(What you) The HELL SEE?
6:30の薄い光が差し込む立体駐車場の屋上で、俺は車を停めた。
誰も居ない。
隅のほうに。
バイトは今日もサボった。
早朝の陰影がなにかを分別している。
白いフェンスは、俺の身長の1.2倍の高さで、中途半端な意思による侵入を防いでいる。
白いフェンスは、その下を潜り抜けることも出来ない……二本のパイプが走っているために。
白いフェンスの、その先で、一羽の鳥が首を傾げていた。
俺はなにをしている?
舐めたマネだ。
見ると、バックミラーに自分の顔が映る。
向き合うべきは……
"You talking to me?"
最近、タクシードライバーという映画を見た。
以降、俺の頭の中には、ずっと色っぽいサックスが流れている。
ドライブをしているだけで恍惚を感じる。
していなくても、車中に居るだけで蕩ける。
周りを、ペケ字の、下半分ペケ字の鉄骨に塞がれて、そこに眩しい日差しがキて。
死んだぜ。
すべきことをせず、映画やアニメばかり見ている。
この世界の片隅で。
だが、駐車場に焼夷弾は落ちない。
時限爆弾も無い。
踏み外すことはない。
それと同時に、居場所も見当たらない。
宇宙を跨ぐカウボーイも居ない。
バックもトゥもフューチャーもない。
There's no way.
Let's go away.
車中から逃れれば、孤独に相応しいだけの自由が、眼下に広がっている。
ひたすら眠い。
およそ一か月後に向かうべき場所が見える。
今から下見に行くのも悪くはないが、しかし、躊躇われる。
行けば戻れなくなる。
最近は誰とも交信していない。
§§§
今日は聲の形という映画作品を見た。
視聴開始した直後、フーが流れ出したのには驚いた。
とーきんばいまいじぇーーねれぃしゅん。
『俺の時代について話してやる』って、別に聴きたくねぇぞ。
なにをイキがってる?
しかし、イジメは良くないね。
イジメはつくづく、やる方が悪いね。
そう思って偏見していると、登場人物の気持ちに寄り添えなくなるような作品である。
心を柔らかく抉る作品である。
どうやら、やられる方にも原因はあるらしいが、原因と結果とは話が別だ。
と、冷静っぽいことを言えるのは、当事者ではないからか。
以下、私見だ。
まず、イジメとは、社会的な綻びを解消するための手段である。
大きく言えば学校や職場など、小さく言えば数人の友人間など、ある特定の範囲における関係が乱されることで起こる。
コミュニティ内にストレスが存在する時、イジメは起こる。
なぜ起こるのか?
ストレスが溜まると、人はそれを解消するために、コミュニティを整理しようとする。
過剰なストレスの要因となる者を排除しようとするのだ。
矢面に立って解消を行うのが加害者。
矛先となるのが被害者である。
その二者の関係を容認した人々は、傍観者となる。
この三者が成立することで、イジメが成立する。
イジメは単純な二者の対立ではない。
正確には三者の対立である。
ただ、加害者と傍観者が攻撃的になりやすく、それによって構図が一方的に見えやすいのだ。
正しく構図に表せば、加害者と傍観者も攻撃し合っている。
双方が双方に影響することによって、イジメの状態が維持されていく。
被害者は攻撃していないように見えるが、加害者や傍観者からすれば、最初の攻撃は被害者から行われているので、理論上ではやり返すのが正当なのである。
もちろん、各立場の人間が、そんな対立を意識している可能性は低いが。
イジメは三者の対立である。
よって、イジメを顧みる時には、三者はそれぞれ別の価値観を持っていて然るべきだ。
加害者的思想の上では、被害者的思想を理解することは難しい。
各立場の人間は、客観的事実ではなく、それぞれの思想によってイジメを理解する。
聲の形における主人公の立ち位置は、加害者であり被害者という、ある種の中立的な位置である。
彼は二つの視点を獲得していたからこそ、被害者の西宮に対して罪悪感を抱き、加害者の立場から謝ろうとしたのだろう。
複雑だ。
映画・聲の形のテーマを『三者の相互理解』と考えると、個人的には腑に落ちる。
わりとキャラ全員が思い込みがちで、精神的にアンバランスだ。
だからこそ、部外者が何人か必要なんだろう。
ストーリー的にも、彼ら部外者は誘導と補助を担当していたように思う。
作品は面白かった。
心は抉られるが、それはリアル志向だからではなく、精神的な衝突に焦点を当てたジュブナイルだから……要するに青春映画だからだ。
面倒な心の動きだが、克明に描かれるのを見ると、いつも羨ましく思う。
そして、aikoはいつ聴いても良いアーティストだ。
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I'm standing here.
You make the move.
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人 ` ノ
Y´ \_ j
ヽ、  ̄ /
{ヽ、 ノ\
\`ー‐…'´ \
Don't try it.
You f**k.
エーテルの流れが見える。
車窓に映っている。
誰も
光に
触れることは
出来ない。
そこはかとなく無情を感じる。
でも、そろそろ昼間だから、感傷が鬱陶しく思える頃だ。
次の夜までセンチメンタルには浸れそうもない。
かといって、衝突することを恐れている現実は、変えられそうもない。
空洞だけが、無情だけが、今のところのすべてだった。