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第二話

 二人は放課後に化学部の実験室に向かった。実験室の前に立つと確かに変な臭いが漂っている。

 意を決したリョウタがドアを開けると、化学部の部長、通称ブチョーが実験台の上で試験管を振っていた。


「あれぇ? たしかオカ研のミドリちゃんとテニ部のハデハデ金髪くんじゃん。どしたのぉ?」


 ブチョーが間延びした口調で聞いた。


「あんたに派手とか言われたくねえな」


 ブチョーは所謂黒ギャルで、茶髪にピアス、爪はイルミネーションのようにデコレーションされていて、白衣の下の制服にいたっては着崩されすぎてもはや下着が見えていた。


「実はさ、最近部活中にコートにまで化学部の変な臭いがするんだ。それで、何を作ってるのか調べに来たんだけど······」


「あー、『ハーハン』のことかなぁ?」


「ハーハン?」


「この薬の名前のことぉ。神経障壁阻害剤(ニユーロリプレツサー)ことハートフル・ハーモナイザー、略してハーハン」


「それがこの煙の原因? 正直さ、ちょっとメイワクしてんだよね」


「そっかぁ、ゴメンねぇ。でもこれ大事な研究でぇ、飲むと面白いことが起こるんだよぉ」


 ブチョーは試験管からビーカーに変わった液体を入れ替えて見せつけるようにして言った。


「あの、ブチョーさん······その液体がその薬? どんな薬なの? 教えてほしいな······」


 ミドリは見事に人見知りを発揮していた。リョウタとブチョーの間にいるとまるで不良に絡まれる中学生である。


「んっとねぇ、この薬はぁ、分子レベルの干渉を起こして人間の精神構造を変化させる可能性があるんだよぉ。最近の研究によるとガンマーソンホルモンの分泌を調整したり、エルガード電気伝達システムの動作を最適化したり、インターコネクション・ニューロン・ネットワークの連鎖反応を促進することで人間の感情の制御が乱れるんだってぇ」


 ブチョーはにっこり笑って続ける。


「スヴェンドソン理論によるとぉ、脳内のクワトロ・ウェーブ発生器が働いてぇ、それがセルフィウス・コイルの共振周波数に影響を与えることでぇ、感情の調整機能が一時的に変化するらしいんだよねぇ」


「はい?」


 ミドリはぽかんとする。


「さらにぃ、バイオフィードバックのメカニズムを利用して自律神経系のバランスを変化させることも考えられるんだってぇ。免疫反応にも関与していてぇ、例えばぁ、インターロイキンやサイトカインといった免疫物質が過剰に分泌されることでぇ、脳内の感情中枢に作用する可能性があるんだよぉ。さらに腸内細菌叢の影響も無視できなくてぇ、腸内細菌のバランスが変わることでぇ、それが脳にも影響を及ぼすっていう研究結果もあるんだよねぇ」


「はあ?」


 リョウタもぽかんとする。


「んでぇ、オストヴァルドの逆説でマッカランティウム電極を使用して精製した薬剤はこれらの要素を組み替えてぇ、アミダロイド核や前頭前皮質の活動を一時的に抑制してぇ、扁桃体や前帯状皮質を活性化させることでぇ、感情の抑制を緩和しぃ、人間の心のバリアが一時的に低下するんだってぇ。そうすると普段は抑え込んでる感情や本音が出やすくなったりぃ、他人に対して無防備な状態に近づくんだってさぁ。まぁ、まだ研究段階だからどれだけ効果があるかはわからないんだけどねぇ」


 リョウタとミドリはブチョーの長々しい説明を聞きながら、首をかしげた。


「つまり、素直になれる薬ってこと······?」


「あー、まぁ、そんな感じかなぁ?」


 ブチョーはへらへらとしながら頷いた。

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