俺の夢
化け物は確実に俺を見て笑っていた
嫌ーな汗が全身から流るのを感じる
こいつ……この状況で待ち伏せしてたのかよ
「少年!避けてください」
じぃの掛け声とともに化け物は物凄い勢いで俺に向かって落下してくる
「……っ疾風」
バックステップと同時に風魔術を発動して自分をできるだけ遠くに吹き飛ばす
「逃げるわよ」
「駄目だっ……」
思わずかかぶせ気味に言い返そうと声の主に振り返るが……
そこには、顔は真っ青で、剣を持つ手は震え、立っているので精一杯と言える状況の先輩がいた
ただ先輩は俺を
睨んでいた
俺はたじろいで半歩後ろに下がってしまう
今までとは違う殺意のこもった目だった
「なによ!何なのよ!あの村人は貴方にとってそんなに大事なの?貴方が命を張って守るほど重要なの?」
俺はその言葉を聞いてハッとした
確かにあの村人は俺にとって特別な存在じゃない
そうだこんな事に命をかけるべきでは無い
なら……
「民を守る事が我に与えられた使命なのだからな」
え?俺今なんて言った?
俺の口から思惑とは真反対の言葉が飛び出していた
唐突に口から出た言葉
今の俺なら逃げを選択していたはずだ
ではこの言葉は一体……
「あなたもなのね……
他人が助かるなら自分は死んでも良いって?
そんな訳無いじゃない!
貴方はいいかも知れないけど私は、私はいやなの!身近な人が居なくなるのは、もう置いてかれたくないの……
だからね……一緒に逃げましょ」
まるで自分の過去を語るように
だが今の俺の目には先輩が別の誰かに見えた
先輩では無い何が先輩の過去を語るように
「我儘な奴だな貴様は、置いていかれたくないのなら追いかければいいだけの話だろうに、まぁいい貴様もまた守るべき民なのだからな」
また口が開いた
今度は言葉に合わせて身振り手振りまでが俺の意とは関係なく動く
声を出そうとしても
体を動かそうとしても
まるで身体が言うことを聞かなくなっていた
意識だけがただふわふわと俺の中で漂って居るだけ
いつの間にか身体の主導権をすべてが俺のでは無くなってしまった
まるで、自分と言うキャラを誰かが操作している動画を見せられていて
更にそれは全く持って理解できない眠くなる内容
そんな感覚
そして俺は残りの意識さえも手放してしまった
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俺は温かい空気に晒されて目を覚ました
正確には夢の中でだが
俺は飯を食っていた
向かい側に父が横には母が座っていた
前回とは違い親の顔をはっきりと見ることができた
父は母との冒険中の武勇伝を語っていて
母はたまに相槌を打ったり、赤くなりながらも満更でもない顔をしていた
俺は食事のことを忘れて話を夢中になって聞いていた
とくに二人がたくさんの人をを守る為に自分の体格の何十倍もある化け物を相手に挑み苦戦の果に勝利を勝ち取る話がお気に入りで、何回も何回も話してもらっていた
何よりその話だけは他の話よりもやけに信憑性があった
そしてその話をする度に父は
「民を守ることが我らの使命なのだからな」
と言っていた
正直かっこよくすら見えた
それから多くの月日が経った
見てるだけの俺でもこんな生活がずっと続けばいいと思うような日々だった
俺は立派な青年に育った
母から武術を習い
父から多くの知識を得た
母はその体つきからもわかるように
物語通りの強い女性だった
ただ細かな事を嫌った
成長した今の俺でもまだ母の足元にも及ぶことはない
父は身体が弱く
物語の様に強くはなかったが
それ以上に頭が良かった
札の判子の元ネタも父から得たものだった
それに父は沢山の本を書いていた
それはとても面白く良く読み聞かせしてもらっていた
なぜだか多くの物語の主人公が王子であり
いつしか俺はその言動を真似するようになった
二人はお互いの足りない物を補い合って俺を育ててくれた
ただ何事にも終わりはある
ある日目覚めると俺は馬車の中に居た
「おはよう御座います」
目の前にはひげを三編みにしたご老人が座っていた