「それならダブルチーズバーガーにしな」
ミトンが放ったひと言に2人は注目した。
「”マザー”?誰だそれは?」
「私が居たスラム地域の元締めの人。捨てられた私を赤ん坊の頃から育ててくれた母親代わりの人」
「その人なら何か知ってると?」
「分からない。でも情報には精通してるし公式に出回らない様な情報もマザーには集まる。もし私自身が気付かない秘密を握ってるなら小さい頃から育ててくれたマザーが何か知ってるかも」
「…成る程。会ってみる価値はあるな。その人はどこに居る?」
「アーカエ地区」
「…遠いな。ここから400kmは離れている。歩いて行ける距離じゃないし、流石に俺もそこまで遠くに離れる訳にはいかない」
「車を借りれない?私が運転するわ」
「免許を持たない脱獄犯じゃ危険過ぎる。検問や交通パトロールにでも遭ったらそこで全ては終わりだ」
「…じゃどうすれば」
するとエヴァンスは椅子から立ち上がり2人に待機を命じた。
「よし。俺は一旦刑務所に戻る。2人は無線で指示があるまでここで待機しておいてくれ」
「え?…でも、どうするの?」
「連絡を待て」
そう言い残したエヴァンスはあっけに取られる2人を残し、颯爽とその場を後にするのだった。
1時間後、車で刑務所に戻ったエヴァンス洗濯室でシーツを洗うブラックと会っていた。
「ブラック、様子はどうだ?」
「あぁ。1人ぼっちになっちまった以外は特段変わりないよ。襲ってくる気配も無いしねぇ。しかし身の回りのこと全部1人でこなすハメになっちまった。こりゃ政府の仕事してる方が何倍も楽だねぇ」
「施設の復帰はまだ先だろう。仕事の再開命令が下る際には人員の確保は交渉する」
「そうかい。宜しく頼むよ。…それで?何か用かい?」
「ん!?あぁ…実は頼みたい事がある」
「脱獄”させた”2人のことだろ?」
「!!?」
エヴァンスはブラックからのひと言に大きく驚いた。
その様子をブラックは横目でニヤニヤと眺める。
「この私に隠し通せると思ったのかい?10年早いんだよ、ひよっ子が!」
「…」
エヴァンスは黙り込みじっとブラックの様子を伺っていた。
「安心しな。私も出せなんて言わないよ。ここの生活は気に入ってんだ。見ての通り通り鬼ごっこは苦手でね。下手に逃げて撃ち殺されるなんてのは真っ平御免だよ」
「そ、そうか…。それは良かった」
エヴァンスはブラックが不平不満を感じていない様子を見てほっと肩を撫で下ろした。
交渉を始めるエヴァンス。
「その事だ。今回の事件の鍵を握るかもしれない人物の元へあの2人を安全に送り届けたい。場所はアーカエ地区。運転手が要る。適任者はいないか?」
「2人は無事なのかい?」
「今は近くの隠れ家に身を潜めてる。暫くは安全だがそう長くは持たない」
「そうかい…。運転手、心当たりはあるねぇ。だがまぁ勿論タダってこたぁ無いだろねぇ?」
「…何が望みだ?」
「そうだねぇ~。それじゃぁ今晩辺りお前さんに夜伽でもしてもらおうか?」
「!!」
ブラックはその巨体な黒い肉体をエヴァンスに摺り寄せ艶かしい表情を見せた。
エヴァンスの顔が引きつる。
「…ほっ…他の条件は無いか?」
ブラックはからかい気にイタズラな表情を浮かべながらニヤニヤと笑い出した。
「ひぃっひひひひひ。つれない男だねぇ~。まぁいいさ。それじゃこれから夕飯には必ずチーズバーガーとドーナッツを追加しな。それで手を打とう。どうだい?」
「…週いちだ」
「それならダブルチーズバーガーにしな」
「…いいだろう」
「交渉成立だね。で、いつ送る?」
「今すぐだ!」




