親子の初めは罪と恨みと懺悔と後悔
「よし、それじゃ手筈通りに」
作戦を纏め終えた一同は互いに目を合わせるとその場で解散となった。
タッカーはドドノ議員のプライベートコテージであるその場を後にし、ミトンとハッカーは今晩この場所に寝泊りすることになった。
エヴァンスも怪しまれない様、刑務所へ戻る事を告げその場を後にする。
するとドドノ議員と気まずい距離感を感じるミトンは1人奥の部屋に入って行ってしまった。
「…」
ドドノは切ない表情を浮かべた。
ミトンの後を追おうとするドドノにハッカーが声を掛ける。
「議員…今はそっとしておいた方がいいのでは?いきなりの事で混乱しています」
ドドノは一旦その場に立ち止まるも、状況を垣間見静かに口を開く。
「…もうこれが最後かもしれないんだ。もう2度と会えないかもしれないんだ」
「…」
そう言うとドドノ議員はミトンが入って行った部屋のドアをノックしノブに手を掛けた。
「入るぞ」
中から返事が返ってこない事を悟るとドドノはそのままドアを開けた。
部屋の中ではベッドに座り俯くミトンの姿があった。
ドドノは静かにミトンの隣に腰を下ろす。暫くの沈黙が続いたが、やがてドドノが静かに声を掛けた。
「何から話していいか…。こんな事になってしまって本当にすまない。混乱しているだろうが、お前は間違いなく私の娘だ。何処となく母親の面影もある。彼女の若い頃にそっくりだ。とても美しいよ」
「…」
「怒るのも無理は無い。私が憎くてたまらないだろう。だが私はお前のことを心から愛している」
「…18年間も見捨てておいたくせに?それを信じろって?」
「…あぁ、無理だろうな。これからどうなるかは分からないが、もし出来る事なら、これから一生を掛けて罪を償い続けたい」
ミトンは顔を背けた。
心を痛めるドドノ。
「私に何が出来る?」
「知らないわよ。いきなりノコノコ現れた父親だとか言われたって…」
「…当然だな。私達のせいでお前にはとんでもない地獄を見せてしまっただろうからな」
「別に、物心ついた時からスラムだったから。それが当然だと思って生きてきた、大した事ないわよ。泥水啜ってお腹壊すのも、物乞いしてゴミ呼ばわりされるのも、友達だと思ってた人からパンひと欠片のために裏切られるのも、通り掛る親子の姿を見て突然涙が溢れるのも、人を恨むのも神を恨むのも、ぜーんぶ私の当たり前な日常だった!!」
「…」
ミトンの怒鳴りにも近い恨み節がドドノの胸に突き刺さる。
「助けに来てくれたことに感謝なんてしてない。これから何が起こってもアンタを許せる気がしない。今はチームとして協力してあげるけど、出来ればアンタの顔なんて見ていたくない!」
「…」
「私はただ生まれて来ただけなのにスラムで毎日死と隣り合わせの生活をさせられた上に命狙われるはめになった。オマケに妾との間に出来た汚れた命ってレッテルを一生背負って生きていかなきゃいけない!助かっても助からなくてもどの道地獄よ!」
「ミトン…」
「私の名前を呼ばないで!アンタにその名前で呼ばれると虫唾が走る!顔なんか見てたくない、出てって!!」
「…!」
ドドノは心臓を引き裂かれる思いだったが、それでも自分に弁明する権利が無い事を強く悟っているドドノは断腸の思いで立ち上がりミトンに背を向けた。
部屋から去り際、ドドノは振り返り最後ミトンに問い掛ける。
「母親のことを知りたいか?」
ミトンは答えた。
「私のお母さんは死んだわよ。私の腕の中で」
「…」
そうしてドドノは静かにミトンを残し部屋を後にするのだった。