めでたしめでたし
ここはとある病院。
午後の美しい木漏れ日が窓から入り込む一室。
設置されたTV画面に映るニュースキャスターは昨日起こった大事件のニュースを報道していた。
政党本部への襲撃事件をきっかけに暴かれた今回の暗殺事件と数々の革命党裏工作が電波を通じて世界中に流されていた。
そんな病室のベッドに横たわりTVのニュース映像の中で警察に連行されるニルガン議員の様子を黙って眺める男がいた。
精悍な顔つきと逞しい体格をしたその男の名前はエヴァンス。
やがて病室のドアがノックされる。
病室に入って来たのはハッカー、タッカー、ドドノ、イロヨク、そしてミトンの5人だった。
「みんな、来てくれたのか」
「いよぉ~、エヴァンス~!束の間の休暇を楽しんでるか?体の具合はどうなんだよ?」
「あぁ問題無い。さっさと退院したいが、担当医が過保護でね」
「これだから白人はひ弱でいけねぇよなぁ。迫害された歴史の中で生き残った黒人様の最強遺伝子を以ってすれば弾痕なんてツバつけりゃ直せるってのによぉ。まぁいい、今回だけはお前さんの活躍に敬意を表してもう数日のぐうたら入院生活を許可してやるよぉ~」
「ははは、そいつはどうも」
「しっかし何だ、この病院は看護婦の制服がパンツスタイルってのがいけねぇよなぁ。やっぱり白衣の天使は膝上20cmのミニスカートってのが鉄則だろ。男のホルモン活性化が傷の治りを促進するって論文を誰かが発表するべきだよなぁ」
「イロヨク、お前も相変わらずだな」
「エヴァンス君、今回のことでは本当に世話になった。何と礼を言っていいことか」
「いえ。それより議員、足の具合は?」
松葉杖姿のドドノ議員を気遣うエヴァンス。
「何、問題無い。この邪魔臭い杖ともあと数週間でお別れだ」
「そうですか、それは良かった。…しかしどうしてここへ。政党の悪政絡みで拘留されているはずでは?」
するとドドノ議員はハッカーは意味深なアイコンタクトを交わした後、バトンタッチをしたか如くハッカーが真相を語り出す。
「実はね、混乱とドサクサに紛れてちょっとイタズラしちゃったの」
「イタズラ?」
「そう。今回の証拠データのアクセル履歴やなんやらを全部ニルガンのアカウントに摩り替えちゃった」
「何!?そんなことまでしてたのか?」
「環境さえあればこんなものよ。ドドノ議員も同罪だし迷いはあったけど、これ以上ミトンが家族を失うのは酷かなぁって」
「…」
ミトンは悲しい過去を思い出しながらも何とか笑顔を保っているといった表情だった。
「いずれ何かしらの形で必ず償うつもりだ。しかしまずはミトンへの贖罪を優先させてくれたことには強く感謝している」
「いいんですよ。ちゃっかり私も自分の犯罪歴と面倒な経歴も抹消してきちゃいましたから」
「ははは。君の様な人材は今後も引く手数多だろうな。またどこかの政府機関に入るのか?」
「いいえ。今回のことで組織はもうこりごりだし、つまらない欲に溺れない様、自分を見直すつもりです」
「そうか」
するとドドノ議員は背後に立つミトンに声を掛ける。
「ミトン、ほら、お前もきちんとお礼を言いなさい」
呼ばれたミトンはドドノの前に立つと振り向き厳しい言葉を掛ける。
「父親面しないでくれる?言われなくてもするから」
「むっ、むぅ…」
完全に跳ね返されたドドノ議員を背にミトンはエヴァンスに向かい心一杯の感謝を告げる。
「エヴァンスさん、今回は本当にありがとうございました。私、一生救われることなんて無いと思ってたけど、貴方のお陰で救われました。本当に、本当にありがとうございました!」
するとミトンはエヴァンスの頬に可愛らしく唇をつけた。
エヴァンスが笑顔を見せる中、周囲もそれを微笑ましく見守る。
「しょ~がねぇ、今回ばっかりはミトンちゃんはお前に譲ってやるよぉ。俺様の本当の魅力受け止めるには若すぎるからなぁ。まずはその白いお坊ちゃま顔で恋のお勉強だ」
「まぁ~ったく。全部いいところ持っていきやがってぇ。俺もSHRTに入ろうかなぁ」
「生意気な小娘。ツバ付けたのは私の方が先よ」
「ははは。エヴァンス君、責任は取ってもらうぞ?」
和やかな笑い声が部屋を包む最中、突然病室にもう1人の人物が姿を現しエヴァンスに対し声を掛けた。
「エヴァンス!」
「ん!?」
突然現れたその人物は以前エヴァンスが訪れた喫茶店に勤めていたウェイトレスの女性だった。
他5人を掻き分けエヴァンスのベッドへと駆け寄る。
「エヴァンス!ニュース見たわ!私びっくりしちゃって…。怪我は?大丈夫なの?」
「え?あ、あぁ。どうして君がココに?」
「ほら、今日は週末でしょ?お店には来られないと思ったから持ってきたの、店長のアップルパイ」
そのウェイトレスは手に持っていたケーキ箱を開けると中にはとても美味しそうな手作りのアップルパイが入っていた。
「病院食って味気無いでしょ?良かったら食べて」
「あ、あぁ。ありがとう。後で頂くよ」
「うふふ。貴方って本当に勇敢だったのね。素敵よ」
「!」
するとウェイトレスの女はエヴァンスに対し艶かしい口付けをした。
エヴァンスも咄嗟の事で抵抗を忘れなすがままに身を任せている。
「それじゃ、お邪魔しました~」
手を振りながらその女は部屋を去って行った。
エヴァンスの色男振りに周囲はそれぞれの反応を見せる。
「ちょいとオイタが過ぎるんじゃねぇのかぁ~?あんまり調子に乗ってっとこのタッカー様が直々に勝負を挑む事になるぜぇ?」
「エヴァンス!SHRTの入隊試験ってどこでやってんだ?」
「男ってやっぱみんなそうなのね…」
「…私が先だったんだからね」
「ははははは」
再び和やかな笑い声が部屋を包み、平和な一日は流れていくのだった。