もう1人のはぐれ者
監視室でそう呟いたエヴァンスは他の2人を残し表に止めていた車のエンジンをふかし何処かへ走り去って行った。
数時間後エヴァンスが辿り着いたのは、荒廃した雑居ビルた立ち並ぶいかにも治安の悪そうな場所だった。
車を降りたエヴァンスはとある雑居ビルにゆっくりと歩みを進めて行く。
その建物の入り口には2人の男が座り込み、近付いて来るエヴァンスを品の無い表情で睨み付けている。
「誰だてめぇ?」
立ち上がり睨みを利かせる2人に対し一切怯む様子を見せないエヴァンスは2人に向かって言い放った。
「ザキは居るな?エヴァンスが来たと伝えろ」
「あぁ?んだとコラァ?」
見張りらしき1人の男がエヴァンスの胸ぐらを掴みかかった瞬間、エヴァンスはその男の腕に関節技を極めた。
「イダダダダダッ、やめろぉぉっ!!!はっ、はっ、離せてめぇぇぇえ!!!」
「てっめぇ、コノヤロウォォ!!」
エヴァンスが右手で最初の男を腕を極めつつ、襲い掛かってきたもう1人の男の拳を左手で受け止め隙の出来た相手のみぞおちに膝蹴りを打ち込む。
「ぐあぁっ!!!げほぉっ、がっ、げぇぇっ、がはっ、がはっ!!!」
苦しみにのた打ち回る男を横にエヴァンスは関節を極められ痛みに悶える男に睨みを利かせ言い放つ。
「こちらには時間が無い。今すぐに会わせろ。さもなくば指を折る」
「あぁぁっっ!!んっだぁコラァァァ!!やれるもんならやってみろクソがぁぁぁ!!!」
「分かった」
”メキャ”
「ぎやぁぁあぁぁぁ!!!!」
あっさりと返答を返し宣告通り相手の指の骨を折ったエヴァンス。
男は必死に体を揺さぶり極めから脱出しようとするも完璧に極まったエヴァンスの腕を振り払うことは出来ずにいた。
痛みに悶える男に対しエヴァンスが決まり文句を放つ。
「人体にはおよそ200の骨がある。今から1本ずつ折り続ける。無論首は残しておく、死なれては困る。全身の骨を折られても案内しない場合は両耳を千切り取る。次は片目をえぐり抜く。そこからは…」
「あぁぁぁぁぁ!!!分かった!分かったから止めてくれぇぇ!!!連れて行く!連れて行くから頼むから離してくれぇぇぇ!!!」
エヴァンスは男の手を離すと、横でうずくまる男を蹴り上げ”ザキ”という男の場所への案内を改めて強要した。
3人は薄暗い雑居ビルの地下階段を降りて行き、見張りの男2人が錆だらけのドアを開けると、そこには部屋の奥中央にある高級ソファに大の字で座るガラの悪い男が居た。
「おぉ~?これはこれは…随分と珍しいお客がいらしたもんだぜぇ~…」
「…」
金髪のオールバック、黒ずくめの服装にエヴァンスにも引けを取らない程の筋骨隆々の体付きをしたその男は両サイドに派手目な女性をはべらせていた。
「で~?こんな所に何か御用ですかい?エヴァンス”隊長”…いや、今はただの歯牙無い看守だったかなぁ?」
「単刀直入に言う。女2人、海外へ飛ばす手配をしろ」
「あぁ?なんだって?」
「言った通りだ。それ以上の詳細は不要だろ。出来るのか?出来ないのか?」
「おーいおい。久々に面ぁ見せたと思ったら手土産も無しに海外だぁ?ヤベェ薬でもヤッてんのかよ?」
「こっちには影で裏の人脈を動かせる元マフィアのボスが居る。取り引き条件として彼女に俺から口添えを図る。どうだ?」
「…あぁ?どうだって?」
「答えろ!どうなんだ?出来るのか?出来ないのか?」
エヴァンスが”はぐれ者”と称したザキと名乗る男は探りを入れる。
「…目的は何だ?」
「時間を稼ぐ必要がある。ある事件を追ってるがその2人が敵の手に落ちれば全ては終わりだ。暫く身を隠してもらう必要があるんだ」
「…」
ザキという男はポケットから葉巻を取り出し先端を噛み千切った。
それを咥えて火を点けると突然ポケットから銃を取り出しエヴァンスに向けた。
周囲に緊張が走る。
「!!」
「…本当に俺が引き受けるとでも思ったのか?お前に隊を追い出されたこの俺が」
「…っく」
エヴァンスの表情が一気に歪み、その拳は強く握られた。
「この俺に持ちかけるってこたぁ、まぁ随分と追い詰められてる状況って訳だ?心中察するぜ、エヴァンス”元”隊長。SHRTの元隊長ともあろうお方が裏者に取り引き持ち掛けに来るたぁな。悲運クセは未だに治ってねぇのか?」
「きっ、貴様!」
「おいおい、そう怖い顔するな。同じはぐれ者同士、仲良く乾杯するってのも悪くねぇと思ったのによぉ」
「戦場で殺しを楽しんだ上、押収品を横流しした貴様と一緒にするな!」
「アンタとこんな所で哲学答弁する気は無ぇが、いい加減そのふにゃけた頭を何とかしたらどうだ?俺達がいたのは戦場だぜ?楽しむ位の勢いがなきゃこっちが寝首かかれてたところなんだぜ」
エヴァンスは腰に刑務用の銃を携えてはいたが、ここでザキとやり合っても意味が無い状況を読み取りその銃を抜けずにいた。
「失せな」
「!!」
「アンタに戦場で何度も命を救われたのも事実だ。それに敬意を表して今日だけはこの引き金を引かないでおいてやる。分かったらさっさと失せろ!」
一切取り合う様子を見せないザキを見てエヴァンスは肩を落とした。
成す術を無くしたエヴァンスは悔しさに打ち震えながらその場をそそくさと後にするのだった。