8人目の囚人ミトンは何故か刑期2年!?
突然所内に響き渡ったブザー音と共に新たな新人の存在を告げたイロヨク。
イロヨクはエヴァンスと女囚達をその場に残して1人刑務所の正面門へと赴いた。
約5分程して戻って来たイロヨクはその横に1人の少女を連れていた。
「こいつだ」
その少女は他7人の女囚達と同じ様にオレンジの囚人服に身を包み強い不安を感じている様子で周囲をキョロキョロと見回していた。
他の女囚達が一斉に視線を送る中、イロヨクがその少女を紹介する。
「こいつは”ミトン”だ。今日からお前達と同じ釜の飯を食う仲間だ。仲良くしてやんな」
連れて来られた少女は”ミトン”という名だった。
7人の女囚達が不思議そう互いの顔を見合わせる中、元マフィアのボスだったブラックが問い掛ける。
「随分とビクついた小娘だねぇ。とても大罪人には見えないが、一体何したってんだい?お嬢ちゃん」
「え…えと…」
口篭るミトン。横に立つイロヨクが助け舟を出す。
「窃盗罪だとさ。余罪含めて刑期は2年。まぁ短い共同生活になるな」
「窃盗罪??」
「2年?」
「…」
それぞれが疑問の声を上げた。
エヴァンスもまた、その罪状と刑期に対し強い違和感を覚えている様子だった。
「おいおい、ここは極悪犯専用の秘密刑務所だろ?なんだそんな小物がここに移送されて来たんだよ?」
「さぁな。お上のお達しだ」
「その小娘も政府の仕事を請け負うのかい?」
「いんや。そうは聞いてない」
「じゃ何でやねん?」
「細かい事は気にすんな。別に邪魔になる訳じゃないだろ?普通にしてりゃいいんだよ。くれぐれも苛めるんじゃねぇぞ?」
するとイロヨクは先程と同じ要領で他7人の女囚達をミトンに紹介し終えると場の解散を告げた。
イロヨクとエヴァンスは共に監視室へ、8人の女囚達はその場に残り近くにある椅子を寄せ合ってミトンを中心に腰を下ろした。
怯えながら周囲の様子を伺うミトンに対し元敵国女兵士のカイリキが声を掛ける。
「そうビクビクすんなよ。別に取って食いやしないよ」
「あ…はい。宜しくお願いします」
ブラック、そして元武器承認のチャイナも続けて声を掛ける。
「しっかし何でアンタみたいな小娘がこんな所に?」
「わ、私にも分からなくて…」
「年はいくつだい?」
「えと、多分17か18です」
「多分?」
「私、捨て子で。生まれた時からスラムで育ったんです。だから自分の誕生日とか知らなくて」
ささやかな同情の念がその場を覆った。すると元心理学者のサイコロが口を開いた。
「まぁええんちゃう?友達増えた思たらええやん。見た感じ悪い子じゃなさそうやし、何か隠し持ってるサインも見られへんで」
「お前が言うなら間違い無いねぇ」
「そういやぁ、ミトンだっけ?名前。ここじゃ皆ニックネームで呼び合うんだ。アンタもニックネーム決めたらどうだい?」
「あ、いえ。私はミトンのままでいいです。ミトン自体がニックネームみたいなもんですし」
「どういうことだ?」
「捨て子だから勿論本当の名前なんて無いし、ミトンってホラ、「親」指だけが離れてる二股の手袋の事なんです。親から捨てられた私にはお似合いの名前ってことです」
「…」
再び静かな同情が広がる空間。
ほんの少ししてカイリキが高らかに笑い始めた。
「あっははははは。面白い子だねアンタ。その自虐気に入ったよ」
続けてブラックとチャイナも朗らかな笑顔を見せる。
「流石はストリート育ちだ。世渡りってもんを分かってるねぇ」
「まぁ始めは慣れない事もあるだろうけど、直に都になるさ」
「あ、ありがとうございます!」
「私はハッカー。宜しくね」
「うふ、うふふふふ。お友達…お友達…」
「マッドです。宜しく」
「はい、宜しくお願いします」
和やかな雰囲気が8人を包む中、監視室に戻ったエヴァンスはひとり難しい表情を浮かべていた。
「…何故軽罪の彼女がここに移送されて来たんだ?イロヨク、移送勧告の際、政府は何か特別な事を言っていたか?」
「ん~?いんやぁ別にぃ」
「彼女は2年で出所だと言ったな?彼女がここを出た後、この場所の秘密を口外するリスクは考えてるのか?」
「そりゃー、誓約書でも書かせてんじゃねぇの?」
「そもそもどうしてわざわざこんな所に移送する必要がある?」
「おいおい、いちいちそんな難しく考えんなよ。言ったろ?波風立てず俺達はお上の言う通り業務を全うすればいいんだよ。余計な詮索はしない方が身のためだぜ」
「しかし…」
「そんなことよりよ、見たか?あの胸、Dはあるぜ!年齢とスラム出身ってことならほぼ間違いなく天然モンだろう。ひゅ~、たまんねぇぜ~」
「…」
エヴァンスにはイロヨクの下衆い言葉は届いていない様子で沈思黙考という状態だった。
「そう堅苦しく考えんなよぉ!それにホレ、見ろこれを。死角の無い監視カメラが24時間見張ってる。あの小娘が何か不穏な動きを見せたら即取り押さえりゃいい」
「…確かに見たところ死角は無さそうだな」
「おうともよ。房の中は勿論、風呂やトイレもバッチリよ!着替えだって覗き放題さ。ズーム機能だってあるんだぜ。毛穴から乳首の色まで何でもお見通しって訳よ。この仕事も悪くねぇだろ?」
「…」
イロヨクの下世話な冗談に応じること無く、エヴァンスはひとり腕組みをしながら思考に耽り続けるのだった。