収監されている政府認定の極悪女囚達
新人看守エヴァンスはイロヨクに連れられとある部屋に辿り着いていた。
そこはテニスコート半分程度の広間で部屋中央にはいくつものテーブルが繋ぎ合わされ設置されており、その上には軍仕様と思われるいくつもの精密機器や通信機器、実験用と思われる化学機器等が置かれていた。
そして広間を囲う壁には一定間隔で牢獄が配置されており、その中からはそれぞれ人影が見え隠れしている。
「よーし、お前達。集合!」
突然部屋中に響き渡る声で集合を呼び掛けたイロヨク。
その声に反応した囚人達は次々と自身の牢獄の中から姿を見せ2人の前に整列していった。
「よし、全員だな」
2人の前に並んだのは7人の東西老若女達。
その女囚達は初めて見るエヴァンスの姿を見てとても気になっている様子を見せていた。
「突然だが、今日から新しい看守が加わる事になった。お前達にも紹介しておく」
ざわつき始める7人の女囚達。
エヴァンスは特に物怖じした様子は無く、7人それぞれの姿形を観察している様子だった。
「エヴァンス、こいつらがそうだ。右から一人ひとり紹介していく。まずはこいつ、”ブラック”だ」
イロヨクは正面向かって一番右に立つ恰幅のいい黒人の中年女を指差した。
「あ、そうそう。ここじゃ皆ニックネームで呼び合ってんだ。素性含めお互い余計な情報は共有しないためにな」
「成る程」
「改めて、こいつは”ブラック”。巨大マフィア組織のボスだった女だ。裏社会の情報をリークさせたり操作に協力させてる。地元の掃き溜めみてぇなムショからここに移送させる条件でな。懲役104年だ」
ブラックと呼ばれた黒人の女はその体格通りにどっしりとした物腰で佇んでいた。
「アタシのファミリーには一切手出しをさせない。この条件忘れんじゃないよ?」
「分かってるよ。その代わりあんまり派手な動きはさせんじゃねぇぞ?」
「っふん」
「よし、次。隣の東洋ババアは”チャイナ”。元武器商人だ。ブラックと同じで主に情報のリークと兵器調達に際してアドバイスをさせてる。知識と精通度合いは相当なもんらしい。軍から言わせりゃ喉から手が出る程欲しい人材だとさ。懲役156年。施設移動を条件に司法取引」
「何度も言わせるんじゃないよ。私は台湾人だ。中国人じゃない」
「どっちも一緒だろ」
「っはん」
チャイナと呼ばれた中年の東洋女は不服そうに息を吐いた。
「次。こいつは”アート”。名前の通り芸術家だが相当イッちまってる奴だ。インスピレーションのためだとかいって何人も殺してる。だがイカれた金持ち連中にファンが多くてな。作らせた作品をオークションに掛けて出た利益を政治献金に当ててるそうだ。終身刑」
「ひ、人は生きてる限り希望を失う事は出来ない…。死の淵に立たされた人間が絶命を確信した時、その目からは全ての光が消えるわ。その暗闇の中に本当の光が見えるの。うふ、うふ、うふふふふふふ…」
「なっ。相変わらず気持ち悪ぃ野郎だな…」
「…」
腰元まである長い黒髪は顔の殆どを覆っていたが、その隙間から辛うじて見えるのは据わり切った瞳。
表情全貌は明らかにならないまま両手をもじもじとさせながらか細い声で不気味な事を発すアートと呼ばれる若い女。
エヴァンスはそんなアートを眺めていたが、その表情に一切の乱れは無かった。
イロヨクはひとつ咳払いをし紹介を続ける。
「ウォホン!じゃ次。こいつは”サイコロ”。元心理学者兼精神科医だ。サイコロジー(=心理学)から取ってサイコロ。研究のためだとか言ってメンヘラ連中相手に実験してやがった。何人もビルの上から飛び降りさせた上、自分の裁判においちゃ関係者を心理操作しようとした。懲役256年」
「アレ惜しかってんなぁ~。もー少しで執行猶予付きの判決までもっていけそうやってんけどなぁ~」
「ご覧の通り反省ゼロだ。こういう奴だからお前も気を付けろよ」
「…」
ツインテールの若い女はサイコロを呼ばれた。
陽気な表情で甲高い声を上げるサイコロをエヴァンスはやはり無言のまま眺めていた。
「次。そこのオールバックは”カイリキ”だ。元敵国のテロリストだ」
「テロリストじゃない!聖戦の戦士だ!」
「はいはい、分かった分かった。ちょっと黙ってろ。こいつぁウチの軍隊が制圧に赴いた時に捕虜にした奴だ。表向きは戦場で死亡した事になってる。国連裁判に掛ける事を免除する代わりにココに移送されたって訳だ」
「!」
先程迄一切表情にぶれを見せなかったエヴァンスがこの日初めてその表情を動かした。
紹介された”カイリキ”の姿を見ていたエヴァンスは途中明らかに何かに気付いた様な表情を見せ、その目は大きく広がっていた。気付いたイロヨクが声を掛ける。
「ん!?どした?」
「…あ!…いや、何でもない」
「ん?そうか?大丈夫か?」
「あぁ。大丈夫だ。続けてくれ」
「あぁ。あーそうそう!こいつぁ名前の通り馬鹿力だ。お前も殴られない様気を付けろよ」
「そりゃテメェがアタシらにセクハラしやがるからだろうが!」
「何だよ。毎晩ムラムラが収まらないお前達に唯一の男である俺様が親切心でやってやってるってのに。素直になれってんだよ」
「くたばりやがれ!」
「はいはい。んじゃ次。そこのチビは”マッド”だ。つまりマッドサイエンティスト。天才科学者って言われてたらしいが裏で違法な人体実験をしてた。懲役101年。無口で暗い野郎だ」
ストレートのロングヘアー携える小柄で若い女は”マッド”と呼ばれた。
イロヨクの紹介通り何も言葉を発する様子は無くどこか冷ややかな表情を見せていた。
「んじゃ最後!コイツは”ハッカー”。元国家諜報部員。国の機密データベースに不法アクセスを繰り返してた。反逆罪で死刑囚だ」
「よ、宜しく…」
ミディアムな長さとぱっつんにした前髪の女は”ハッカー”と呼ばれた。
鋭い目付きとキリッとした顔付きながらマッドとは違うどこか暗く悲し気な表情を見せていた。
「お前達、コイツはエヴァンス。さっき言った通り今日からここの看守業務に就く事になった。まぁ仲良くしてやってくれ。いいな?」
イロヨクが改めてエヴァンスを紹介すると、女囚達から黄色い声が飛び始めた。
「へぇ。色男じゃないか!白人にしとくにゃ勿体無いねぇ」
「いいガタイしてんな!軍人だったのか?」
「新しい環境でこれだけの初対面異性目の前にしてんのに瞬きの数めっちゃ少ない。かなりメンタル強いで。多分、外思考タイプやな」
「あ、貴方の瞳、とても真っ直ぐ。だけど奥が見えない…。とても奥ゆかしい魂…。うふ、うふ、うふふふふ…」
紹介を受けたエヴァンスはベルトに手を置いたまま堂々とした物腰で佇んでいた。
女囚達からの黄色い声援にも特に反応を見せずその表情は堅硬なままだった。
「エヴァンス。お前も何かひと言言ったらどうだ?」
「…」
エヴァンスは少しの間を置き言い放った。
「エヴァンスだ。宜しくな」
「…!」
何気無いひと言だった。
しかしその威風堂々とした存在感から放たれた重圧感のある声は7人全ての女囚達の心にずしっと響くものを轟かせていた。
息を呑む女囚達。すると突然、刑務所内にブザー音が鳴り響いた。
「何だ!?」
聞き慣れない音に反応を見せる女囚達。するとイロヨクが何かを思い出した様子を見せた。
「あ!そうそう、忘れてた。今日はもう1人新人が入って来るんだった」
「!」