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1.奇をてらったタイトルで客目を引いてみる

 この作品は実験作です。特に期待はしないでください。“読者と作者が近い”という小説投稿サイトの特性を活かす為にはどうすれば良いかを考えて書き始めたのですが、それに関連してこの作品は気分で続きを書きます。なので、完成するかどうかも分かりません。と言うか、そもそも完成があるのかどうかすらも分かりません。

 そのつもりで読んでいただけると助かります。

 ――もしも、あなただったなら、一体、どんなシチュエーションに自分の身が置かれたなら、「異世界に転移した」と思うだろう?

 

 例えば、目の前に女神のような姿の女性がいて、足元には魔法陣のようなものが描かれており、居る場所が真っ黒で明らかに通常の空間ではなく、そして、そこにまで至った経緯がまったく記憶になかったのなら、

 「――ああ、そうか。自分は異世界に転移したのだな」

 と、思うだろうか?

 

 思わない?

 

 うん。

 そう。

 その通り。

 普通は思わない。

 だから彼も思わなかった。

 目の前に女神のような姿の女性がいて、足元には魔法陣のようなものが描かれており、居る場所が真っ黒で明らかに通常の空間ではなく、そして、そこにまで至った経緯がまったく記憶になかったのだが、彼は「異世界に転移した」とは思わずに、「これは夢だな」という結論を採用したのだった。

 「夢だな」とは思ったのだが、いやだからこそと言うべきかもしれないが、彼は何をすれば良いのか途方に暮れ、それで取り敢えず、目の前の女神のような姿をした女性をじっと凝視することにした。

 何故なら、その女神のような姿の女性は、機能性を無視しているとしか思えない露出度高めの白いフワッとした衣を身に纏っていて、その衣服はその豊満なバストを隠してはいたが、かなりきわどいぎりぎりのラインでその存在感を辛うじて封じているに過ぎなかったからだ。

 かなりの巨乳だ。

 じっと見ていれば、何かの拍子でもっと重要な部分が見えないとも限らない。と言うか、今でも実は横乳が見えていたのだけど。

 そこには彼の他にももう一人、彼の高校のクラスメートで中学の頃からの友達の矢吹かえでという女が高校のブレザー制服の姿でいて、戸惑った表情で辺りを不審そうにキョロキョロと見渡していたのだが、だから彼はそんなことはまったく気にしてはいられなかった。

 矢吹は常にやる気がなさそうな顔をした斜に構えた態度の性格にクセのある女で、顔もスタイルも中の下といった感じ。普段からあまり重要な女ではないが、この状況下では特に重要ではない。

 どうせ夢だし。

 目の前の巨乳の方が重要だ。

 目が覚めるまでに、もっとよくあの乳を観察しておかなくては。後学のためにも。

 しばらく観察し続けると、不意に軽く乳が揺れた。そして、それから、その女神のような女性はこんな言葉を発したのだった。

 

 「あなた達、食べられる?」

 

 はい?

 夢に整合性や理屈を求めてはいけないのは分かってはいたが、それにしてもその質問の意味は分からな過ぎた。

 首を傾げる。

 そこで彼は初めて女神の乳以外の部分をじっくりと観察した。

 女神は不機嫌そうな顔をしていた。ただし、怒っているというわけではなく、訝しげで“納得いかない”といった感じだ。

 女神の年齢は、もし仮に人間だったなら、少なくとも20代後半には思えた。髪は細い質の美しい金髪のロングで、充分に大人っぽいが、にもかかわらず、どこか幼い雰囲気も残していた。やや広めにおでこを出していて、目が大きくて、背もそんなに高くない所為かもしれない。その表情は小さな子供が駄々をこねているように見えなくもなかった。

 「食べられるというのは、どういう意味ですか?」

 ――性的な意味ですか?

 と、本当は彼は尋ねようとしたのだが、流石にそれは口に出来なかった。

 隣の矢吹がそれに続けて、「今から何かを食べろって話?」と尋ねた。性的な想像をしていたから、自分が食べられる話だと彼は思ってしまったのだが、むしろそう考える方が普通だろう。

 すると、女神はそんな事も分からないのかといったようないかにも彼らを馬鹿にした口調で、

 「あなた達自身が可食か?ってことよ。当たり前でしょう?」

 などと言った。

 流石に“当り前”だとは思えない。

 「身体のどっかの部位が、経口摂取に耐えられるほどの品質を持っているかどうか。

 あなた達の住んでいる地域なら、イナゴは佃煮にして食べられるし、カタツムリだって焼いて食べられるし、カミキリムシの幼虫は信じられないくらいに美味しいらしいわよ。そんな感じで、あなた達も食べられるのじゃない?」

 ……何故、例えがゲテモノ料理ばかりなのだろう?

 彼は表情を歪める。

 「――少なくとも、僕らは人間社会の常識では食べられることになってはいませんね」

 まさか、女神は人間を食うのだろうか?

 そう思いながら、彼はそう言った。

 鬼子母神は、人間の子供を食べていたらしいけど…… いや、そもそも彼女が女神であるとは限らないのだけど。

 そこで矢吹がこう訊いた。

 「いや、よく分からないのだけど、つまり、あなたはわたし達を食べようとしているの?」

 「そんな訳ないでしょーが! わたしは見ての通りの女神よ? 女神が人間を食う?」

 鬼子母神は食っていたみたいだけど、と彼は思う。

 「女神?」

 と、怪訝そうに矢吹が声を上げる。

 「女神ってあれでしょう? 人間を象皮病にするやつ」

 「違うわよ! なんで、“カボ・マンダラット”なのよ?」

 ――そんなマイナーな女神、誰が分かる?

 因みに、“カボ・マンダラット”とはヤドカリの姿をしていると言われるニューカレドニアの女神。水木しげるの絵で一部では有名…… かもなやつ。

 「そんなマイナーな女神じゃなくて、もっとメジャーな女神を言いなさいよ! ニンフルサグとか、オオゲツヒメとか、ジョカとか!」

 「いや、それメジャーですかね?」と彼はツッコミを入れた。矢吹が尋ねる。

 「で、その人を食べない女神様が、どうしてわたし達に“食べられる”なんて訊いて来るのよ?

 ……と言うか、そもそもここって何?」

 「ここは、わたしの部屋…… わたしの精神世界と物質空間が混ざり合った特殊異空間よ」

 辺りを見つつ、矢吹は言う。

 「精神世界? 黒いんだけど」

 彼が尋ねた。

 「で、どうして僕達が食べられるか?なんて訊いたんです?」

 すると、自称女神様は頭をポリポリとかきつつ応えた。

 「いやー だから珍しくミスっちゃったのかも、と思ってね」

 説明を受けても彼も矢吹も意味がまるで分からなかった。二人そろって首を傾げる。そのジェスチャーに答える代わりに、それから大きな乳を支えるように腕を組むと、自称女神様は右斜め後ろの方を振り返った。そこにはソファが置かれてあり、その目の前にはテレビ…… いや、パソコンだろう液晶ディスプレイが置かれてある。

 「最近、わたし、下界の食べ物に凝っているのよ。で、日本って食文化が多様で質もそれなりに高いでしょう? だからあれで日本の食べ物を検索していてさ、良さげな食べ物があったら供物として強制的に召喚していたのよね」

 「つまりは、盗んでいたのね」とそれに矢吹。

 「失礼ね。供物よ。女神なんだから」

 「相手はあんたの顔すら知らないでしょーが」

 「ふっ」と、それを聞いて女神は笑うと矢吹を指さしながら言った。

 「食い逃げは、現行犯じゃなければ罪にはならないのよ!」

 「確信犯ね」と矢吹。

 「開き直っている分、余計に性質が悪いな」と彼も続ける。

 「精神世界が黒いわけだわ」と、呆れた様子で矢吹が言った。

 「とにかく、しばらくそうして色々と食べていたのだけどさ、ちょっと飽きてきちゃってね。

 で、珍しいものが食べたくなって色々と探していたのよ。イナゴの佃煮とか、蜂の子とか」

 どうやら、さっきゲテモノ料理ばかりを例に挙げていたのはその所為だったらしい。

 「はじめは、ちょっとどうかな?と思っていたのだけど、意外にいけるのよ、そーいうのも。それで更に探していたら、“ウーパールーパーの姿焼き”ってのを見つけちゃったのよね。

 いやー、これがグロくってさ~ さすがにないわ~ なんて思っていたんだけど……」

 彼女はゆっくりと口を閉じて腕を組んで目も閉じ、妙な間の後で目を開いた。

 「“ないわ”と思ったら、逆になんかチャレンジしてみたくなっちゃってね。それで、まぁ、召喚してみることにしたわけよ!」

 何故、そうなる?

 二人は呆れていた。

 「破滅願望でもあるのかしらね? この女」と矢吹。

 「単に天邪鬼なんじゃない?」と彼。

 天邪鬼は元は天探女あめのさぐめという女神だとされているけども。

 「それでまぁ、魔方陣を描いて、いつも食べ物を召喚している要領で、ウーパールーパーを召喚したのだけれどさ」

 そう言って彼女は二人をじっと見る。矢吹が言った。

 「そうしたら、わたし達が召喚されてきたって訳ね」

 ため息をつく。

 「いい迷惑よ。これから学校に行くところだったのに……」

 ちょっと止まる。

 「……強制的に召喚されちゃったんだから、学校をサボっちゃっても不可抗力よね。仕方ないわよね?」

 と、それから誰に確認しているだか分からないがそう確認をした。なんだかちょっと嬉しそう。

 そしてそれを聞いて彼は思い出した。彼は登校の途中だったのだ。そう言えば、矢吹はブレザー制服を着ているし自分は学生服を着ていたりする。朝、「たるいわ~」とか思いながら彼は通学していたのだ。そして不意に光に包まれ、気が付いたらこの黒い世界にいたという訳である。彼の名前はマサツ……

 

 「その名前だけはやめろ~!」

 

 と、そこで唐突に彼は叫んだ。矢吹が尋ねる。

 「どうしたのよ、突然?」

 「いや、それがオレにもよく分からないんだけど、なんか危険なワードが聞こえた気がして……」

 そう言ってから彼は尋ねる。

 「ところで、オレの名前って何だっけ?」

 「は? 若年性認知症にでもなったの? 野上シンゴでしょう? 野上シンゴ」

 「ああ、そうだよな、そう。マサなんとかって名前じゃないよな?」

 怪訝そうな顔で矢吹は返す。

 「当たり前じゃない。本当に何を言っているの?」

 その時彼は、非常に奇妙な感覚を味わっていた。まるで自分自身も含めての、この世界の全てが嘘であるかのような。虚無。そしてそれはほんの始まりに過ぎなかったのだった。

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