からクレームがくるらしいんだ」

「いかれた市民やのう!」


「あ、それはそうと、ランクがけっこう上がってるぞ。いきなりすごいな」

「やっぱ高難易度ダンジョンやったからか。どれくらいになってるん?」

「『駆け出し』だ」

「えっ? AとかBとか金とか銀とかじゃないんやな。しかもそれ一番下とちゃうん?」

「いや、いちばん下は『ヒヨッコ』だ」

「役所のセンスださっ。『駆け出し』は何番目や?」

「すまん。考えたのは俺だ。『駆け出し』は下から10番目だ」

「その間になにが8個あんねん、いや、ええ。別に知りたくなかった」

「もう少しで『あいつみどころあるな』になれるぞ」

「オッチャンの感想やろ」


 不毛な手続きが終わり、あらためて冒険の相談をする。

「手っ取り早く強くなりたいなら、素人ふたりはお勧めできん。強い奴らについていけ。経験は場数がいちばんだが、希少な経験も人を大きく成長させる。プライスレスだ」

「知らんやつとつるむのいややなー」

「まあ、4、5人くらいだとな。奇数だとボッチ生まれやすいしな」

「パーティーでもバンドでも修学旅行の班でもいっしょなんかな」

「いまちょうど『駆け出し』でも受注できて、人数も大所帯で行くクエストがあるぞ。大勢だから端っこでボッチになってても目立たないからおすすめだぞ」

「早く抜けて帰りたいパーティーやな。なんの集まりか知らんけど」

「捜索隊のクエストさ。このあいだ北の迷宮で行方不明になった冒険者がいて、警察で組織した救助隊も戻らなくて、王都主導で大規模な救助隊の捜索隊を募集することになったんだ」

「救助隊の捜索隊なら、最初の冒険者は救わんのかい」

「望みは薄いといわれている」


「マリン、どうする?」

「あーし探し物が見つかったことない。こないだもワイヤレスイヤフォン片方なくした」

「まあ、探すのは誰かがやるからテキトーでええやろ。どうせウチらついでや」

「ならオケ」

 オッケーマークが出た。

「よし、登録しておいてやる。捜索は3日後だ」

 オッチャンは端末をいじっている。

「え? あさってバイト」

「3日後はしあさってや」

「ならオケ」

「あとイヤフォン耳に刺さっとるで」

「あーほんとだっ。ハルカすサンクス」


 救助隊捜索隊までにすこし鍛えておこうと思い、簡単なクエストを所望していたら、うしろで声がした。

「あ、ちょーどいいところに」

 フィーナだ。それとチビドラゴン(元勇者)。

「あーチビドラ、かわいいー」

 マリンはチビドラをキャッチすると、猫のように撫ではじめた。

「あ、千葉さん、やめたほうがいいですよ。それ、あの男ですよ」

「たしかに。やめとき、マリン」

「えーでももー人間じゃないでしょ」

「たしかに。もうただの動物やろ。ええやないかフィーナ」

「あの男に胸を押し付けてるんですよ」

「たしかに。悪いこと言わんやめとき、マリン。」

「ぶー」

「たしかに。マリンがええゆうてるんやから、カタイこといいなや」

「それ、姿が変わってるだけでいろいろいとアレのまんまなんですよ」

「なんでわかるん?」

「しゃべったからですね。そのことを隠しつつ、人畜無害な獣を装っていましたが、私のお風呂を覗きました。あと下着もいくつか見当たりません」

「下着の件は濡れ衣だ!」

 勇者はあわてて訂正する。

「あ、しゃべった、キッショッ」

 マリンは手を離した。

「やーかわいくない声!」

 マリンは怒った。

「しまった、かわいい声ならよかったのか」

 ドラゴンがどうやって人語を発声するのかはわからないが、とにかくあの声だ。


「それで、どないしたん? ウチら探してたような言い方やったけど」

 フィーナはいったんハルカの目の色を確認しているようだった。

「最近はなんも見えてへんで」

 あれ以来、フィーナはあまりうちに顔を出さなくなった。

「そうですか。あ、そうそう。コレなんですけど、阿倍野さんたちに用あるみたいなんです」

「ウチらに?」

「そうだ。きみに頼みがある」

 声だけ聞くと渋くていい声だ。チビドラの姿は可愛い、でも中身はあれだ。

「総合するとマリンの言うとおりキモいな」

「まあ、言われなれてはいるからなんでもないが。いや、やっぱウソ。傷ついた」

「ギャルがキモいゆうんは挨拶みたいなもんやから気にすんな」

「この世で最低な挨拶だな」

「そんでなんや頼みって」

「呪いをといてほしい」

「ガイコツ倒せっちゅうことやろ。無理や。すまんな」

「チョーソッコー断られてる。マジうける」

 マリンがゲラゲラしだした。


「正式にクエスト出したんですが、7日たっても誰も受注しなかったんです」

 フィーナが補足する。

「なんでや?」

「かなり高額な褒賞金に設定したんですが、たぶん理由は、あの骸骨の魔術師の情報がほとんどないことかと。居場所もわかりませんし、伝説の勇者が負けたことが広まってしまいましたし。あと勇者さんに人望がないことと、最近の冒険者さんが危険を嫌がるからでしょう」

「危険を冒すと書いて冒険なんやけど」

「ハルカすってじつは賢いよね」

「賢者やからな。なんでも聞いてや」


「あっぱれ冒険者の鑑! ではよろしく頼む」

「断る。無理や。すまんな」

「ちょ、ま、俺も戦闘手伝うし、魔法はこの姿でも使えるし、小さくてもドラゴンブレスあるし、SS装備も無償で譲るし」

「あのバニーか。あんなん装備したらかえって命縮まるわ」

「問題ないようカスタマイズしよう」

「なんでウチらやねん」

「一度は冒険した仲だろう」

 平行線のままのやりとりを続けていると、いつの間にかフィーナもいなくなっていた。

「逃げよった」

 とりあえずハルカが持っていない初期装備をプレゼントしてくれるというので、お試し同行で冒険に出るだけということで手を打った。

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