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取引極悪犯女子刑務所  作者: レイジー
28/53

「マザーに会いに行こう」

「…ん!おっと…失礼」

「エッ、エッ、エヴァンスさぁん…」


 扉の鍵を開けて姿を現したのは今回の脱獄計画の発起人である看守のエヴァンスだった。

その登場に大きく肩を撫で下ろした2人はその場にへたり込んでしまった。

エヴァンスは中に入りすぐにドアの鍵を閉める。


「エッ、エヴァンスさん…脅かさないでよぉ…」

「本当に!みっ、見付かったかと思ったぁ…」

「あぁ、済まない。取り合えずハッカー、服を着ろ」

「へぇっ…?あぁ、えぇ…」

「わ、私も先にシャワー浴びていい?」

「あぁ」


 ハッカーは抜けた腰に何とか力を入れ立ち上がり、着替え一式を手に取りトイレへ入って行った。

ミトンもまた棚から取った着替えを持ち浴室へと消えて行き20分後、身体を洗い終え新しい服に身を包んだミトンがリビングに戻って来た。

テーブル席にはエヴァンスとハッカーが既に腰を下ろしていた。


「2人共、無事でよかった!」

「命辛々だったわ…。助けてくれてありがとう!」

「いや、いいんだ」

「でも予定ではここに来るのはもっと後のはずじゃ?」

「混乱状態に乗じて思ったより自由に動けた。だから早めに来たんだ」

「そっか!…でも大丈夫なの?昨日の今日でしょ。貴方を怪しんでる人がいれば後をつけられているかもしれないじゃない?」

「心配するな。その手の事には慣れてる。現時点では追っ手は無い」

「そう。ねぇ、この家は一体何なの?本当に安全なの?」

「軍が設けてるいくつかの極秘中継基地だ。近くにあってよかった。武器の補充や休息、応援部隊との合流などに使われる場所で地図にも載らない。ここの存在を知ってるのはほんの極一部の人間だけだから暫くは安全だが、そういつまでもは居られない…」


 エヴァンスの口振りを見て改めて不審に思ったハッカーが問い掛けた。


「…貴方、一体何者なの?」


 そしてエヴァンスは自身が元SHRTサートの隊長だった事を明かした。


「サート!?貴方が?」

「元政府諜報部員なら存在くらいは知ってるだろ?」

「勿論よ。情報を担当したこともあったわ。でも本人と会うのはこれが初めて」

「エヴァンスって、本当スゴイ人だったんだね!」


 昔話もそこそこにエヴァンスは話題を切り替え本題に触れ始めた。


「取り合えずの時間稼ぎは成功。だが猶予は不透明だ。これからどうするか…」


 重苦しい空気が3人を包む。


「国外に逃げられたりしないの?ホラ、映画とかでよくあるじゃない?」

「…ツテを当たってはみるが、可能性は低いな」

「まって!その前にもっと重要な事があるでしょ?」


 ハッカーが場の空気を制す。注目する2人。


「ミトンよ!彼女の事を深く調べないと。奴等の目的が彼女なら手掛かりは必ずそこにある!」

「あぁ…それはそうなんだが…」

「ねぇミトン?本当に何も隠してないの?」


 ハッカーがミトンに詰め寄る。


「だから隠してないって!何度も言うけど私はただのコソ泥。いつも盗んでたのは食べ物とか小銭程度。伝説の大泥棒でもあるまいし、国宝級のお宝を盗んだ覚えなんてないわよ!」

「本人が気付いてないだけかも?」

「いや。もしミトンが盗んだ何かを政府が取り戻したいならイロヨクに対し暗殺命令なんて出さないはずだ。彼女が生きていては困る理由があると考えるのが妥当だろう」

「じゃぁ…何か秘密を知っちゃったとか?本人も気付いてない何かを」

「可能性はあるが、それを突き止めるのは現実的じゃないな」

「とにかく!細々した理由で政府がここまでするなんて絶対に有り得ない。ミトンは何かの秘密を握ってる。政府が爆弾や殺し屋を手向ける程血眼になる程の理由が。ミトン、どんな小さなことでもいいから何か心当たりは無いの?」

「そっ…そんなこと言ったってぇ…」

「奴等は手段は選ばないわ。それが今の実権政党である革命党のやり方よ。犯人がその革命党内部の人間なら、そいつも必ず強硬手段に打って出るはず!」

「…そういえば君は政府の悪政を探ってたと言っていたな。革命党はそんなに激しい連中なのか?」

「死刑囚を使い回す施設を設ける様な政党が他のことを全部クリーンにやってると思う?国を救うって大義名分を盾にして裏ではやりたい放題よ。武器とか麻薬の押収品を横流しするなんて可愛いもの。国際協定において利益が出る様に意図的に戦争を引き起こす様な真似だってしてるよの」

「何ですって!?」

「最近の老人ホームや障碍者施設の立て篭もり事件は知ってるわよね?アレは口減らしのために政府が裏で雇ったテロリストにやらせてるの。障碍者、寝たきりの老人、植物状態の患者、生産性を生み出せない人達を次々殺していってるわ」

「そ…そんな!酷い…」

「奴等は”姥捨て山計画”って言ってたわ。東洋の島国に昔実在した制度。そうやって医療費や年金、福祉費用を削るまでして革命党は強制的に国力を回復させていったのよ!」

「…そこまで」


 ミトンは勿論、エヴァンスもまたハッカーの話に心痛な面持ちを見せていた。

するとハッカーは不意に時計に目をやり立ち上がった。


「丁度いい時間だわ」


 ハッカーは近くに置かれているリモコンを取りテレビをつけた。

画面に映ったのは勇ましい姿で政権放送を行う2人の男性議員だった。


「白髪で細いヒゲの男がニルガン、七三分けで恰幅のいいのがドドノ。この2人が事実上の2大権力者よ。施設の事もこの2人は知ってるはず」

「この2人が犯人なの?」

「それは分からない…」


 テレビ映像には演説を行う2人に対し、高々と手を挙げ声援を送る多くの民衆が映っていた。


「…こいつら表向きは国の英雄よ。国民は狂気的な信者。下手に動きがバレたらこっちが殺される…」


 すると突然エヴァンスがハッカーに対し意外な角度から話を切り込んだ。


「ハッカー。政党の中では誰が信用出来る?」

「え…?」


 ハッカーは目を剥き固まった。


「君は政府の悪政を暴き内部告発するつもりだったんだろ?それならもみ消されない様に告発する相手を絞っていたはずだ。誰が信用出来る?」

「えぇ…えぇっと、そ、それは…」


 ハッカーは明らかに気まずそうな様子でたじろいでいた。

エヴァンスは不思議そうにその様子を見つめる。


「人脈を確保しないままスパイしていたのか?一体どうして?」

「えっ、いや…そ、それは…」


 するとエヴァンスは何かに気付いた様子を見せた。

呆れ顔で溜め息を漏らすとハッカーの思惑を見事に指摘する。


「…さては、仕入れた情報を敵対政党に売るつもりだったな?警察や裁判所じゃなく、金儲けに走ろうとしたのか?」

「うぅ…」


 ハッカーは人差し指の先同士を小突かせながら後ろめたさを顔に滲ませていた。

細々とした声で言い訳を始めるハッカー。


「せ…政府の諜報部員なんて言ってもそう華やかじゃないの。報酬に見合わない仕事をさせられてたし、功績を挙げても認められないことなんかも続いて…。私はもっと望んでいいと強く思う様になったら魔が差して。悪事を暴くのは世間のためになるって自分に言い訳も出来たことも重なって、その…」


 エヴァンスは再び溜め息をついた。


「…ふぅ。これからの作戦に君を加えるかはきちんと考える必要があるな」

「まっ、待って!はっ、反省してるわ、本当よ!今となっては何て馬鹿なことしでかしたんだろうって深く反省してるの!こんな状況だしお互い生き残るために協力は必要でしょ?私の力が役に立つことだってきっとあるはず!信じて、協力させて!お願い、見捨てないで!」

「…」


 エヴァンスは必死に弁明をするハッカーはじっと見ていた。

そして試す様に提案を差し出す。


「君は情報技術家なんだろ?警察がミトンを逮捕した時に諮問やDNAが採取されたはずだ。そこに手掛かりがあるかもしれない。データベース上に侵入して閲覧出来ないのか?」

「…ここじゃ駄目よ。仮にスペックの高いコンピューターがあったとしても、きちんとしたセキュリティで守られたネットワークからアクセスしないと直ぐに居場所がバレちゃうわ」

「…ふぅ。さてどうしたものか…」


 すると突然、口を噤んでいたミトンが意外な提案を小さく呟いた。


「マザーに会いに行けば…」

「!?」

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