運ばれて来た希望
それから数時間後、寒風吹き荒むスラムの片隅でミトンとハッカーは身を寄せ合い絶望に苛まれていた。
すきっ腹を抱え寒さに身を震わす2人。
「…寒いわねぇ。どこか風を凌げる場所はないかしら?」
「多分この辺一体の建物は全部占拠されてる。取り合えず明日明るくなってから元締めを探して挨拶しないと。いきなりどこかの建屋に入るとここに居られなくなる」
「…そう。お腹も空いたわねぇ。これじゃ眠れそうにないわ」
「そうだね。私は慣れてるけど、ハッカーは堪えるかもね。でも追っ手が来ないかどうか周囲を見張ってないといけないし、丁度いいかもよ」
「…そうね」
気休めにもならない言葉と知りつつも黙って飲み込むハッカー。
やがて悲壮と絶望が2人の口から漏れ始める。
「…これからどうなるのかしら。もう本当絶望的よね」
「怖いよ。どうして私が狙われるの?」
「お互い真相が分からないまま死ぬことになりそうよね…」
「やめてよ!縁起でもないこと言わないで!」
「ごめんなさい。でも…覚悟は決めておかないと。いざ最期の時が来るに備えて悔いの残らない様準備が必要かもね。遺書を残しておくとか」
「…そんなの、どうでもいいよ。マザーも死んだ、言葉を残したい相手なんていない。そもそも私、字書けないし」
「…もし、仮に本当にその時が来るとして、最期に何したい?」
「温かくて美味しい料理をお腹いっぱい食べたいかな」
「そうね。その後、ローズマリーの入浴剤を入れたお風呂で身体の芯まで温まってふかふかのベッドでぐっすり眠りたいわね」
「一度でいいからそんな夜を過ごしてみたかったな…」
希望を膨らませる2人だったが、その虚しさから表情に笑顔は無かった。
再び絶望が支配する。
「追ってに見付かって射殺されるか、捕まって政府に死刑台送りにされるか、このスラムで野垂れ死にするか…。っはぁ!全く、何でこうなっちゃったのよの…」
「神様ぁ…まだ死にたくないよぉ…。生きる為に必死だっただけなのに、こんなのってないよぉ…」
やがて2人の目からは涙が溢れ出して来た。
絶望的な状況に加え、空腹と寒さが精神に追い討ちを掛けていた。
今にも崩壊しそうなその精神をギリギリのところで保ちつつ、2人は静かに泣き続けた。
すると突然、鮮烈な光が2人の姿を照らした。
眩しさと驚きから咄嗟に顔を背け体を縮める2人。
恐る恐る光が向かって来る方向に目を向けると、それは大型の車から放たれるヘッドライトだった。
「誰っ!?誰なの?」
「み、み、見付かったの?うそ…そんなぁ…」
状況を把握出来ない2人がパニック状態に陥っていると、光を放つ車から降りて来たのは特徴のある声を宿す男だった。
「希望を運んで来たぜ!」




