3.“わたし達”は書かれている
「いやさ、女神さんが、ウーパールーパーと野上を間違えたっていうからさ、何かウーパールーパーと間違えるものがないか調べてみようと思って“ウーパールーパー 間違える”で検索をかけてみたのよ」
それを聞いて、「なんでもかんでもネット検索で解決しようとするんじゃないわよ。頭が悪くなるわよ?」と女神。
「あんたには言われたくないわね」と矢吹は返す。
因みに、本当に“ネット検索に頼る所為で人間の頭が悪くなった”という研究結果はあるみたい。ただし、その反対に“頭が良くなった”という結果もあるので、要は使い方次第なのかもしれない。
「とにかく、それで検索をかけてみたらこの小説がヒットしてさ、なんとなくクリックして読んでみたのよ。そうしたら、どう考えてもわたし達のここでのやり取りが書かれてあるのよね。
このパソコンって異世界のネットにも繋がっているのでしょう?」
女神は鼻を高くして返す。
「もちろんよ、神の世界のパソコンを甘く見るんじゃないわよ」
「なら、わたし達を書いている世界のネットにも繋がっているのかもしれない」
それを聞いて「そんなバカな」と野上が言う。あまりに現実離れした話に呆れているようだった。そんな彼に矢吹はきつい視線を向ける。
「“バカ”とか言ってるけど、あんた、けっこー最初の方から変な発言しているわよね? 例えば、自分の名前。あんた、初めは分かっていなかったのじゃないの? マサなんとかって言ってなかったけ?」
「いや、そういやそんなことを言ったような気がしないでもないけどな。あるだろ、自分の名前をど忘れする事くらい」
「いや、フツー、なくない?」とそれを聞いて女神。
矢吹は真剣な顔で言う。
「それって、本当に忘れていたの? その時までは、あなたの名前は決定されていなかったから、そもそも“なかった”のじゃない?」
「なんだよそれ?」
「あんたの名前が初めて出て来るシーンで、軽いボケを地の文がやっているのよ。それにあなたはツッコミを入れていたじゃない」
そこで女神が言った。
「わたしは自分の名前を初めからちゃんと憶えているわよ? アネーラ・ホエデホエだもの」
それに矢吹は淡々と返す。
「それは作者が初めから考えていたからかもしれない。いえ、あのおっさんの神様が、あなたの名前を呼んでいたから、その時に作られたのかも」
「その前から覚えているわよ、自分の名前くらい。そういう記憶が残っているもの」
「その記憶だってその時に作られたのかもしれないでしょう?」
「いやいや、いくらなんでも、ないだろう?」とそれを聞いて野上が言った。
「あのね、多分、一番それが分かる立場にいるのが、あなたなのよ?」
「なんでだよ?」
「あなたが、何度か地の文にツッコミを入れているからよ」
「いや、確かに変な文字が頭の中に浮かんで来てはいるけどな」
そこで、女神…… アネーラというらしい彼女が「ちょっと待って」と言った。そして机の上に置いてあった、さっきの野上のステータスオープンの時の用紙を手に取ると「確か、書かれてあったのよね」などと呟きながら捲り始める。
「なにやってるんすか?」と野上が訊くと、その瞬間、「あった、あった」などと彼女は声を上げた。用紙を二人に見せながら彼女は続ける。
「このステータスの異能力の欄に、“時々、地の文が読める”って書かれてあるのよ。何のことか分からなかったけど、もしこの子の言う通りだったとしたら話が通じるわね」
「なんで体力測定と知力測定で、そんな事が分かるんすかね?」
「神の御業を舐めるんじゃないわよ!」
矢吹が言う。
「この小説の冒頭…… と言うか、前書きにこんな事が書かれているのよ。
『この作品は実験作です。特に期待はしないでください。“読者と作者が近い”という小説投稿サイトの特性を活かす為にはどうすれば良いかを考えて書き始めたのですが、それに関連してこの作品は気分で続きを書きます。なので、完成するかどうかも分かりません。と言うか、そもそも完成があるのかどうかすらも分かりません。
そのつもりで読んでいただけると助かります。』
これ、どういう意味だと思う?」
それを聞いて、アネーラは文が書かれている画面に目をやった。
「“百(難しい童話)”? なに、この変な作家名? どんな精神状態で考えたのかしら?」
ほっといていただけると助かります。
「いや、確かに頭おかしいけど、今はそっちじゃなくて、前書きを読んでよ。“気分で書く”、“完成があるかどうかも分からない”。これって、どういう意味だと思う?」
野上が言った。
「いや、そのまんまの意味なんじゃないのか? 書くかどうかは分からないって事だろう?」
アネーラが言う。
「小説って普通は完成させるもんなんじゃないの?」
「いや、そうとも限らないんですよ。と言うか、小説投稿サイトだと多いみたいですよ、投げっぱなしにしちゃうの。まぁ、素人が投稿しているんで。“エタる”とかって言われているらしいですが」
「エタる?」
「エターナル…… 永遠って意味ですね。未完だと、終わるはずがないから」
それを聞いて、矢吹が言う。腕を組みながら。
「もしも、この作品がそうなったら、わたし達はどうなるのかしら?」
「どうなるの?って、どうにもならないのじゃないか?」
「そう。どうにもならない。つまり、永遠に止まったまま…… 確り完了さえすれば、その作品は世界は続くでしょう。止まりはしないと思う」
「どうしてよ?」と、アネーラ。
「その作品の中で、“まだ世界は続く”と設定されているからよ。まぁ、世界が終わって終わりみたいな作品もあるけど滅多にないし。
でも、未完の作品にはその“世界が続く”という設定がないのよ。ただ、途中で止まっているだけ」
その矢吹の言葉に、ようやく野上もアネーラも深刻そうな表情を見せ始める。アネーラが口を開いた。
「早い話が、なんとかこの“百(難しい童話)”ってちょっとどうかしている作家名の作者に、この作品の続きを書かせないと、わたし達は永遠に止まったままになるって話ね?」
少し間を空けてから、「でも、どうやって?」と彼女は続ける。矢吹が返した。
「普通に考えれば、この作品にポイントが入るとかアクセス数が凄いとかなれば良いのじゃない? そうすれば、作者の書く気力も上がるでしょう」
「なるほど」と、アネーラ。
「じゃ、どうすればポイントが入るのよ?」
「普通は人気作品の傾向を真似るとかじゃないの?」とそれに矢吹。野上が続けた。
「男性向けは、男主人公が女にモッテモテってパターンが多いらしいな。しかも、女は奴隷だったり」
「は?」と、それに矢吹とアネーラ。
「そして、男主人公に逆らった女がとんでもなく酷い目に遭うってパターンも多いらしい。“ざまぁ系”とか言われているらしいが」
それを聞いて「いや、ないわー」と、また矢吹とアネーラは同時に言った。
アネーラが言う。
「あんたの奴隷にわたしらがなれって? で、さっきの復讐もされろって? 冗談じゃないわよ! 女神に脱がせてもらうのなんて、むしろご褒美でしょうが!
と言うか、そもそもフツーにドン引きよ。なに、その欲望の垂れ流しなストーリーは? そんなの書いたら性格悪いって軽蔑されるに決まっているじゃない。そんな話で人気出たってモチベーションは上がらないでしょ。どう考えても黒歴史じゃない」
矢吹が続ける。
「と言うか、そもそもあんたがいつ主人公になったのよ?」
「いや、オレは飽くまで一般的な話を言っただけで…… 」
「知ってるって時点で、キモイのよ!」
それからアネーラは腕を組んだ。何か考えているようだ。
「魔王倒しに行くとかって目的を作れば、盛り上がるのじゃない?」
「いや、そーいうのあまり人気がないみたいですよ?」と野上。
「まぁ、その魔王が女だったりしたら、また違うみたいですけど」
その彼の説明を聞いて、矢吹は呆れたような顔を見せる。
「それで、どうせその女魔王がボコボコにされるとか、エッチな目に遭ったりとかするのでしょう?」
「そりゃな」
「そこまで欲望に忠実だと、いっそ、清々しいわね……」
ところがそれを聞くと、何故かアネーラは嬉しそうに「ナーイス」などと言ってにたりと笑うのだった。
「なにがナイスなのよ?」と矢吹がツッコミを入れると、「おあつらえ向きなのがいるからに決まっているじゃない!」なんて彼女は応える。
「おあつらえ向き?」と野上。
「知り合いにいるのよ、女魔王」
「女神が女魔王と知り合いなの?」
「そうよ。隣に住んでるのよ。今呼び出すわね」
そう言って彼女はスマフォを手に取ると通話をし始めた。
「あ、イーデ? ちょっとあんたに用事ができちゃったんだけど、今から家に来てよ。何? もう夜遅いし、明日も仕事だから嫌だって? ざけんじゃないわよ! あんた、またすぐにそーやって働いている自慢をしてさ! わたしへの当てつけのつもり? 隣なんだから、ちょっとくらい大丈夫でしょーが! いいから、さっさと来なさい!」
なんか性質の悪い酔っぱらいが絡んでいるみたい。
どういった事がしたいのかはなんとなく分かってもらえたと思います。作中人物が自分達が作中キャラだと知っていて、しかもその小説が投稿されている投稿サイトを見られるという設定にしておくと、例えば“作中キャラと読者の掛け合い”なんて事も可能になるのですね。
面白いと思いませんか?
が、しかし、この発想には弱点があります。
人気のない僕みたいな底辺作家が書いても、どうせコメントが入らないから大して面白くならないのです! 実はアイデア自体は随分前に思い付いていたのですが、だから投稿していませんでした。
なので、「誰か人気があって、機転が利くタイプで実力のあるなろう作家さんが、似たような発想でやってくれたら良いのにな~」なんて思っていたりします。
誰かやってくれませんかね……
あ、盗作しろって事じゃないですからね。飽くまで、著作権が許す範囲内で真似していただければ、と。




