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経験の果て  作者: ナかめ
2/9

1話 重なる記憶一

「お父さん、お母さん」


「どうしたんだい」


その声に二人は笑顔で返す


私は母にトットと近づき抱きつく


その光景は誰もが夢見るであろう暖かな家庭風景


「ねぇお母さん、お父さんは何をしてるの?」


そんな質問に母は少し黙り込み口を開ける


「……そうね、お父さんはいつまでたっても大人になれないひよこにお手紙を書いているのよ」


「そうなんだ!お手紙読んで立派なひよこになって欲しいね!」


それを聞いて母は一瞬驚いた様な顔をしたがすぐに笑顔に戻り、頭を撫でてきた


その手は堅くでも大きくて温かくいつまでもそうして欲しかった


やがて頭を撫でる手が止まり私は顔を上げる


少し黙っていた母は、確かに『俺』を見て言った


「早く目を覚ましなヒヨッコ」


あぁそうだ思い出したこれは、()()()()での俺の記憶


俺は前世で死んだんだ


辺境で平凡な家族のもとに生まれた


母は狩人、父は……思い出せない

思えば親の顔も親との記憶も今世の記憶も覚えていない


そう言えば前世の俺は何をあんなに悔しがっていたんだろうか


前世の記憶さえも


ただこの世界の言葉、文字、常識は覚えていた


-------------------------------------------------


勢いよくベットから起き上がる


息は荒く、服が汗でビタリと肌に張り付いている



この世界の俺の記憶

忘れていた両親の記憶……


周囲を確認するが部屋は殺風景の一言に尽きる


さっきの風景とは遠くかけ離れた薄暗い部屋だ


ノックと共に扉が開き外の音が流れ込んでくる

開けた主は私を見るなり驚いた顔をして口を開けた


「やっと起きましたか少年、心配しましたぞ」


「じぃ、俺は……っ」


唐突に身体に痛みが走る


「おやおや、駄目ですよ少年、一週間も寝ていたんです、まだ横になっていた方が……」


「い、一週間も、いや流石にもう動かなきゃっ、いだだだッ」


何を焦ったか、ベットから降りた私は足から崩れ落ちた


「言わんこっちゃありません、大丈夫ですか少年」


そう言って、じぃは呆れ顔で私の手を取りベットに座らせる


「あぁ大丈夫だ、じぃ、済まないが松葉杖はないか」

「松葉杖ですか、確かここに……おぉ、あったあった」

じぃは、タンスから松葉杖を取り出し私に渡す


「松葉杖なんて持って、何処へ行こうと言うのですかい」


その質問にニヒヒと笑って答えた


「じぃよ、温泉に行くぞ」


「温泉ですかい、今の状況では危ないですぞ」


「その為のお前だろうが、それにこんなベタベタのままじゃ気分が悪くて仕方がない」


「それもそうですな、では少し奮発して疲労回復の効果があるとやら、噂の温泉にでも行きますかの」


そう言ってじぃは、やれやれと体をすくめているが


既に、部屋を出ようとしていた


「じぃ、実は自分も行きたかったんでしょ」


「なんのことやら、わかりかねますなぁ、さぁさ行きますぞ」


爺さんらしからぬせかせかした動きをして、何を言うのやら


バレバレだよ、じぃ


「口元に出てるぞじぃ、素直になれって」


そんなじぃに、松葉杖を使いよたよたと近寄り脇をつっつく


「全く少年には叶いませぬな、こんな老いぼれ、温泉に入る機会などなかなか御座いませぬわ、今回十二分に堪能いたしますぞ」


じぃは、ワハハと笑いながら私と共に宿を後にした

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