絶望と振り出し
突然スラム街に現れた武装集団はマザーの寝床である建物に侵入し見張りのスタッキーを撃ち殺すと次はマザーの腹を撃ち抜いた。
「マザー!!!」
「逃げてぇぇ!!!」
「こっこっちだぁ!!!」
叫び声が交差する中、マザー先導の元で3人は建物の奥に逃げ込んだ。
追って来る武装集団。
マザー達は地の利を利用してギリギリのところで武装集団追跡から逃れ続ける。
「行動を読まれてた。待ち伏せされてたんだわ!」
「マザー!マザー、しっかりしてぇぇ!!」
「うぅぅ…こっちだぁ…」
痛みと出血に苦しむマザーは建物の隠し扉の中へと2人を誘導し内から鍵を閉めた。
灯火程度の明かりを点けると、マザーはそんの場に倒れ込んだ。
「マザー!マザー!」
「ううぅぅ…」
マザーの呼吸は酷く荒れていた。
撃たれた腹部から溢れ出る鮮血の量がその重症を物語っていた。
そんな中マザーは自身の手を握るミトンに対し最後の力を振り絞って言葉を発し始めた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、い、いいかい?よく聞くんだぁ…そこの扉から出られる…。何とか2人で逃げ切るんだ…」
「マザー!いやっ、そんなっ、嘘でしょ?やめてっ、お願い、しっかりしてぇ…。マザァ…うぅっ…」
自身の死を悟り2人に託すマザー、目から涙を溢れさせながら強くマザーの手を握るミトン、それを悲痛な表情で静観するハッカー。
時を追うごとにマザーの息は段々と弱々しくなっていく。
「ミ…ミトン…。だっ、誰が何と言おうと、お前は、私の娘だ…。だけどねぇ、お前が初めてここに来た時…お前を…」
その言葉を最後にマザーの鼓動は止み、その呼吸は神へと返された。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ミトンの叫びにも近い泣き声が隠れ部屋の中に響き渡る。
マザーの顔を抱き酷く嗚咽しながら泣き続けるミトン。
ハッカーはそんなミトンの後姿を眺めながらやり切れない気持ちになっていた。
しかし猶予よ許さない状況を悟りハッカーはミトンの体を無理矢理引き起こす。
「立って!逃げるのよ!」
「やだぁっ、やだよぉ…マザァァ…うわぁぁぁ…」
「しっかりして!マザーはアナタに生きてほしいと願ってるはずよ!気持ちは分かるけど、今は逃げるしかないの!ホラ、立って!!」
「うぅぅぅぅ…」
やがてミトンはハッカーに引き起こされ、後ろ髪を引かれながらもマザーをその場に残し指し示された出口へと向かった。
外の音と様子を伺いながらゆっくりとドアを開けるハッカー。
周囲に敵影が無い事を確認すると一気に外に向かって走り出した。
すると、
「いたぞぉ!!」
「はぁ!!!」
遠方から5人の武装兵が姿を現した。
銃をこちらに向けながら早足で前進してくる武装兵達。
「中に戻りましょう!」
「駄目よ!追っ手が来る!こっち…っは!」
やがて2人の左右にもそれぞれ2人の武装兵が姿を現した。
4方挟み撃ちにされた2人は絶望に表情を染める。
「そっ…そんなぁ…」
2人が今にもその場にへたり込みそうになった、その時、
”キキィィィィィィ”
「!!!」
迫り来る武装兵の背後から1台のバンが猛スピードで2人に向かって走って来た。
そのバンは銃を乱射してくる武装兵達を軒並み倒しながら2人への距離を詰めた。
そして2人の目の前に辿り着くと、車の中から救済の声が届いた。
「乗れ!!!」
運び屋タッカーに言われるがまま、2人は大急ぎでバンに乗り込んだ。
「いよぉっしゃ!頭下げてなお譲ちゃん達ぃ。飛ばすぜぇ!」
タッカーは怒涛の勢いでハンドルを切ると再び車を猛スピードに乗せ始めた。
4方から集まってきた武装兵達の銃撃をその車体に受けながら見事なハンドル捌きを見せるタッカー。
その勢いからミトンとハッカーは車の中であちこちに体を打ち付けられながら悲鳴を上げる。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
次々と被弾する車体。しかし防弾仕様であるその車は銃弾を車内に通す事はなかった。
「ちっくしょぉぉ。このタッカー様の愛車に傷を付けやがって、覚えてやがぇれ!!今度会ったらそのケツに終戦記念の特大メダルを突っ込んでやるからなぁぁ!!!」
タッカーはその表情にも怒涛を広げペダルを踏みハンドルを回し続ける。
追ってくる敵の車をも見事に巻き切ったタッカーは窮地を脱しアーカエ地区から無事2人を運び出したのだった。