明かされた正体
突然2人を照らしたヘッドライトを遮り、その男は姿を見せた。それはブラックことウピゴバが手配した陽気な黒人の運び屋だった。
「タッ、タッカー!?」
「いよぉ、お譲ちゃん達。ベソなんかかいちゃって。その辺のつまらない成金男にでも振られたのか?」
「タッカー?アナタ、どうしてここに?」
「言ったろ?希望を運んで来てやったって」
「希望?」
「そうとも。君達は神に愛されてるなぁ。俺様が長年握り締めて来た自論がすっかり崩れ去っちまったぜぇ」
「???」
タッカーの言葉だけでは状況を把握出来ずただただ驚きを見せる2人。
タッカーが手招きをする。
「とにかく乗りな。追っ手が彷徨ついてるかもしれねぇ。話は目的地についてからだ」
「目的地?」
「時間が無ぇんだ話は後後!ほらほら乗った乗った!」
タッカーは2人を引き起こり背中を押してそのまま後部座席に詰め込みドアを閉めた。
3人を乗せた車は方向を切り替えそのままスラムの街を後にして行ったのだった。
それから約3時間後、タッカーの運転する黒のバンは人里離れた森林地帯に佇む1軒のコテージの前でそのエンジンを止めた。
外から中の様子は伺えず、また周囲に人の気配も感じられなかった。
タッカーが車を降り後部座席の2人を車から降ろす。
「行こう」
「行こうって…。ここは何処なの?」
「中に入れば分かるよ」
そして3人はコテージらしき建物の玄関に辿り着いた。
木造の別荘の様な外観ではあるが、よく見ると各所に監視カメラが設置されており、窓らしきものも見当たらなかった。
タッカーがチャイムを鳴らす。
すると何処からともなく音声が流れてきた。
<”英雄の所属は?”>
「”107連隊”」
”カチャ”
合言葉が交わされるとドアの鍵が開錠される音が聞こえた。
タッカーがドアを開けると、部屋の中心にはエヴァンスの姿があった。
「エヴァンス!」
「やぁ。無事だったか、2人共」
「ここは…何処なの?」
部屋の中はどこにでもある高級別荘の内装とほぼ変わらない造りになっている。
キョロキョロと周囲の様子を見回すハッカーとミトン。
すると2人同時にある光景に気付く。
「っは!!」
エヴァンスの後ろに設置されたダイニングテーブルの上には色とりどり豪華絢爛な食事が所狭しと置かれていた。
空腹の限界ギリギリを迎えていた2人はその食事に対し一斉に飛び付いた。
「ばくばくばくばくばく!!」
「もぐもぐもぐもぐもぐ!!」
呼吸も忘れる程、一心不乱に食べ物を口に詰め込む2人。
まるで海賊が如く頬張る2人を見てエヴァンスとタッカーは安心した様子を見せていた。
「おいおい、もっとゆっくり食わないと窒息しちまうぜ?」
「っむぐぅ…っぷはぁ…もぐもご。こんな美味しい物で窒息死出来るなら本望よ。スラムで餓死するよりよっぽどマシ!!」
「こんな美味しい物があるなんて!信じられないわ!」
「ふふふ」
微笑ましそうに見つめるエヴァンス。
そのまま5分程食べ続けた2人はようやくそのペースを落とし始めた。
それを見計らったエヴァンスが口を開く。
「2人共、食べながらでいい。そのまま聞いてくれ。実はミトン、お前に逢わせたい人がいる」
「?」
「どうぞ」
エヴァンスが奥のドアに向かって声を掛けた。
するとそのドアはゆっくりと開き、そこから現れたのは2人の想像を絶する程の大物だった。
「ドドノ議員!!!」
「…!?」
ハッカーが大声を荒げ驚き椅子から立ち上がる。
その横でミトンはつられて驚く様な素振りを見せた。
「え…。誰?なんか、見たことある様な気がするけど…」
「かっ…革命党のドドノ議員…。どうして貴方がここに!?」
「え?カクメイトウって、政府の?」
「にっ、2大議員って言われる程の権力者よ…。どうして?」
「え?それじゃ…あの刑務所のことも知ってる人?今回の犯人かもしれないってこと?」
「エヴァンス!?これはどういうことなの?」
血相を変える2人をよそに他3人は冷静な表情を浮かべていた。
咄嗟にことに取り乱した2人だったが、他3人の落ち着いた様子に気付き直ぐにその態度を落ち着かせ様子を探り始めた。
「…何?どうしたの?どういうことなの?」
エヴァンスはドドノ議員に目をやった。
すると貫禄を見せるドドノ議員が口を開き、その重圧のある声をミトンに向けて放った。
「…ミトン。そう呼ばれているのか…」
「…?」
ミトンは訳が分からないといった表情で目を丸くしドドノ議員、そしてエヴァンスを交互に見ていた。
するとエヴァンスの口から衝撃の事実が放たれた。
「ミトン、こちら革命党議員ドドノ=ババン。お前の父親だ」
「!!!?」