逃走、負傷、最後の門
ドドノ議員は振り返ったニルガン議員の顔面を思いっきり殴りつけ、ニルガン議員はその場に豪快な音を立て倒れ込んだ。
「娘の分だ!!!」
ニルガン議員が床に倒れ痛みにうずくまっている隙を突き3人は大急ぎでコンピューター室を出た。
すると何かを思い出した様子のタッカーは振り返りニルガンを見下ろした。
「お~っと忘れるところだったぜぇ。ウピゴバから頼まれてたんだった。お前等に殺された6人の弔い分だ!!ウリャ!!!」
「っぐぉっ!!!」
タッカーは台詞通り6発の蹴りを倒れるニルガンのどてっ腹に対し全力で打ち込んだ。
回数分の嗚咽を吐き出すニルガン。
「おい!行くぞ!」
エヴァンスの声を聞きタッカーも大急ぎで3人に追いつき一丸となった4人は入り口に向かって走り始める。
「急げ!早く敷地の外に!」
「正面門を出て1kmは離れないと外部ネットワークに繋がらないわ!」
大急ぎで正面門へ向かう4人。
その頃ゆっくりと起き上がったニルガン議員は廊下の壁に設置されている警報機を叩き押した。
「っくそ!」
けたたましい警報音が本部内に響き渡る。
間も無くしてあちらこちらからスーツ姿のSPや軍服の警備兵が銃を構え本部内に溢れ返って来た。
「お前達!止まれ!」
エヴァンス一行はSPに見つかり銃を向けられた。
エヴァンスとハッカー、ドドノとタッカー、咄嗟に2手に分かれる形となりそれぞれは廊下の壁際に身を隠した。
「チックショ!おい、どうすんだ?」
「タッカー!ドドノ議員を人質に取って連中の注意を引け!俺とハッカーは別口から外に脱出する!」
「何!?俺達に囮になれってのかよ?」
「ハッカーの持つデータをアップロードするのが最優先だ!そうしなければ全員がやられる!ドドノ議員を人質に取っている限り奴等は撃って来ない!とにかくやるんだ!」
「チックショウ!!とんだラッシュアワーだぜ!」
タッカーは自分の運命を呪いながらエヴァンスの指示通りドドノ議員の首に手を回し頭に銃を突き付けるとSP連中の前に姿を見せた。
「銃を捨てろ!こいつの頭をブチ抜くぞ!!」
SP達が怯んだ姿を確認したエヴァンスとハッカーは反対方向からまた出口を目指し走り始めた。
タッカーは引き続きSP連中との駆け引きを続ける。
「聞こえないのか?銃を捨てろっつってんだろうが!コイツの白い脳みそこの場でぶちまけて俺様を白人にしたいのか?えぇ?」
「ド、ドドノ議員…、おのれぇ…」
SP達は困惑の表情を見せタッカーの優勢かと思われたが、タッカーもまた窮地に追い詰められている状況に変わりはなかった。
「チックショォ、こんな目に遭わせやがってぇ!俺様がロス市警の刑事ならFBI相当の給料をよこせってストライキ起こしてるところだ!」
「タッカー君!怖いだろうがもう少しだけ頑張ってくれ!」
「頑張れだってぇ!?準黒幕の分際で何他力本願全開にしてんだよ。アンタこの場所でお偉いさんなんだろ?それなら鶴の一声でこの状況何とかしてみろよ!このドデカい図体と渋い声は見せかけかよ?あぁ?もしもこの事件が丸く収まったら車1台の報酬じゃ済まさないからな!!」
するとこそにニルガン議員が姿を現した。
「ドドノ!…おい何をしている!早く撃て!!」
ニルガンは銃を下げているSP連中に発砲を命じた。
「し、しかし、ドドノ議員が人質に!」
「奴に当たっても構わん!奴もグルだ!さっき奴に殴られたんだ!」
「な、なんですって?」
「奴も反逆罪だ!責任は私が取る!早く奴等を撃て!!!」
それを聞いたSP連中は下げていた銃を再び持ち上げタッカーとドドノ議員に照準を定めた。
「おぉぉーっと、こりゃマズい!!」
SP達が一斉に発砲を始めタッカーとドドノは咄嗟に壁際に倒れ込む様にして身を隠した。
「あ、あ、あっぶねぇ!!!」
「うぅっ…」
廊下に倒れ込んだ2人。するとタッカーはドドノの様子がおかしいことに気付いた。
「おい、どうした?っは!」
ドドノは苦痛に顔を歪め右手で自分の右足を強く抑えていた。
銃弾が命中した傷口からは鮮血が滴っていた。
「おいっ、しっかりしろ!おい、おい!」
「うぅ…す、すまない。私はもう動けん。君1人で逃げるんだ!」
「アホか!?こんな要塞のど真ん中から俺1人で逃げ切れる訳ねぇだろ!俺様は008じゃねーんだぞ!」
「もっ、もし…もし娘に会えたら伝えてほしい。愛してる、と…」
「そーゆーことは自分の口で伝えるから価値があるんだよ!ホラ立て!」
”カチャ”
「!!?」
タッカーとドドノが顔を上げると、そこには10数人のSP達が自分達に向かって銃を向けている光景が広がっていた。
その中心に立ち不敵な笑みで2人を見下ろすのはニルガン議員だった。
「ドドノ、よくも我が誇り高き革命党の歴史に泥を塗ってくれたな。覚悟はいいか?」
「ニルガンッ、貴様っ!!!」
タッカーとドドノが窮地に追い詰められている頃、エヴァンスとハッカーは捜索の目を掻い潜りながら遠回りではあるものの着実に玄関に近付いていた。
「もう少し、もう少しよ!」
エヴァンスは周囲への注意を最大限に払いながら逃走の経路を確保しつつ走り続けていた。
息を切らしながら必死にエヴァンスについていくハッカー。
すると廊下の先に玄関出入り口が見えてきたが、そこには3人のSPが銃を構え周囲に目を配っている光景があった。
物陰から様子を伺うエヴァンス。
「…クソ!」
「どうするの?」
「時間がない、一か八かだ。俺が姿を見せて注意を引き一斉に仕留める。いいか?もし俺がやられたらその隙をぬって一目散に走りぬけ!今は表の警備は手薄なはずだ。外に出てネットワークに繋がり次第データをアップロードしろ!それが終わったら自首するんだ!下手に逃げて射殺されては元も子もない!」
「そ、そんな!1人じゃ無理よ!」
「やるしかないんだ!!!」
エヴァンスをハッカーの肩を抱き力強く言い放った。
その気迫に決意を固めた様子のハッカー。
「よし!3の合図で行くぞ?全力で走りぬけ!」
「もう…走ってばっかり!」
「1、2、3!!!」
エヴァンスは自身の合図で廊下中央に飛び出し、玄関口で見張りを行うSPに対し怒涛のごとく発砲し始めた。
向かって来る銃声に気付いた3人のSPはすぐに反撃を開始する。
「ぐあぁっ!!」
「うわぁっ!!」
「ぐぅっ!!」
「ぎゃぁっ!!」
無数の銃声が飛び交う中、見事エヴァンスはSP3人を撃ち倒すことに成功したが、エヴァンス自身も左肩と脇腹に被弾してしまった。
「エヴァンスさん!!!」
「だっ、大丈夫だ!走るぞ!!!」
エヴァンスは脇腹を強く抑え苦痛に顔を歪めながらも走り出した。
心配そうな表情でエヴァンスの後をつけて行くハッカー。
「よし、脱出だ!」
エヴァンスは激痛に耐えながら玄関のドアを蹴破りニーラと共に外に出た。
するとそこには予想外の光景が広がっていた。
「うっ、うそ…」
「まさか…」