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第六話

 そんな日々が続いていたある放課後、リョウタとミドリはブチョーに呼ばれ、化学部の部室に向かった。

 部室には真剣な顔をしたブチョーがいた。

 仲良さげに部屋に入ってくる二人を見ると、ブチョーは決意したように告げた。


「実はぁ、あの『ハーハン』についてぇ、最近新しい結果が出たんだよねぇ。この薬の分子構造は独特でぇ、特定の神経伝達物質の受容体に働きかけると考えられていたんだけどぉ、実はそれが完全に誤りだったんだのねぇ。えーとぉ言いにくいんだけどぉ、つまり失敗ってことぉ」


 リョウタとミドリは驚いてなにも言えなかった。その様子を見てブチョーはさらに続ける。


「実際にはぁ、『ハーハン』はもともと水と非常によく似た構造を持っていてぇ、そのためにあーしたちの認識が鈍っていたんだよねぇ。それが原因でぇ、水素フィルターに破損があったりぃ、レーザー偏向プリズムの角度にズレがあったりぃ、酸化剤の調整時間がオーバーしていたりぃ、そういった一連の問題が発生していることに気が付けなかったんだよねぇ」


 ブチョーはさらに続ける。


「さらにぃ、私たちが使用していた分光光度計のキャリブレーションが正確でなかったことも判明してぇ、これのせいで分子の吸光度が正しく測定できなくてぇ、薬の効果を過大評価してたみたいなんだよねぇ」


 怒ったり泣きそうになったりと、リョウタとミドリの表情がくるくると変わる。


「しかもぉ、『ハーハン』の製造過程でぇ、ある特殊な反応装置を使っていたんだよねねぇ。その装置は分子レベルでのエネルギー制御を可能にするものだったのねぇ。だけどぉ、実はその装置のプログラムが誤って設定されていてぇ、薬の効果を生み出すはずのエネルギーが全く働いていなかったんだぁ。そのせいでぇ、この薬の製造過程で使用したエンタングルメント・フィードバック・ループ(EFBL)という最先端の技術で分子構造の特性が量子レベルで変化させて薬の効果を高まるはずだったのがぁ、逆に薬の効果を減少させてしまっていたみたぁい」


 リョウタは項垂れ、ミドリは頭を抱えた。


「結局ぅ、これらの一連の問題とぉ、さっきの分光光度計のキャリブレーションの問題が重なってぇ、私たちが考えていたよりもはるかに薬の効果はなかったんだぁ」


 ミドリはなんとかかんとかでようやく言葉を振り絞った。


「効果がなかったって、どれぐらいなかったの?」


 ブチョーは少し照れくさそうに言った。


「えーとねぇ、だからぁ、ぶっちゃけもうほぼただのハイドロゲンって感じでぇ」


「ミドリ、ハイドロゲンってなんだ?」


 リョウタが力なさげに聞く。


「水のこと······」


「······つまりあれはただの水、だったの、かあ!?」


 リョウタは思わず立ち上がった。


「まま、だけどぉ、リョウタくんとミドリちゃんは薬を飲んだ後どんどん仲良くなっていったじゃない? 単にそれは思い込み(プラセボ)ってわけじゃなくてぇ、二人の相性のおかげだと思うのねぇ。だからぁ、この薬がただの水だったとしてもぉ、二人の関係はこれからもきっとすごくいいものになると思うよぉ」


 リョウタとミドリはさすがに怒った。


「ブチョー!! そういう大切なことはもっとちゃんとやってくれよ!!」


 リョウタは声を荒らげる。


「本当に、どういうつもりなんですか?」


 ミドリも不機嫌そうに言った。


「ごめんなさい! 二人ともぉ! でもでも、結果的には二人は仲良くなれたんだしそれで許してよぉ! ねね、そんな怒らないで、これからもよろしくねぇ!」


 ブチョーは反省の色を見せて謝罪した。

 リョウタとミドリは、いつまでも怒っていても仕方ないので結局はブチョーを許すことにした。

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