「エヴァンス隊長、銃を捨てて下さい!」
玄関を出た2人が見た光景は完全武装した8人の兵士が自身に向かって銃を構えている姿だった。
エヴァンスはその中心に立つ男と目を合わせた。
「スノー…」
そこに立っていたのは最高機密部隊SHRT7人の部下を従える現隊長であるスノーだった。
新旧隊長対決となった現場に緊張が走る。
「エヴァンス隊長…」
「誤算だった…。まさかSHRTをここに呼んでいたとは…」
「ど、どうしよう…。ねぇ、どうするの?」
「ハッカー、ネットワークはどうだ?」
手に持つラップトップを開きカタカタと操作しつつ必死に確認するハッカー。
「…ダメ、繋がらない。せめて、せめてあの門を出られれば…」
「くぅっ…」
2人を絶望が支配する中、追い討ちを掛ける声が背後から聞こえてきた。
「そこまでだ、反逆者の諸君!」
「!!?」
エヴァンスとハッカーが振り返ると、SP達に取り押さえられたタッカーとドドノ議員、そしてその中心に立つニルガン議員がこちらをニヤニヤと見つめていた。
「さぁ、そのラップトップをこっちに渡して素直に降参したまえ。今この場で射殺命令を出されたくなかったらな」
「…お、終わった、何もかも…」
ハッカーはパソコンを抱き抱えてその場に崩れ落ち、その顔は悲壮に満ちていた。
エヴァンスは絶望的な状況に顔を歪めながらも、降参する素振りだけは見せずにいた。
「おい、そこの男!聞こえなかったのか?早く手を上げてその場に跪け!」
「…」
エヴァンスはニルガンの警告に従うことなく、ただ銃を構え睨み返すのみだった。
ニルガンの周囲を囲むSPや中庭にいるSHRT隊からそれぞれ銃を向けられている状況にも関わらず、反抗的な態度を見せ続けるエヴァンス。
「エ、エ、エヴァンスちゃん!?この状況見なよ、どう考えたって勝ち目は無ぇって。大丈夫、そう怖い顔すんな!話し合えば分かるってぇ。まずはホラ深呼吸して皆で平和のために祈りましょう~」
「エ、エヴァンス…?」
「エヴァンス君…」
「エヴァンス隊長!銃を置いて下さい!!」
タッカー、ハッカー、ドドノ、そしてスノーの言葉を耳に入れたエヴァンスは少し体の緊張を解いた様子を見せた。
今にも手に握る銃を地面に落とそうとした、その瞬間、
”ドドドドドドド”
「なっ、何事だ!?」
「へぇ!?」
「何だ?」
突然どこからともなく派手な銃声が聞こえて来た。
音の発生場所がSHRT部隊が構える遥か後方だと気付き全員がその方向を向くと、そこには驚愕の光景が広がっていた。
「!!?」
「!!??」
「なっ、何だぁ!?」
「…間一髪か」
その銃声を発していたのは優に100人は超える程のマフィア連中がそれぞれ武器を構え周囲を取り囲んでいる光景だった。
多勢に無勢であるSHRT部隊やSP達はたちまち銃を下ろしその両手を宙に掲げ始める。
「こ、この人達は…?」
「何と…」
「イッヤァー!どうだお前等、恐れ入ったか?これが俺様の力よぉ!!」
タッカーが調子付いた発言をしている頃、刑務所で留守番を担当しているブラックとイロヨクがその真相を交し合っていた。
「よくも今まで散々コキ使ってくれたねぇ。みんなの仇だよ、腐れ政府共が!」
「人望は健在みたいだな。これでエッグマフィンゲットって訳か?」
本部入り口では混乱寸前といったニルガンが慌てふためく。
「い、一体これはどういうことなんだぁ???」
エヴァンスは安堵の笑みを浮かべ、呼吸荒く傷口を押さえその場に座り込んだ。
そして残りの力を振り絞りハッカーに後を託す。
「ハッカー、行くんだ!」
「エヴァンス、一緒に!」
「悪いな、手当てを受けなければ暫くは動けそうに無い。行ってくれ」
「…エヴァンス、本当に、本当にありがとう!」
ハッカーは歓喜のあまりエヴァンスに勢いよく唇を重ねた。
エヴァンスも抵抗無くそれを受け入れる。
呼吸は荒く、顔には大量の汗が滴るも優しく微笑むエヴァンスを見て少し安心したハッカーは、しっかりとした表情で正面門を見つめ一目散に走り出していった。
開放されたタッカーはエヴァンスに駆け寄り強く背中を叩いた。
「白人にしちゃやるじゃないか。だが、今回の事件解決にはこの運び屋タッカー様の偉大な力こそが最大の功績を挙げたことを忘れるなよぉ?」
「あぁ、本当によくやってくれた。感謝するよ」
ハッカーが何人かの護衛を警護に従え無事正面門を突破したことを確認すると、エヴァンスは朦朧とする意識の中、手に持った銃を音も無く地面に落とすのだった。




